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2021年2月8日 第7078号

【主な記事】

組織風土の改革を
[JP改革委]顧客本位の業務運営へ

 第8回JP改革実行委員会(山内弘隆座長)が1月29日に開かれた。委託されていた「郵政グループの内部通報窓口・その他各種相談窓口の検証」と「ゆうちょ銀行のガバナンスの検証」、提言を求められていた「日本郵政グループの成長戦略」がまとまり、報告や意見交換があった。日本郵政の増田寛也社長は「3件はどれも身に染みるものばかり。各社社長も出席しており、議論や発言内容を受け止めて今後に生かしたい」と述べた。

 内部通報窓口は社員視点の制度に
 郵政グループの内部通報窓口・その他各種相談窓口の検証は、横田尤孝(ともゆき)委員(青陵法律事務所・弁護士)が担当した。報告書は29ページ。昨年8月下旬から1月20日にかけて、グループ内の49の内部通報・相談窓口を検証した。
 窓口を機能ごとに分類し、課題や整理・統合の有無までを明確にしている。社員や関係者142人にヒアリング、各社の役員13人とも意見交換した。15の各社関係部署の視察も実施された。
 横田委員は根本的な課題として「窓口が会社都合の仕組みになっており、社員の視点に立った制度になっていない。手続きが透明でない」ことを挙げる。
 問題点は▽通報者や相談者保護への社員の不信感が払しょくされていないにもかかわらず、抜本的な対策が講じられていない▽正確で必要な情報が開示されていないため、利用者は問題解決のための窓口の選択が難しくなっており、利用者の要望や期待と実際の窓口のギャップが生じる恐れがある▽利用者の多様な意向の正確な把握が十分とは言えない―など。
 検証結果を踏まえ、社員が安心して通報できるよう利便性とセキュリティを備えた「ワンストップ相談・通報プラットフォーム」の構築や、中立・公正な外部専門チームが通報・相談対応を行う仕組みの設置、通報者探し・不利益な取り扱いの通報・相談を専門に扱う社外窓口の設置、ハラスメントへの相談対応や調査態勢の強化、内部通報窓口の仕組みや運用状況の定期的な点検・評価による改善の仕組みの構築などが提言された。
 検証を終えて横田委員は「今後、各社が改善策の実行を通じて、顧客の声や会社の財産である社員の声が経営に寄せられ、活用することにより、コンプライアンス経営の推進につながることを期待している」と感想を述べた。

 働く人が組織に誇りと責任を
 ゆうちょ銀行のガバナンスの検証も横田委員が行った。報告書は38ページ。同検証は不正利用のあった即日振替サービスやmijicaサービス、SBI証券の不正アクセスに関するゆうちょ銀行と日本郵政のガバナンスを対象に昨年10月中旬から行われてきた。
 ゆうちょ銀行と日本郵政の社員、関係者ら24人にヒアリング。両社の取締役や執行役20人と意見交換した。エリア本部や貯金事務センター9か所も視察した。
 問題点として、即日振替サービスやmijicaサービスは▽顧客の苦情を正確に収集・分析し、速やかに対応し、経営に活用する仕組みに不備があった▽預金者保護に向けた適切なサイバーセキュリティ対策を講じていなかった▽内部統制としての情報伝達に不備があった▽顧客の信頼や社会的信用が毀損されるおそれのある事象をリスク情報として早期に探知し、危機管理対応に移行する態勢や手続が定められていなかった―ことなどが挙げられた。
 改善策として、真の「顧客本位の業務運営」を実現するための組織風土改革や、部門をまたいだ人事異動・交流、リスク管理態勢の強化、顧客の声を経営に適切に活かす態勢を再構築、情報伝達のルール及び責任部署を明確に定めて周知徹底すること、日本郵政の経営陣に対する報告及び関係部署との共有等を迅速に行う機能や態勢を整備することなどを提言した。
 横田委員は「組織は人に支えられ、人こそが財産。働く人が組織に誇りと責任を持つことが重要。提言を未来志向で受け取り、ゆうちょ銀行への信頼と期待に応えられるよう、一丸となり、真の顧客本位の実現に向けた、組織風土改革に期待している」と感想を述べた。
 ゆうちょ銀行の池田憲人社長は「厳しいご意見、未来志向のご意見をいただき、トップとして反省すべきことはいっぱいある。提言を真摯に受けとめ、同行の監査委員会の結果と合わせて、今後の態勢整備に役立てていきたい」と述べた。
 経営側の課題について、池田社長は「目の前の短期的な対策が終わると、役職員は時間と共に忘れていくという大きなリスクがある。サステナビリティこそが、不正利用を経験した経営陣の使命。お客さまの信頼を得ることを最優先に取り組んでいきたい」と語り、継続した取組みを約束した。

 地域ニーズに合ったサービスの展開も
 「日本郵政グループの持続的な成長に向けた提言」は、山内弘隆座長(一橋大学経営管理研究科 特任教授)が担当した。山内座長は報告の説明を前に「研究者の立場から第三者的、客観的に成長戦略の基本的な視点について提言することを目的に作成した。我々は内部の者でもなく、日本郵政グループにものすごくコミットしているわけでもない。外から見た時にグループがどう見えるかが大事だと思う。その先は会社で考えてもらいたい」と提言を位置付けた。具体的なビジネスモデルは盛り込まれていない。
 成長戦略の柱として、グループ内サービスの連携やグループ外の企業と連携により、サービスを開発する場としての「共創プラットフォーム」を提案する。同プラットフォームの構築により、全国一律のサービスだけではなく、地域のニーズに基づいたサービスも提供できる。グループ外の事業者との共同開発も視野に入れている。グループが保有する顧客の行動や取引データの活用も合わせて提案している。
 これらの地域型サービスの開発・提供に伴い、権限を本社からエリアに委譲することやエリアごとの管理会計も推奨している。
 郵政グループが持つ全国ネットワークは、遠隔の地域間に点在するニーズをつなぎ合わせるようなサービスの提供を可能にする。郵便局では帰りたくても帰れない子世代に代わって、地域をつなぐサービスも考えられる。提供中の「郵便局のみまもりサービス」は、親孝行サービスとして見直していくことも提案されている。
 増田社長は「提言にはいろんな論点が入っており、次期中期経営計画の参考にしたい。日本郵政グループは大量のデータを持っているが、デジタル化されているものとされていないものがある。郵便局長が住民との関係で得ている情報などもあり、それらをどう調理するのか。調理人はまだいない。郵便局というアナログな拠点があり、サービスに血の通ったものを組み込ませることができる。それは他との差別化にもなり、そこは我々の腕の見せ所」と新規ビジネスの今後の展開について抱負を語った。


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