コラム「春秋一話」

 年/月

2024年07月15日 第7257・7258合併号

海水浴場で「郵便局の海の家」を

 本紙が発行される7月15日は海の日。平成7年の国民の祝日に関する法律の改正で、平成8年から施行された国民の祝日だ。「海の恩恵に感謝するとともに、海洋国日本の繁栄を願う日」とされている。
 海の日は制定当初、7月20日だった。その後、法改正を経て、7月の第3月曜日に変更となっている。
 小学校の音楽の授業で、共通教材の中に海にまつわる歌唱教材がある。第1学年の「うみ」(=文部省唱歌。林柳波作詞、井上武士作曲)と、第6学年の「われは海の子(文部省唱歌、作詞・作曲者不祥)の2つだ。「われは海の子」は本来、歌詞が7番まであるが、授業で歌うのは3番の歌詞までとなっている。
 「われは海の子」は1910年に尋常小学読本唱歌(じんじょうしょうがくとくほんしょうか=文部省が初めて編集した尋常小学校の歌唱教科書)に掲載。漁村生まれの少年が強靭な肉体と精神を誇る姿を表した歌だ。戦後、7番の歌詞が「いで軍艦に乘組みて 我は護らん海の國。」と、軍艦が登場するなど戦時色が強いとして、GHQの指導によって文部省唱歌から削除された。1958年から再び教科書に登場するも、実際に歌われる歌詞は3番までとなった。
 その後、歌詞に難しい言葉が多く、子どもにはなじまないというような理由で、1980年に共通歌唱教材から外されたが、日本人の間で一貫して人気が高く、1990年から教科書に復活。2007年には「日本の歌百選」にも選ばれている。
 学習指導要領を久しぶりにじっくり見てみた。主となる歌唱教材について、各学年とも共通教材が4つ示されている。第6学年では「われは海の子」のほかに、「越天楽今様」(えてんらくいまよう、歌詞は第2節まで)、「おぼろ月夜」、「ふるさと」がある。
 小学生の時、音楽の授業で「われは海の子」はやらなかった。どこかで聴いた記憶があり、好きなメロディーなだけに、少し残念だった。ただ、大人になってから上述の理由と、小学校の授業で歌う歌はその地域の実情なども踏まえて選ばれる(海に面していない地域では「われは海の子」は扱わない等)、といったことも知ったので、ひとまず納得した。
 さて、海といえば海水浴。私もかつては毎年のように海水浴に行っていた。近年では、海は汚いから嫌だと言って、海水浴を敬遠する子どももいるという。実に残念だ。それでもやはり、夏に海へ繰り出す人は毎年多くいる。
 そこでふと思った。海水浴シーズンに期間限定で、郵便局の海の家を開設してみてはどうだろうか。この話、親しい関係者に随分昔から話してはいるが・・・。
 もちろん、砂浜ではほとんどの人が水着姿で、最低限度の手荷物しか持っていかないだろう。そこで切手類の販売や、貯金や保険の商品・サービスの案内をしたところで、誰も振り向かないと思う。
 では何をするか。カタログ物販で取り扱っている食べ物(うどんやそば、ラーメン、焼きそばなど)や飲み物(「つぶらな」シリーズなど)を調理して販売・提供する。美味しさを知ってもらうとともに、ポスターやのぼりで視覚に訴え、「郵便局のカタログ販売で取り扱っています。ぜひ今度、郵便局にお越しください」というようにPRをするのだ。
 その場での売り上げは数字で分かるが、実際に郵便局で商品の申し込みをしたかどうかまでは分からないので、窓口での合言葉を決めておく、あるいは「〇月△日に郵便局の海の家に行きました」と申告してもらうのも1つの方法かと思う。
 もちろん、郵便局の海の家を実現するには、クリアしなければならないことは多々あるとは思うが・・・。(九夏三伏)

2024年07月08日 第7256号

マネーリテラシーが必要な時代

 かつての高度経済成長期やバブル全盛期には右肩上がりで増加し続けてきたサラリーマンの給料もこの20年ほどほとんど頭打ちになり、多くの人々が生活の改善を実感できないままでいる。
 銀行にお金を預けても利息などほとんど付かずタンス預金と変わりがない。やっと先日、日銀によるゼロ金利政策が終了し、銀行の普通預金金利も年率0.001%から0.02%まで引き上げられた。一見すると一気に20倍上がったのだから目出度いように思えるが、これは100万円を1年預けても200円しか利息が付かない計算になる。これではコーヒー1杯分にもならないし、自分のお金を下ろすのに金がかかるならタンス預金しようとする人が増えるのも当然と思われる。
 収入が増えない以上、自分のお金をどうやって守るか、または増やすかは自己責任において個々人が考えなければならない時代になった。一般的にお金は「使う」か「貯める」か「投資する」かしか道がない。細かい分岐はあるにしても突き詰めればこの3つのうちのどれかに帰属する。
 そこでお金を増やそうと考えた場合、使う量を減らす、いわゆる節約は誰でも思いつくが、生活水準を下げることは長続きしない。また貯めても前述のような金利だからほとんど即効性がない。そうするとお金を増やすには「投資」しか方法がないことになる。
 ところが日本人は欧米人と違って「投資」そのものに慣れていない。株の購入にしてもどこか危険な予感が働いてしまい、なかなか踏ん切りがつかない。それは日本人がお金に対して保守的なこともあるが、リテラシーがないせいもある。お金のリテラシーがない故に「騙されたらどうしよう」「逆にお金を失ったらどうしよう」という危惧が先に立ってしまうのである。
 例えばある友人から年率12%の条件で100万円借りて投資に回したとする。その友人は親切な人で、「100万円返すのは大変だから、毎月1万円ずつ返してくれればいいよ」と言ってくれた。借りた方は喜んで毎月1万円だけ返す借用書を書いた。この話のおかしさにすぐ気づく人はいいが、そうでなければ将来損をする可能性がある。
 年率12%で100万円借りたということは、利息が毎年12万円になるということである。その条件で毎月1万円返していたら、いつまでたっても最初に借りた元金は減らない。つまり払った毎月1万円(年12万円)は利息分で消えてしまい、その友人は親切でもなんでもなかったということになる。
 借りた方は永遠に1万円を払い続けることになり、そのうちその1万円も払えなくなって破綻する。要するにこの条件で完済しようと思ったら1万円より1円でも多く返す必要があり、1円でも少なければ借金は逆に増えていくことになる。
 こんな単純な例ではすぐ気づくだろうが、これが複雑な金融投資になると素人には全く気づかない部分も多々出てくるだろう。少しずつでも増やそうとするなら投資を考えるのも確かに有効な手段である。というかそれしかない。しかしそのためには普段からお金への感覚を研ぎ澄まし、様々な金融商品の知識を増やし、適時的確に自分の大切なお金を投入する勇気と技量を身につけなければならない。
 これがマネーリテラシーであり、これを獲得することがゆとりある人生を送れる一助になると思う。もちろん、誰もが文化的な生活ができる政治の役割が前提にあることは言うまでもない。(有希聡佳)

2024年07月01日 第7255号

渋沢栄一と郵政創業

 渋沢栄一の肖像を描いた1万円札が7月3日から発行される。約500の企業と約600の社会事業に関わったことで知られる渋沢だが、実は郵政創業との関わりも深い。
 我が国郵政事業の礎を築いたのは前島密と杉浦譲だが、渋沢は「明治初期の国づくりを担う」という強い使命感を彼らと共有していた。3人はいずれも天保生まれの幕臣であったが、国を思う気持ちと国際的な視野を備えた人物だった。前島は天保6(1835)年2月、杉浦は同年9月、渋沢は天保11年3月に生まれている。
 幕末激動の最中、前島は文久2(1862)年に長崎でアメリカ人宣教師ウィリアムズから郵便制度を学んでいた。ウィリアムズは、前島に「通信の国家におけるは、あたかも血液の人身におけるようなものである・・・・・・通信は血液で、血管は駅逓である」と説き、切手の役割を教示したという。
 その5年後の慶応3(1867)年、パリ万国博覧会が開催され、将軍慶喜は弟の昭武を名代として派遣した。昭武の随員としてフランスに渡ったのが、渋沢と杉浦であった。このとき2人はフランスの郵便制度を見聞している。2人の渡欧記録をまとめたのが『航西日記 パリ万国博見聞録』である。彼らの体験が、維新後の国づくりに生かされることになる。
 大政奉還後、3人はそろって駿府藩(静岡藩)に移った。新政府により徳川家は駿河に転封され、旧主慶喜もそこで隠棲することになったからだ。明治2年1月、渋沢の建言により、駿府藩に商事・金融会社「商法会所」が設立される。前島が渋沢と初めて出会ったのはその直後のことだ。前島は商法会所へ出向き、商会の計画を聞き、駿府藩の運営、さらには将来の日本について語り合った。
 その年11月、日本の近代化を主導するシンクタンク的組織として、民部省に改正掛が設置され、渋沢は掛長に就いた。改正掛は郵便制度の創設をはじめ、度量衡の基準確立、租税制度の改正、鉄道の敷設など日本の近代化の基礎となる制度を整えていく。
 渋沢の推挙により、同年末に前島が、翌明治3年に杉浦が改正掛に加わった。改正掛は、身分や立場を超え、国づくりのために団結するという雰囲気に満ちあふれていたようだ。前島は、大隈重信、伊藤博文、伊達宗城らが一堂に会する改正掛の会議について、「放胆壮語一も尊卑の差等を置かず、襟懐を開いて時事を討論せり。余は是に於て再び心に喜び、頗る愉快に感ぜり」と書き残している(『鴻爪痕』)。
 駅逓の整備が政府の緊急課題となり、改正掛で何とかしてほしいということになり、渋沢らは知恵を絞った。渋沢は次のように振り返っている。
 「私共がいくら考えてみたけれども、よい思案もない。ところが、前島さんが専ら任じて、よろしい己が一つやってみようというので、前島さんが・・・・・・駅逓権正を兼任してやるようになった」
 こうして明治3年6月2日、前島は太政官へ官営郵便事業創設を建議した。前島を励ましていたのが、「国づくりという立派な仕事を成し遂げて、新国家建設に尽力しようではないか」との杉浦の言葉だった。この建議に際して前島は、梅花模様で周りを囲い、中央に金額を入れたデザインの切手を提案していた。このデザインの元になったのが、渋沢がフランスから持ち帰った切手だ。郵便学者の内藤陽介氏は「前島は渋沢と会って早々に切手を見せられ、郵便創業についての漠然たるプランを思いついたことは想像に難くない」と書いている。
 しかし、建議の直後、前島は鉄道建設起債に絡む問題解決のため、急遽イギリスへの出張を命じられた。その後を引き継ぎ、駅逓権正として官営郵便事業実施に漕ぎつけたのが杉浦である。偽造されやすいなどの理由から、前島が提案した梅花模様は採用されず、杉浦は龍の模様のデザインを考案、明治4年3月に我が国最初の切手として「龍文切手」が発行された。はじめて切手の貼られた手紙を配達員から受け取った杉浦は、渋沢と手を取り合って喜んだという。(酒呑童子)

2024年06月24日 第7254号

アナログの大切さも再認識しよう

 昭和から平成へと元号が変わった平成元(1989)年6月24日、歌手・美空ひばりが死去した。享年52歳。
 美空ひばりは昭和12(1937)年生まれ。9歳でデビューし、幼い頃からの卓越した歌唱力で「天才少女歌手」と称され、歌手としてはもちろん、映画や舞台でも華々しく活躍した。
 「リンゴ追分」がヒットしたのは15歳の時。17歳でNHK紅白歌合戦に初出場。以降も「柔」「悲しい酒」「真っ赤な太陽」などのヒット曲をはじめ、多くの作品を歌ってきた。
 50歳になる頃から闘病生活を送るも、強い思いを胸に歌い続けた。1988年の、不死鳥コンサートと呼ばれた、当時完成したばかりの東京ドームでのステージは圧巻だった。
 数ある作品の中で、生前最後に発売されたのが「川の流れのように」。2006年に、文化庁と日本PTA全国協議会が、親子で長く歌い継いでほしい童謡・唱歌や歌謡曲といった抒情歌や愛唱歌の歌101曲を選定した「日本の歌百選」にも選定されている。
 この作品は当初、「自分の歌から遠い、若い世代の人たちにメッセージを残したい」という美空ひばりの意向で作られたアルバムの表題曲で、のちに美空ひばりの強い思いもありシングルカットされた。
 美空ひばりの没後、男女問わず多くの歌手がこの作品をカバーしているが、何度耳にしても、正直何にも心に響かない。すべてのカバー曲を聴いたわけではないが、これまで聴いた中で、カバー曲を聴いて良いと思ったことはほとんどない。
 もちろん、原作の印象が強いこともあるが、この作品は、美空ひばりが人生を歌い上げた壮大な楽曲だと思う。表現の自由もあり、カバーを全否定するつもりはないが、せめて自分のコンサートやライブの場で発表するだけにするなどしてほしい。
 2019年12月31日に放送されたNHK紅白歌合戦で、美空ひばりの歌声や姿をもとに、AIによって制作された「AI美空ひばり」が歌唱する映像が流れた。「感動した」「すごく良かった」など称賛の声もある一方で、「故人に対する冒涜だ」「声はかなり近づいているが映像はあの程度」「コンピューターでの再現なんかダメだ」など批判の声もある。私も当時見たが、いくら技術が進化しても、元祖は越えられないし、並ぶこともかなわないなと思った。
 当時、シンガーソングライターの山下達郎が、自身がパーソナリティーを務めるラジオ番組で「技術としてはアリかもしれませんが、歌番組の出演、CDの発売は絶対に否と考えます」との見解を述べていた。私も同感だが、NHKが紅白歌合戦という国民的番組の中で、こうした試みを行ったことについて、未来に向けて一石を投じたのかな、と思わなくもない。
 AIの活用については今後も、さまざまな議論があるだろう。良く言われるのが、大学における論文。従来は、自分が決めた研究テーマに対して、文献を調べながら、近年ではインターネットも活用しながら、考えをまとめていく、それこそが論文だった。
 しかし、AIの登場によって、こうした手間が省かれてしまい、それでいて、そこそこの体をなした論文が出来上がってしまう。これでいいのかと思う。もちろん大学側も、それに対する策は講じていると思うが。
 一番懸念していることは、AIによって人間が本来兼ね備えている能力が退化していってしまわないかということ。アナログな時代はどうだったのか、しっかりと振り返って学び、整理する必要があると思う。災害発生時等に一時的であれ、デジタルが断たれてしまった時、途方に暮れてしまわないためにも。(九夏三伏)

2024年06月10日 第7252・7253合併号

オーバーツーリズムと経済効果

 日本は世界的にみても有数の観光立国だそうだ。フランス、ドイツ、オーストラリア、アメリカ、スイスなども同様で、多くの外国からの観光客が訪れる。それ自体は問題なく、多額の外貨を落としてくれるので国が潤う意味では大歓迎だろう。
 ところがそれが過熱してしまうと困った事態が発生する。一つがオーバーツーリズムの弊害だ。日本人にとってゴミはゴミ箱に捨てるか自宅に持ち帰る、分別も当たり前との意識は強い。そうした習慣のない外国人だった場合、分別どころかどこにでもポイ捨てし、街の景観を損ねるなどモラルの違いがトラブルを引き起こすこともある。
 また、京都ではあまりにも大勢が同じ観光スポットに行こうとするためバスが混雑を極めてしまい、地元住民が乗れずに通勤・通学ができない事態にまで発展しているという。旅行客は大きなバッグやスーツケースを持ち込む場合が多く、場所を取るので余計乗車スペースが限られてしまう。さすがに京都の住民は悲鳴を上げ、市役所に苦情が殺到したそうだ。
 京都市バスを運行する京都市は苦肉の策として、近い将来は同じ路線でも「観光客用のバス」と「地元住民用のバス」に分けて運行することになった。例えば京都駅から一番人気のある路線は清水寺行きだが、「観光客用の清水寺行き」は途中一切停車せずに直行し、「地元住民用の清水寺行き」はこれまで通り各バス停に停車するというものだ。
 考えてみれば観光客は清水寺に行くのが目的で、途中のバス停に止まらなくても何の問題もない。逆に地元住民は観光地に行くためにバスを利用するのではなく、終点の清水寺まで乗る人はほとんどいない。途中のバス停で降りる人が多い。
 この利用目的の差を埋めるために今回のように別々にするのは至極合理的だが、なぜこんな単純な理屈に今まで気付かなかったのか、あるいは気付いても実行してこなかったのか遅きに失した感がある。一時期は観光客の流入を大幅に制限する案もあったそうだ。
 そうなると観光収入が大幅に減少し、ただでさえ財政破綻の危機にある京都市がますます財政難になるところだった。京都市の2022年度の観光客は年間4361万人、観光消費額は1兆2367億円である。これだけの経済効果の一部をむざむざ放棄してしまうところだったとは肝を冷やす。
 他にも鎌倉、浅草、各温泉地など平日でも人であふれている観光地はいくらでもある。そうした都市がオーバーツーリズムだからといって観光客の流入を制限するようになったら莫大な観光収入を失うことになり、そこで商売をしている飲食店、土産店、ホテル、旅館なども影響を被って従業員の失業にもなりかねない。ちなみに鎌倉の観光客は年間1196万人、観光消費額800億円、浅草は1631万人、1263億円である。
 外国や他の地方から来てくれる観光客は間違いなくその都市の経済を潤す。地元住民と観光客との共存を図るアイデアを考え、それをいち早く実現する都市こそ双方にとって魅力ある街になるのは間違いない。(有希聡佳)

2024年06月03日 第7251号

日本郵政にも外資規制を

 経済安全保障の重要性が高まる中で、各国で外資規制の動きが強まっている。外資規制には安全保障上の目的のほか、自国の資産、資源、インフラなどを守るという重要な目的がある。こうした目的に沿って、我が国は外為法と個別業法の2本柱で外資規制を行ってきた。
 外為法は、外国の投資家が日本企業の株式を取得する場合、事前の届出や事後報告を義務づけている。経済協力開発機構(OECD)は、武器、航空機、原子力、宇宙開発、電気、ガス、熱供給、通信、放送、鉄道など安全保障関連業種について投資規制を認めている。
 一方、個別業法による外資規制としては、鉱業法、電波法、放送法、NTT法、船舶法、航空法、貨物利用運送事業法などがあり、外国人議決権の総量規制などを定めている。例えば、電波法と放送法は外国人の議決権割合が5分の1以上になることを禁じ、NTT法はそれが3分の1以上になることを禁じている。
 ところが現在、このNTT法の廃止が大きな議論を呼んでいる。昨年6月に防衛関係費の財源を検討する自民党の特命委員会が「政府が保有しているNTT株を売却し、その収入を防衛財源に充てること」を提案したのがきっかけだ。昨年12月には自民党の「NTT法の在り方に関するPT」がNTT法廃止を求める提言をまとめた。そして、4月に成立した改正NTT法の付則には、「NTT法の廃止を含めて検討」と盛り込まれた。
 では、NTTに対する外資規制はどうなるのだろうか。昨年12月に自民党政務調査会がまとめた「NTT法の在り方に関する提言」は、「総量規制は撤廃すべきであり、現行の外為法の補強や、電気通信事業法に外資規制を導入して対応すべきとの強い意見があった」と述べている。しかし、自民党内の意見も割れている。同党の情報通信戦略調査会は、NTT法が廃止されれば外資規制が難しくなると懸念を表明した。総務省も「外為法で完全に代替することは難しい」との見解を示している。NTTに対する外資規制が難しくなれば、NTTが保有している重要インフラが外国の影響を受け、我が国の安全保障に重大な問題が生じる。慎重な議論が求められるのは当然だ。
 こうした中で、自民党の「郵便局の新たな利活用を推進する議員連盟」が中心になって作成を進めている郵政民営化法改正案には、日本郵政に対する外資規制が盛り込まれている。ところが外務省がそれに難色を示しているという。投資の自由化を定めた経済連携協定(EPA)に抵触するとでも言うのだろうか。もちろん、我が国に対する投資の拡大は重要な課題だ。「NTT法の在り方に関する提言」も、「わが国への投資促進と経済安全保障上の要請との均衡」が重要だと指摘している。
 しかし、郵便局ネットワークは、NTTの通信インフラ同様に、国民生活に直結する重要な公的インフラだ。株主の意向によって、公的インフラとしての機能が損なわれることがあってはならない。
 急速な高齢化、過疎化に直面し、公的インフラとしての郵便局ネットワークの重要性はますます高まっている。大塚耕平参議院議員は、「『郵便局ネットワークは日本社会にとって不可欠の公的インフラであり、それを守ることは国策である。他国にとやかく言われる筋合いはない。内政干渉だ』と明言するぐらいの毅然とした姿勢で臨むべき局面だと思います」と述べている(本紙5月27日号)。
 小泉政権が郵政民営化を進めた際、反対派は郵政事業に対する外国支配や郵政資産の海外流出などを警戒し外資規制を訴えていた。
 2013年に民営化されたイギリスのロイヤルメールでは、攻撃型ファンドが大株主となり、様々な要求を突きつける状況に陥ったことがある。手遅れになる前に、日本郵政に対する外資規制を導入すべきではなかろうか。(酒呑童子)

2024年05月27日 第7250号

時代が変わっても手間をかけたサービスを

 各地の観光地を中心に、国内のみならず外国人観光客も含め、多くの人でにぎわった今年の大型連休。JR東海とJR西日本では大型連休中、東海道・山陽新幹線「のぞみ」を全車指定席で運行するなど、混雑緩和に向けた取り組みを実施した。これに関しては特に大きなトラブルは起きていないようだ。
 そうした中、JR東日本が、みどりの窓口の削減方針を凍結することを発表した。当初は、それまで約440の駅にあったみどりの窓口を、2025年までに約7割削減し、約140の駅に集約する、という方針だった。モバイル利用が増えていることもあり、チケットレス化に向けた取り組みの流れの一環なのだろう。
 新型コロナウイルス感染拡大以降、リモートワークの浸透などもあって人の流れが減り、鉄道会社は大きな打撃を受けた。現在、旅行者をはじめ、鉄道利用者数はコロナ禍前のレベルまで回復してきている。しかしその一方で、みどりの窓口は激減し、残されたみどりの窓口が大混雑している。
 有人の窓口を廃止した駅では、代わりに「話せる指定席券売機」(JR北海道では「話せる券売機」、JR東海では「サポートつき指定席券売機」、JR西日本では「みどりの券売機プラス」、JR九州では「ど~ぞ」)が設置されて運用されている。しかし、利用者がオペレーターと話をしながら操作をしてもうまくいかずに行列ができるなど、利用者のフラストレーションは溜まる一方だ。利用者を軽視しているとの批判も起きている。
 みどりの窓口を利用する人は、例えば「タッチパネルの操作が苦手な人が窓口で、言葉で伝えながら用件を済ませる」「普段はタッチパネル操作ができるものの、切符受け取り後の乗車変更などやむを得ず窓口を利用する」など、ニーズは様々だ。
 しかし、窓口ですんなりと話が伝わって用件を済ませられれば良いが、座席の細かな指定などをするケースや、そもそも用件が窓口の人にうまく伝わらないケースなど、時間がかかってしまうことも多々あるようだ。
 今は確かにデジタル化が進み、機械の操作に慣れている人も多い。その一方で、機械の操作は苦手だという人もそれなりにいる。
 もし今後、例えば機械のシステムをアップデートして仕様が変わるとなると、今度はその新しい仕様に戸惑って、タッチパネルの操作がうまくできない人も出てくるだろう。
 また、日本を訪れる外国人観光客にとっては、タッチパネルの画面で英語や中国語の表記があっても、全ての外国語が網羅されているわけではないので、やはり窓口で人が対応せざるを得ないケースも多い。
 私自身、「話せる指定席券売機」を使ったことはないが、みどりの窓口削減の流れ以降、乗車変更をしようと券売機で操作したものの結局できずに、みどりの窓口を利用したことがある。その時は幸い、並んでいる人が少なかったので、スムーズに用は済んだが、もし人が多く並んでいたら発車時間の兼ね合いで恐らく乗車変更できなかっただろう。
 民営・分社化しても、公共交通機関であることには変わりない。願わくは有人窓口を従前の数程度に残しておいてもらえるとありがたいが、機械化をするなら少なくとも有人窓口でのサービスレベルは維持してほしい。
 効率化もいいが、手間をかけること、機械ではなく人が人のために何かをするということも、無くしてはならないと思う。
 古き良きものを守りながら、新しいものも取り入れて、利便性を損なわないように良いサービスが展開され、人々の暮らしがまんべんなく守られる世の中であってほしい。(九夏三伏)

2024年05月20日 第7249号

コロナ禍が及ぼした社会の変化

 ほぼ4年にわたるコロナ禍の影響で、世の中の動きや国民の意識が急激に変化した。数十年前にSF作家の小松左京が「復活の日」という作品を上梓し映画化までされたが、まさかこの事態が現実に起こるとは当時誰も思わなかっただろう。作品は未知のウイルスが世界中に蔓延しほぼ全人類が滅亡するが、このウイルスは極寒に弱いため南極にいる人たちだけは感染せず、わずかに残った数名だけで人類の復活を目指すというストーリーだった。
 この映画から約40年経った今回のコロナ禍では、人類滅亡の危機にまでは至らなかったが、ワクチンの開発が遅れていたらどうなっていたかと思うと背筋が凍る思いがする。SF小説の架空世界が必ずしも作家の空想だけにとどまらず、いつか現実に起こりえるという事実に恐怖も感じる。
 もちろんコロナ禍では世界中で多数の方々が亡くなったり後遺症に悩まされることになり、人間にとっては大災害であったのは間違いないだろう。しかし一方であまりにも大きな災害であったために、想定外の変化を社会にもたらしたのも事実である。
 一つは世界中の人々の衛生観念が向上し、手洗いやうがい、マスク着用、3密の回避、消毒の徹底、不要不急の外出の自粛などでインフルエンザやノロウイルスといった従来のウイルスによる健康被害が激減した。コロナ禍が一段落した現在でも多くの人がマスクを日常的に着用している状況をみると、この傾向はまだしばらく続くものと思われる。
 また普段の社会生活や働き方にも様々な変化が生じた。まずリモートワークが急速に発展し、在宅で仕事をする会社員が急増した。会議も会社内で行っていたものが自宅のパソコンでZOOM機能により行われるようになり、参加者がばらばらの場所にいながらできるようになった。それまではこうしたやり方はほとんど根付いていなかったため、当初は回線が切れてしまったり全員がオンラインでつながらなかったり等のトラブルもあったようだが、最近ではオンライン会議もすっかり定着した様子だ。
 社員は通勤せずとも仕事ができるため介護や育児と両立できるようになり、満員電車での通勤も緩和された。会社は定期代を支給する代わりに出勤の都度、実費を支給するだけになったため人件費の削減にもなった。出勤がないために付き合い上の飲み会や仕事帰りの同僚との飲み会などもなくなり財布にも優しくなった。それによって飲食店は打撃を受けたが、政府からの補助金で儲けが出た店もあった。
 こうした衛生上の効果、経済面での効果、効率的な仕事の在り方など想定外な方向に影響が出たことも注目に値する。中には家族と一緒に過ごす時間が増え、今まで以上に絆が強化された家庭もあるだろう。
 朝早くから出勤し、夜遅く帰宅していた会社員などは、子供と遊ぶ時間も家族と会話する時間も思うように取れなかったに違いない。
 コロナ禍などという全世界を巻き込んだ大災害は二度と御免だが、それが一段落した今、コロナ騒動によって何が変わり、何が社会変革をもたらしたのかを冷静に振り返ってみる時期でもあるのではないだろうか。(有希聡佳)

2024年05月06日 第7247・7248合併号

郵便局は「買い物弱者」を救えるか

 新鮮な野菜や果物を買える食料品店が近所に少ない人の死亡リスクは、多くある人に比べて最大で1.6倍も高い。これは東京医科歯科大学の研究チームの調査結果だ。
 こうした健康リスク、死亡リスクを抱える「買い物弱者」が、いま急速に増加している。農林水産省は、3月に「買い物弱者」(食料品アクセス困難人口)が900万人を突破したと発表した。65歳以上人口の25.6%を占めている。4人に1人が「買い物弱者」だということだ。この比率は長崎が41.0%と最も高く、以下、青森(37.1)、鹿児島(34.0)、秋田(33.8)、滋賀(32.7)と続く。
 一方、最も低いのは東京(17.1)で、以下、石川(19.6)、沖縄(20.4)、新潟(21.3)、山形(21.4)、群馬(21.5)と続く。ただし、「買い物弱者」は地方だけでなく、東京、名古屋、大阪の3大都市圏でも増えている。
 鉄道や路線バスなど公共交通機関の廃止や衰退とともに、「買い物弱者」増加の大きな原因となっているのが小売店の減少だ。大型店出店を規制していた大規模小売店舗法(大店法)の改正、廃止によって小売店減少に拍車がかかった。特にJA系のスーパー「Aコープ」の閉店が加速している。昨年末には、鳥取県内のAコープ17店舗が一斉に閉店を決め、住民に不安が広がった。「Aコープ」のような購買店舗は、2002年には全国で4173あったが、2022年には2862まで減少している。
 「買い物弱者」支援が急務となる中で、政府も本腰を入れつつある。支援方法は、「商店を高齢者宅近くに設ける」「移動商店を高齢者宅近くに設ける」「商品を高齢者宅に運ぶ」「高齢者を商店まで運ぶ」などに分類できるが、過疎地において「商店を高齢者宅近くに設ける」ことは極めて困難な状況にある。
 そこで期待を集めているのが、地域の「最後の砦」となった郵便局だ。すでに2021年4月、岐阜県飛騨市の東茂住郵便局は空きスペースを活用し、スギ薬局の商品の販売を開始している。東茂住地域には東茂住郵便局以外に店舗がなく、買い物に不便を感じている住民が多かった。扱う商品はカップ麺やペットボトル飲料、お菓子などの食料品、ティッシュペーパーや洗剤などの日用品など。商品は、近隣集配郵便局がゆうパックを活用して集荷を行い、東茂住局に配達する。この取り組みは、3月に総務省がまとめた「郵便局を活用した地方活性化先進事例パッケージ」でも紹介されている。昨年11月には袖川郵便局でもスギ薬局商品の販売を始めている。
 一方、茨城県稲敷市の柴崎郵便局は、2021年10月にお客さまロビーでファミリーマートの商品の販売を開始した。昨年9月には、千葉県鴨川市の天津郵便局、埼玉県飯能市の飯能下畑郵便局でも販売を始めている。さらに、沖縄県南城市の知念郵便局は、2022年10月にローソンの商品を販売する実証実験を開始している。
 一方、イオンネットスーパーの商品を、地域住民の交流拠点などで受け取れる仕組みの実証実験も進められてきた。奈良県奈良市東部地域では日本郵便の配達車両や配達網が有効に活用されてきたが、4月から「おたがいマーケット」としてサービスが提供されている。
 さらに、2022年12月から熊本県八代市内の郵便局や市役所にタブレット端末を設置し、日用品などを注文する実証実験を開始している。問題はタブレット操作に不慣れな高齢者が少なくないことだ。これに対して、郵便局社員が注文サポートを行うことによって利用を増進することができたという。
 もともと、過疎地から小売店がなくなったのは、営利事業として成り立たないからだ。公益事業によってしか成り立たないのだとすれば、郵政三事業以外の郵便局の公益性を明確に位置づけるための法改正が求められるのではないか。(酒呑童子)

2024年04月29日 第7246号

4月2日は「世界自閉症啓発デー」

 穏やかな春の陽ざしに包まれ、多くの桜の木に囲まれた校庭に和太鼓の音が響く。体育館では地域のダンスチームが溌溂とした演技を披露。各種のワークショップの開催、模擬店やキッチンカーもあり、満開の桜とともに多くの人が子どもたちのパフォーマンスを楽しんだ。東京都立川市の旧若葉小学校で4月7日、「世界自閉症啓発デーダンスでつながるみんなの輪」が開かれた。立川市のマスコットキャラクター「くるりん」「ウドラ」も子どもたちと触れ合った。
 「世界自閉症啓発デー」(World Autism Awareness Day)は2007(平成19)年12月、国連総会で毎年4月2日とすることが決議される。世界各国で自閉症や発達障がいの理解を進める啓発活動が展開されている。また、日本ではこの日から8日までを厚生労働省が「発達障がい啓発週間」と定め、シンポジウムの開催、橋や城、タワーなど地域のランドマークをブルーにライトアップする活動が各地で行われた。
 国連決議は「すべての障がい者のあらゆる人権および基本的自由の全面的実現を確保、促進することは、国際的に合意された開発目標の達成に欠かせない」とし、「各国政府、非政府組織(NGO)および民間セクターが実施する長期的な保健医療、教育、訓練および介入プログラムを発展させる」ことを求めている。
 自閉症や発達障がいは「他の人の気持ちや感情の理解」「言葉の適切な使用」「新しいことの学習」などが不得手とされる。一般的な「常識」と言われることを身につけることも苦手。このため真面目に取り組んでいても誤解されることが多い。一方で非常に「純粋」で、感じたままに話したり、行動したりすることがあり、感覚が過敏だったり、記憶が抜群な人もいる。天才と称される優れた業績を残した人物も多い。
 こうした行動を理解し、周囲が温かい支援をすれば大きく育つことができる。日本郵政グループも民営・分社化を機にメンタル不調者の顕在化が著しくなったと指摘するのが、神奈川県の大和南林間六郵便局の局長を務め、現在はあしたの働き方研究所の理事となっている小澤小百合さん。日本郵便の社員の相談や研修にも携わっている。
 「発達障がいは得意、不得意なことの差が大きいのだと理解してほしい。不得意なことをいかにカバーするか、仲間をフォローする心遣いがあれば、本人も変わりチームワークも強固になる」と強調する。
 「世界自閉症啓発デー」も今年で17回を数えた。この日に寄せて政府もメッセージを発出している。「発達障がいのある方が力を発揮できる社会、そして、多様性を認め、共に育ち共に生きる社会の実現に向けて取り組みを推進」(武見敬三厚生労働大臣)。
 「自閉症など発達障がいをはじめ様々な課題を抱えている児童生徒たちを誰一人取り残さず、可能性を最大限に引き出す学校教育の実現を目指すとともに、自らの可能性を追求し、個性や能力を生かして活躍できるよう学校教育、生涯学習、文化芸術、スポーツ等の各分野で横断的・総合的に関連施策を推進」(盛山正仁文部科学大臣)。
 「子どもの視点に立って意見を聴き、最も良いことは何かを考えながら、障がいの有無にかかわらず、安心して共に育ち暮らす地域づくりが重要。それぞれの多様性を認め合い、尊重し合い、誇りをもって生きられる社会を実現」(加藤鮎子こども政策担当大臣)。
 自閉症や発達障がいは、少し異なる感性と、そして純粋な個性を持っていると言える。それを理解し認め合い、互いに支え合いながら暮らす社会、それは地域のすべての人たちが自分らしく安心して暮らしていける「共生社会」の実現にもなるだろう。(和光同塵)

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