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第6857号

【主な記事】

配送新時代 ドローンも視野
日本郵便が実証実験へ

 高齢化社会が進展し、物流のスピード感や安全性がより重要性を増す中で、国内でも空からの宅配サービス準備に向けた動きが活発になってきた。日本郵便は10月末、小型無人航空機(ドローン)検証に向けた委託事業者の入札を行った。内閣府地方創生推進本部も千葉市をドローン宅配の戦略特区に認定し、ヤマト運輸や佐川急便も参画しながら都市部を対象にビジネス化への研究を重ねる。各社とも無人自動車の技術にも注目しており、三事業のユニバーサルサービス義務を担う日本郵便も、新たな時代に向けて遅れをとらないような準備を進めている。

 日本郵便の「配送業務の高度化に向けた無人航空機活用検証の委託」を募集した仕様書は、調査内容と活用領域、機能と運用とともに来年2月まで地形や法律などを含んだ多面的な郵便向け無人航空機運用フローの検証など広範な知見を求めた。飛行場所は協議の上で決定、最低3キロ以上の長距離移動、4回程度のフライトを前提とした実証実験を踏まえ、課題整理と実現可能性について来年3月の最終報告を求めている。
 近年、ロボットが製造現場から日常生活まで様々な場面で活用される人工知能社会の到来を見据え、社会問題解決や国際競争力の強化を通じて新たな付加価値を生み出す社会を予測。配送業務の高度化に向けたドローン活用の検証を目的に掲げた。
 委託条件として出荷数100機以上の実績を持つ製造業者の機体を使うことや、郵便物とゆうパックなどの荷物配送向けの機能拡張ができ、山間部への配送など高地での飛行が可能なことを挙げている。
 ドローン宅配は4年後の東京オリンピック・パラリンピックをにらんだ政府の動きもある。
 今年、ドローン連絡協議会を発足し、関係者からヒアリングを実施する国土交通省は「昨年、安倍晋三首相から『3年以内にドローンを使った荷物配送を可能に』との提案を受けて環境整備を行っているが、メーカーの技術開発は思いのほか進んでいる。ドローンで積載できるのは3~5キログラム程度の荷物だったが、IHIが15キログラムまで運べるものを開発したらしく、災害時の救援物資輸送などに期待が高まっている」ことを明かした。
 また、「あらゆる業界がドローンの研究開発を進めている。中山間地域で30分山中を登っていく場所でも郵送物や荷物を届けなければならない過疎地で活用できないかと考えている。安全性を確保して地域住民の理解、基礎的な性能で飛行できる範囲、重量、耐可時間、風水などに対する機体性能、事業採算性として費用とのバランスなどの課題に取り組まなければならない」と説明する。
 配送目的で5~10キロ先まで運ぶ場合、地上から操縦者を目視できる範囲を超えてしまう。農薬散布や撮影であれば比較的可能性は高いが、配送の場合はドローンポートと呼ばれる離発着場を目的地まで安全に飛ばし、正確に着陸。荷物を受け取り、周囲の状況を的確に判断して戻るかは大きな課題となっている。一般的なドローンの機体は1.5~2メートルで、着陸時にドローンを中心に直径10~20メートルの空きスペースも用意しなければならない。
 一方、内閣府は近未来の技術を駆使する観点で今年度、ドローン宅配の戦略特区に千葉市を認定。「ドローン宅配等分科会」技術検討会に参加した物流企業からは「少子高齢化により労働力不足が深刻化する中で、ドライバーの確保も現状のようにいかなくなる。ドローンも物流手段の一つとして大いに期待している」という意見も出された。
 官民共同でのプロジェクトチームには物流大手以外にも楽天やイオン、セコムなども参画。自立制御システム研究所と組み、荷物を抱えたドローンが強風など気候の変動でも安定的に飛行できるかなど様々な部分で検証している。東京オリンピック・パラリンピックでは幕張メッセで7競技が行われるため、コスト面でビジネスが可能か検討。技術検討会は6月から10月までに既に4回開催された。
 千葉市は「市は検討の場を提供する役割。物流企業は相手に届けてから印鑑を受け取る必要があり、難しい課題も抱えている。当然ながら過疎地は社会的な意義が大きいが、お客さまが多く在住する都市部の方がビジネスとして成り立つ可能性は高い。日本郵便は今のところチームには入っていないが、希望があれば、一緒に進めていただく可能性は十分にある」と意欲を語る。
 同様に特区に認定される兵庫県養父市は三井物産と連携し、ドローンによる医薬品の配送を目指し、試験飛行を開始した。現在、対面販売に限定される医療品販売の規制緩和を求めている。
 10月31日の郵便局の利活用を推進する議員連盟(郵活連=野田毅会長)でも瀬戸隆一衆院議員が「日本郵便もドローンの検証を急ぐべきだ」と強調した。ドローン宅配便は、米国などで大手流通サービス業が商品配送サービスの試験を行っている。
 2013(平成25)年、ネット通販最大手の米企業、アマゾン・ドット・コムがドローンを使用した商品配送の検討を発表。
 15年には米国の小売り最大手のウォルマート・ストアーズが屋内の試験飛行場許可を申請したことが報道された。同社は将来的に商品宅配や物流センターの在庫確認にドローンを活用する。
 グーグルも17年までにドローンを使った宅配サービスを実現させる目標を打ち出しており、各社とも連邦航空局(FAA)との交渉を進めている。



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