コラム「春秋一話」

 年/月

2021年9月20日第7110・7111合併号

東京2020大会と女性活躍推進

 シンガーソングライターの松任谷由実さんが昨年12月に「深海の街」というアルバムをリリースした。
 アルバム制作中にコロナ禍となり外出自粛を余儀なくされたが、地球規模で人類に影響を与え、世界史に残るような2020年にこそ、楽曲をアルバムとして記すべきという強い想いを持ってリリースしたそうである。
 このアルバムに「1920」という曲が収録されている。彼女の母親が2020年5月に百歳を迎えたがコロナ禍で施設に会いに行くこともできず、母の生まれた年について調べたところ、世界的なスペイン風邪の流行、オリンピックの開催など2020年との共通項がいくつも見つかり、そこからこの曲のイメージが膨らんでいったという。
 1920年のオリンピックは、第1次世界大戦終戦後のベルギー・アントワープで開催されたが、敗戦国の出場禁止、2年ほど前からのスペイン風邪の流行、資金難による宣伝不足など、困難を極めた中での開催だった。「1920」には「空席だらけのコロシアム」という一節があり、まるで今回の大会を予知したかのようだ。
 1年延期された東京2020大会だが、直前になっても新型コロナウイルスの猛威は衰えるどころか感染は拡大し、東京など緊急事態宣言が発令される中、競技場はほぼ無観客という前例のない大会となった。幸い感染が爆発的に広がるなどの最悪の事態は避けられ、最終的にはその開催を肯定的に捉える人が6割を超えていたとの報道の中、全日程を終えた。
 今回の東京大会は男女共同参画についても注目される大会となった。各種競技では男女の種目が同等になるように確保され、男女混合競技も前回大会から倍増の18種目となっていた。また開会式では全ての国、団体で男女1名ずつのアスリートが旗を掲げ、大会ビジョンの「多様性と調和」を表していた。
 このビジョンは「あらゆる分野で男女が共に参画し女性の活躍が進むことが豊かで活力ある持続可能な社会を生み出し、暮らしやすい社会の実現に貢献すること」を目指すとされた。国内における女性活躍推進への取組は、2003年に内閣府から「社会のあらゆる分野において、2020年までに指導的地位に女性が占める割合が少なくとも30%程度になるよう期待する」との目標が設定されたが、直近2019年の統計を見ても米国などで40%を超えているのに比べ、日本は15%に至っていない。
 昨年12月に閣議決定された「第5次男女共同参画基本計画」では公務員だけでなく民間企業においても係長相当職の女性割合30%以上の目標を2025年までと5年延長している。日本郵政グループが発表している中期経営計画「JPビジョン2025」においては「本社における女性管理者比率を2030年までに30%以上とする」とあるが、本社以外の組織においては「環境整備・人材育成に取り組む」とあり数値目標は設定されていないようだ。
 本紙に連載を掲載している前川孝雄氏が6月7日号で「女性管理職比率向上は社会の枠組み改革とセットで進める視点が大事」と書いている。
 今大会開催前の組織委員長の発言、女子ボクシング競技で金メダルに輝いた選手に対するテレビ解説者の発言など、女性に対する蔑視発言が報道された。
 これまで日本国内では目くじらを立てるほどのことではないと見過ごされてきていたが、このような古い意識の改革が基本だろう。今回の東京2020大会が、社会、企業の古いパラダイムの変革につながる契機になればと願う。
(多摩の翡翠)

2021年9月13日第7109号

組み合わせの妙がプラス効果

 先日、テレビで「FNSラフ&ミュージック~歌と笑いの祭典~」という番組を観た。週末に2夜連続、計9時間におよぶ生放送の番組だ。内容は「歌と笑いの融合」がテーマで、アーティストとお笑い芸人がコラボして歌やネタを披露したほか、普段は見られない顔ぶれでのトークが繰り広げられていた。
 お笑い芸人の松本人志さん、タレントの中居正広さん、お笑いコンビ・ナインティナインの岡村隆史さんと矢部浩之さんを中心に、お笑いコンビ・千鳥の大悟さんとノブさん、お笑いコンビ・アンタッチャブルの山崎弘也さんと柴田英嗣さんらが中心となって番組を進行。久しぶりに面白い番組を観たというのが正直な感想だ。
 この番組内で、お笑いタレントの内村光良さんがサプライズ出演した。松本人志さんとの共演はフジテレビ系「笑っていいとも!」のグランドフィナーレで共演して以来7年ぶりとなる。それ以外にテレビではこの2人は共演していないだけに「この2ショットは久しぶりだな」と思った。
 テレビの世界では共演NGという言葉を耳にする。松本さん(ダウンタウン)と内村さん(ウッチャンナンチャン)もそのくくりで扱われることもある。だが、松本さんと内村さんは今から30年くらい前にフジテレビ系「夢で逢えたら」というバラエティー番組で、ダウンタウンとウッチャンナンチャンとして共に出演している。人気番組でもあり、当時よく観ていた。
 松本さんの方が一つ年上だが、2人は互いをずっと「ウッチャン」「松ちゃん」と呼んでいる。今回の共演でも同じように呼び合っていた。ネットでの反応を見ると、若い世代ほどこのことが斬新に映ったようだ。
 共演NGの話題でよく名前があがるのが、とんねるずとダウンタウン。諸説あるが、当人同士は互いにそれほど何とも思っておらず、周りのスタッフや関係者たちが「この2組は共演させてはいけない」などと遠ざけてきたことで、今日までこれといった共演の機会がなかっただけのことと思われる。
 その2組が今から7年半前の2014年3月31日に放送された「笑っていいとも!グランドフィナーレ感謝の超特大号」で共演した。当初、直接絡む段取りではなかったようだが、タモリさん、ダウンタウンの2人、ウッチャンナンチャンの2組がステージ上でトークをしていた時に突然、とんねるずの2人が乱入した。当時、このシーンをテレビで観ていたが、非常に感動したのを覚えている。
 とんねるずもダウンタウンも、当時オンエアしていた番組は子どもの頃から大体観ていた。ダウンタウンは正統派の漫才で世に出てきたのに対して、とんねるずはコントなど、型にとらわれずとにかく笑わせるためにハチャメチャやっていた印象がある。
 とんねるずの方が年も上で、芸歴でも少し先輩にあたる。どちらのコンビも昭和から平成と、トップとして走り続けてきた。だがこれまで、上述の通り2組が共演する場面はほとんどなかった。
 もしもこの2組をメインとした番組が放送されるとしたら、果たしてどんな内容になるのだろう、と想像してみたが、タイプの大きく異なる2組なだけに全くと言っていいほど想像がつかない。
 最近よく、今のテレビはつまらなくなったと言われる。コンプライアンスが厳しくなっていることもあるので、致し方ない部分はあるが、一度この2組がメインとなって絡み合う番組を観てみたい。
 今までになかった組み合わせがプラスの効果を生み出し、その連鎖で人々が笑顔になる、そんな世の中になっていくといいなと思う。(九夏三伏)

2021年9月6日第7108号

国際切手展2021に思うこと

 8月25日から30日まで、パシフィコ横浜で「日本国際切手展2021」が開催された。主催者は日本郵便株式会社、公益財団法人日本郵趣協会、一般社団法人全日本郵趣連合、公益財団法人通信文化協会の4者で、名誉総裁は高円宮妃殿下である。
 日本での国際切手展は1971年以来、10年ごとに開催され、今回で6回目。新型コロナウイルスの世界的な流行のため、今回の国際切手展は、国際郵趣連盟(FIP)が認める全世界を対象とした国際切手展ではなく、アジア地域の国際切手展という建付けでの開催となった。
 未だコロナ禍が収まらず、緊急事態宣言発令の地域も拡大されている我が国で、このようなイベントを開催することに批判もあったろう。しかし、開催に漕ぎ着けた関係者の努力を多としたい。今回は、この国際切手展を取り上げて、いくつか考察してみたい。
 まず、郵政創業150年の節目の年に、日本で国際切手展を開催した意義を再確認してはいかがであろうか。明治4年の郵便創業以来の事業の歴史が、パネルや実際の郵便ポストなどの展示品により、簡潔かつ分かりやすく展示されていた。
 現在、日本郵政グループは信頼回復の途上にあり、コロナ禍もあってお客さまとの接点の持ち方も難しいものがある。明治以来150年の歴史は、戦争など順風満帆のときばかりでなく、努力の蓄積がある。こういった先人の労苦に思いを馳せ、足元を見つめ直し、郵政事業の将来を考えてみる機会としてほしいところである。
 第二に、世界的にコロナが感染拡大し始めてから、リアルに開催された国際切手展は、世界でも今回の日本国際切手展2021が初めてという点を評価したい。参加国・地域や参加作品数の減少や、アジア地域の国際切手展という位置付けに、いわば「格落ち」した枠組みという逆風にあっても、会場にはカテゴリーごとに蒐集・研究された作品が多数展示され、国際切手展としての水準でその成果が競われた。
 感染防止に万全を期し、物理的に開催に至らしめたことは、試行錯誤や困難を乗り越えたものであり、国内外の郵趣関係者にとって、力強いエールとなろう。
 第三に、国際切手展は、当然ながら世界一流の切手コレクションの競争と展示を行う場であるが、今回の切手展では、それにとどまらないイベント的要素に工夫がされていた。
 例えば、日本郵便が最近発売した63円と84円の2枚セットのフレーム切手をその場で写真撮影して作成するブース、クイズラリーに答えてガチャで当選すると本人の写真を撮って記念のキーホルダーにしてもらえる取組み。
 また、子供たちが郵便の区分や配達の流れを体験できるコーナーや、二輪車の展示、文房具愛好家が心躍らせる文房具ショップの出店など、郵趣家だけでなく、ターゲットを広げ、ITが進展して郵便や郵趣に触れる機会が減少した現代にあって、郵便に親しんでもらう良い機会を提供したといえる。更に、皇室関係の特別な展示も、名誉総裁のコレクションや、切手や絵葉書の原版など、注目すべき貴重な品々があった。
 郵便は、世界的に長期減少傾向にあるものの長い歴史を持ち、趣味の対象として奥深い領域を有している。郵趣家という深いレベルの趣味人ではなくとも、人々に幅広く郵便に触れて親しんでもらえるための努力は引き続き必要であり、今回の日本国際切手展ではそのための何らかの気付きもあったであろう。
 今後とも、郵便の普及・啓発のための様々な取組を積み重ね、今回の切手展を一つのステップアップの機会としてほしい。
(連環子)

2021年8月30日第7107号

真夏の配達 あなたならどうする

 その昔、郵便配達をしていた時のこと。朝から真夏の日差しが照り付ける、暑い夏の日の出来事だ。
 その日、要配達物数も書留の数も少なかった。道順組立もスムーズに終わり、かなり早く作業が進むなと思い、いつもより多く郵便物をバイクに積んで出発した。
 水分補給も適度にしながら順調に配達をしている中、あるお宅に書留があったので、配達しようと玄関まで行った。
 結構古い家で、広い庭があって、玄関は門から少し離れた所にある。
 その門を空けようとした時、人影が目に入った。その家の主、お婆ちゃんだ。門には呼び鈴は無いので、門を開けて玄関の呼び鈴を押すのがセオリーだ。しかし、そのお婆ちゃん、上半身裸で洗濯物を干している。
 正直戸惑った。このまま普通に門を開けて入って行ってよいものなのか。「きゃー!」とか大きな声を出されたりしないだろうか。想定外の光景を前に、一旦引き下がった。「どうしよう…」。
 ちょうどその時、同じ班の遅番の先輩がバイクで現れ、これから配達に向かう人の居住確認を私にしてきた。「救いの神!」と思い事情を説明した。すると先輩は笑いながら「大丈夫だよ、行っちゃいなよ」と言った。でも私はやはりそこまで堂々と行くことはできない。
 なので、先輩に「寿司おごるから代わりに行ってくださいよ」と頼んだ。先輩は「寿司?俺あまり寿司は好きじゃないんだよね…」と言う。「じゃあ焼肉!」と言うと、「最近暑いから食欲ないんだよね…」とかわしてきて、「あ、ごめん、午前配の書留あるから行くね」と行ってしまった。
 先輩は日頃から世話になっていて、気さくですごくいい人だが、その時だけは「なんて冷たい奴だ」と思った。
 現実に戻って、その家に再び行くと、まだお婆ちゃんは洗濯物を干している。思い悩んでいてもしょうがないので、ひとまずここはスルーして配達を続け、午前の配達を終えて帰局する前に、もう一度立ち寄ることにした。
 そして午前の配達を終え、再び向かった。「頼む、服着ていてくれ」そう願いつつ。家に着くと、庭にお婆ちゃんの姿は無かった。ひとまず安心して、門を開けて玄関の呼び鈴を押し、「書留です」と呼んだ。
 すると家の中から返事があり、少し時間がかかって出てきた。「どうぞ」というので戸を開けると、上着に袖を通しながらお婆ちゃんが登場。「暑い中ご苦労様」というような労いの言葉をかけてくれて、無事に配達することができた。
 帰局後、班の人たちに話をすると、みんな笑っていた。1人の先輩が「お婆ちゃんか…若い女の子だったらよかったのに」と言ったが、「いやいや、そういう問題じゃないでしょ…」と心の中で思った。
 そして午後の配達を終えて帰局すると、遅番のあの先輩がいた。すると満面の笑みで「さっきのお婆ちゃんどうした?」とからかってきたので、「ちゃんと配達しましたよ!」と切り返した。
 それ以降、その先輩が私の担当区に入った時などに、「あのお婆ちゃんに郵便あるけど(配達に)行く?」などいじられるようになった。「行かないです!」と返しつつ、集配の仕事で黙々と作業をしている中で、こういうちょっとした雑談も癒しになるのかな、なんて思った。
 郵便配達で、予期せぬ場面に遭遇することもある。そうした時に、どう対応したら良いのか。
 実体験を収集して、可能な範囲でマニュアル化しておくことも必要なのかなと思った。
(九夏三伏)

2021年8月23日第7106号

「ミチクサ先生」と呼ばれた漱石

 千代田区神田の丸の内線淡路町駅近くに「松榮亭」というレストランがある。創業1907(明治40)年という老舗の洋食レストランだ。ここのメニューに「洋風カキアゲ」という料理がある。昼時にはランチメニュー「カキアゲライス」としても人気がある。この松榮亭の初代店主は、東京大学の教授フォン・ケーベル氏の専属料理人だった。
 彼の家を訪れた教え子の夏目漱石が「何か変わったものが食べたい」とリクエストしたところ、冷蔵庫に残っていた食材を使い即席で作ったのが洋風カキアゲだった。漱石はそのオリジナル料理がたいそう気に入り、以来、松榮亭の看板メニューとなったそうだ。
 この明治の文豪夏目漱石の生涯を描いた「ミチクサ先生」という小説が日本経済新聞朝刊に掲載されていた。連載が始まったのは2019年秋。著者は「大人の流儀」シリーズのベストセラー作家の伊集院静氏。まだ「コロナウイルス」ということばも聞かなかった頃であり、毎朝、掲載の小説を読むのが楽しみになっていた。
 ところが日本国内へのコロナウイルスによる影響を予告するかのように2020年2月に著者の急病により休載となった。コロナ感染ではなかったが大病とのことで、一時は再開が難しいのではとも思われたが、幸い回復し約9か月後の同年11月に再開された。その後、順調に連載は進み、先月に連載が終了した。
 夏目漱石、本名夏目金之助は、東京牛込で生まれ、大学卒業後に、松山、熊本で英語の教員を勤める。熊本で教員をしているときに明治政府から英国への留学を命じられ、約3年間をロンドンで過ごす。
 日本へ帰国後は東京に居を移し、帝国大学の講師となり、しばらくして友人に勧められて教鞭をとりながら「吾輩は猫である」を執筆し、同人誌に掲載される。続く「坊ちゃん」も好評で、本人も小説執筆を生業とすることを望み、朝日新聞社に誘われて専属の小説家となり、数々の名作を執筆していくこととなる。
 伊集院静氏は10年ほど前に正岡子規を主人公とした「ノボさん」という小説を出版しているが、その中で漱石との友情を描き、漱石の「人間としての魅力に感心」したことが今回の小説に結実した。連載終了後の感想を述べた記事には「こんな人がそばにいたらずっと見ていたいと思うほどユーモアに富み、慈愛に満ちた人物であった」と感慨を語っている。
 この小説のタイトル「ミチクサ先生」は寺田寅彦が芥川龍之介に語る次のような逸話から付けられている。
 熊本での教員時代、学生だった寺田寅彦が俳句に夢中で勉学が疎かになっていると教師から叱られたことを漱石に相談した際、「叱られるかと思ったら、先生は笑って庭の築山を指し『教師はあの築山のてっぺんが最終の目標のごとく教えるだろう。でも実は、勉学も生きることもいかに早くてっぺんに登るかなんてどうでもいいこと。いろんなところから登って、滑り落ちるのもいれば、転んでしまうのもいる。山に登るのはどこから登ってもいい。むしろ転んだり汗を掻き掻き半ベソくらいした方が同じてっぺんに立っても見える風景は格別なんだ。ミチクサは大いにすべしさ』」と。
 私の年代にとって高校1年での課題図書だった「こころ」や、「草枕」「三四郎」など堅いイメージの強い漱石だが、その生涯の中では、家族や友人を慈しみ、多くの作家に影響を与え、日本の歴史にも大きな足跡を残したことを改めて知ることができた。近いうちに「草枕」を読み直してみよう。
(多摩の翡翠)

2021年8月9日第7104・7105合併号

自然と共生した縄文文化


 日本最大級の縄文遺跡で知られる「三内丸山遺跡」(青森市)をはじめとした「北海道・北東北の縄文遺跡群」が、世界文化遺産に登録されることになった。ユネスコ(国連教育科学文化機関)の世界遺産委員会が7月27日に決定した。「奄美大島、徳之島、沖縄県北部および西表島」(鹿児島県、沖縄県)の世界自然遺産への登録も26日に決定されており、日本の世界遺産は25件となる。文化遺産では「百舌鳥・古市古墳群」(大阪府)に続き20件目。紀元前の遺跡では初となる。
 登録されたのは北海道、青森県、岩手県、秋田県に点在する17遺跡。三内丸山遺跡のほかに、貝塚と集落跡の「北黄金貝塚」(北海道伊達市)、大規模集落跡の「御所野遺跡」(岩手県一戸町)、特徴的な遮光器土偶が出土した「亀ヶ岡石器時代遺跡」(青森県つるが市)、最古の土器片が出土した「大平山元遺跡」(青森県外ヶ浜町)などがある。集団墓の「キウス周堤墓群」(北海道千歳市)、ストーンサークルの「大湯環状列石」(秋田県鹿角市)、「伊勢堂岱遺跡」(秋田県北秋田市)といった祭祀や儀礼に関する遺跡も含まれる。
 約1万5000年前から1万年以上も続いた縄文時代の貴重な遺跡群だ。「先史時代の農耕を伴わない定住社会と複雑な精神文化を示している」と評価された。農耕や牧畜を選択することなく、狩猟や採集・漁労を基盤としながらも定住を進め、協調的な社会を形成、長期間にわたった縄文文化は、人類史にとって極めて貴重とされる。土偶や墓などから想像される複雑な精神文化も発展した。
 当時の海面は現在より約5メートル高く、内陸部まで海が広がっていたとされる。いわば「縄文海進」。温暖で日本列島はクリやクルミなどが実る落葉広葉樹が広がり、魚介類も豊富な生物多様性に富んだ自然が育まれた。縄文文化はこの豊かな自然と共生し、気候変動や自然環境の変化に巧みに適応、1万年以上にわたり持続可能な社会を形成した日本特有の先史文化だ。
 世界で最古ともされる土器が作られ、安定した暮らしのムラも出現した。ムラの周囲ではクリなどが栽培され、「縄文里山」と呼ばれる人為的な生態系も成立した。自然に大きな負荷を与えず、持続可能な資源の利用、優れた技術と豊かな精神世界を内包した成熟した社会として、現在に学ぶもことも多い。
 「凍てつくる真冬の空を押し上げて縄文遺跡の木柱は立つ」(中里茉莉子)。三内丸山遺跡を訪れたのは2016年11月、もう青森は雪の季節だった。緩やかな丘陵の先端、約35万平方メートルと想像を超える規模に驚かされた。縄文前期から中期まで(約5900―4200年前)の約1500年も続いた大規模な定住集落跡。住居や倉庫のほか、シンボル的な3層の大型掘立柱建物=写真=が再現されている。発掘は今も続いており、縄文文化の研究が継続されている。新たな歴史の発見が期待される。
 この地に遺跡が存在することは江戸時代から知られていたというが、1992年、総合運動公園の拡張工事に伴う調査で、次々と竪穴建物跡、盛土、大人や子どもの墓、多量の土器や石器、木製品、骨角製品、さらにはヒスイや土偶など祭祀に関係する遺物も出土した。1994年に見つかった大型掘立柱建物跡と考えられる6本のクリの柱は直径約1メートルに及び、高さは10~20メートルになったとされる。
 遺構の発見により、縄文人は移動しながら狩猟・採集生活を送っていたとの定説が覆された。これを受け同年、青森県では既に着工していた野球場建設を中止し保存を決定した。復元された大型掘立柱建物のスケールの大きさには目を見張るものがある。コロナ禍によって思い通りの外出は無理な昨今だが、悠久の歴史に想いを馳せ、その息吹に触れられる旅が、また自由にできる日々が早く来ることを願わずにいられない。(麦秀の嘆)

2021年8月2日第7103号

自粛のコロナ対策と郵政の類似点

 新型コロナウイルスの感染拡大が収まらない中で、東京五輪が始まった。インド型(デルタ型)は感染力が従来型にも増して強力であり、予防接種の進んだ国を含めて世界で改めて猛威を振るっているところであり、ウイルスという「見えない敵」との闘いの中での開催となった。
 我が国の感染防止対策は、国や自治体が人々に自粛を求める方法が主である。私権を制限することが難しい現行法制下では致し方ない。緊急事態宣言、まん延防止等重点措置が何度も発令されていることに、国民は感染を恐れつつも、「いつまで我慢を強いられるのか」「マンネリ化で人々が慣れてしまって効力が薄い」「テレワークでも仕事はできるが、対面で仕事した方がはかどる」といった認識が、市井の一般的な受け止めではなかろうか。
 都内で見ても、繁華街の人出は減るどころか増加している点があるし、電車の混雑度合いは外出自粛している人が多いとは言えない程度。7月下旬の四連休は高速道路で渋滞が発生し、五輪開会式会場近くは混雑したと報道されている。
 さて、この2年来、かんぽ不適正営業問題に端を発した日本郵政グループ全体での改革運動の進捗は、どのような状況であろうか。日本郵便からかんぽ生命への渉外要員の出向やかんぽ営業拠点の集約再編といった、目に見える対策も進行中である。また、目には見えない社風、組織風土を変えようという動きも、経営理念の浸透を図る活動などが継続され、グループ全体として取組みの途上にある。
 日本郵政グループを改革する上で、変革すべき点は複数あり、新型コロナウイルスのように真因は一つではなく、「目に見えない敵」も複数。その一つは、社員の意識である。それが積み重なって社風になる面もあるし、社風に染まって「ま、いいや」となる面の双方があり得る。
 道半ばの今、社員の意識はどのくらい変わっているであろうか。金融営業に関係した社員、郵便や荷物、共通部門の担当社員、本社支社等、色々な切り口があるが、まず、直接関与を疑われ、又は関与し、相応の処分を受けた社員は、当然ながら自分事として受け止めた。そうでない社員はどうであろうか。
 「会社は大変だが自分の担当には直接関係ないし、今までどおりのやり方で自分の仕事は回る」「日々の業務に追われて、それをこなすのが精一杯なのが現状」「頭では分かるが、何を変えればよいのか」といった向きも、表立って言わないにしても、少なからずあるのではと危惧する。
 冒頭のコロナ対策を引き合いに出せば、対策を講じていることへの慣れ、今までどおりで不便はない、どことなく他人事、恐ろしいが自分の身には(確率的に)降りかかってこない、といった共通点があるように感じる。加えて、中計(JPビジョン2025)で示された将来は分かるが、社員の日々の仕事に実感を伴わない、明るい未来が見えないといった、前向きな将来像を実感できる対応の不足という側面もあるのではなかろうか。これは、コロナ以前からの日本の将来についても言えることではあるが。
 仮に、我が国で法体系が見直されて強制力を伴うコロナ対策が行われたら、法令である以上従わざるを得なくなる。郵政グループに例えてみると、意に反してボーナスが4・3か月分から突如3.0か月分に減らされるといった「痛み」を伴う荒療治がないと多くの社員が本気にならないのでは?とは思いたくないが、多くの社員が「自分事」として「見えない敵」と戦い、課題を克服することを心から期待する。
(コン・ブリオ)

2021年7月19日第7101・7102合併号

「安いニッポン」いつまで続く

 2020年度の国の税収が想定を5兆円超上回り、過去最高の60.8兆円程度に達することが明らかになったと最近のニュース報道があった。これまでは18年度の60.4兆円が最高で、これを2年ぶりに更新するという。
 新型コロナウイルスの影響が懸念されたが、製造業など一部企業の業績が好調で法人税収が伸び、19年10月の消費税増税の効果が年間を通して出たことも税収全体を押し上げたとのことである。
 新型コロナウイルスの影響による業績悪化のニュースが多い中、意外なことと受け止めた方も多いのではないだろうか。旅行業界などはその影響が顕著な業界であるが、旅行会社大手のJTBが資本金を23億400万円から1億円に減資すると報道されたのは今年2月のこと。
 JTBはその時点で2021年3月期に約1000億円の損失が見込まれており、減資により損失を補填できることと資本金1億円以下となることで税制が優遇される中小企業となることが目的だ。
 東京商工リサーチによると同様に今年1億円以下に減資を行う企業は、スカイマークなど都内企業だけで前年比53%増の514社に上るという。2015年に経営再建中だったシャープが同様に減資を試みた際には「大きな企業なのに中小企業のフリをするのか」との批判が相次ぎ、断念した経緯がある。今回は新型コロナウイルスという事情から株主にも受け入れられたということなのだろうが、このように大変厳しい環境の中にも関わらず、法人税が過去最高となるという現実は一体何なのだろう。
 日本の株式市場が持ち直しているという話を聞く。今年2月に日経平均株価が3万円を超えた際、菅首相は「目標の目標のまた目標だった、感慨深い」と述べた。現在は3万円を下回っているが、菅首相が目標に見据えたのは1989年末の最高額だろう。それから30年間、日本の株価は低迷したままである。 一方、米国のダウ平均株価を見ると、1990年からの30年間で10倍になっている。一概に比較はできないが、この30年の間に日本が世界の中で後れをとってきたのは紛れもない事実だ。
 最近「安いニッポン」という本が話題になっている。新型コロナ感染が始まる前の2019年12月に日本経済新聞紙上で特集され始めた記事を再編集して、今年3月に出版されたものである。
 その内容は、年収1400万円はアメリカでは低所得層、ニセコなどの不動産を外国人が買い漁っている、薄給だったアニメーターが続々と中国のアニメ会社に転職しているといった衝撃的な話題が綴られている。
 コロナ禍前の一昨年まで海外からの観光客が日本へ押し寄せていた。日本製品の品質の良さや風光明媚さを目的に外国人が来ていたと思いたいが、実際は自国で購入するよりも日本で買う方が圧倒的に安いと実感できる国の人たちが押し寄せたインバウンド需要であった。日本の国内物価の安さとともに所得水準も、世界の中では決して高くはない水準になってしまったのが現実である。
 今年1月、連合の神津里季生会長とのオンライン会談で、当時経団連会長だった中西宏明氏が「日本の賃金水準がいつの間にかOECD(経済協力開発機構)の中で相当下位になってしまった」と語ったが、年功序列や終身雇用の見直し、就活ルールの廃止などを唱え、日本の経済界を先導した中西宏明氏が先日逝去された。
 経済界の稀有なリーダーを失った日本、これからこの「安いニッポン」はいつまで続くのだろうか。
(多摩の翡翠)

2021年7月12日第7100号

子どもを産み育てやすい国か

 「子どもを産み育てやすい国だと思うか」と聞いたところ、「そう思わない」と答えた人が日本では61.1%にも達した。内閣府の「少子化社会に関する国際意識調査」から分かった。5年に1回、少子化対策に役立てることを目的に実施している。今回は昨年10月~今年1月にかけて日本、フランス、ドイツ、スウェーデンの29~49歳の男女を対象に行った。
 育てやすい国だと「思う」人は、日本では38.3%に過ぎないが、フランスは82.0%、ドイツは77.0%、スウェーデンは97.1%も占める。日本で6割以上になった「思わない」は、それぞれ17.6%、22.8%、2.1%と非常に少ない。
 育てやすいと思う理由では「各種の保育サービスの充実」「教育費の支援・軽減」「妊娠から出産後まで母体・小児医療が充実」「安心して育てられる環境整備」「フレックスタイムなど柔軟な働き方ができる」「育児や出産休暇が取りやすい」「育児休業中の所得保障の充実」などが日本と比べると大きく高い。日本が高かったのは「地域の治安がいいから」だった。
 「小学校入学前の子どもの育児における夫・妻の役割」では「主に妻が行うが夫も手伝う」が日本では49.9%を占めている。「妻も夫も同じように行う」はフランスで60.9%、ドイツ62.7%、スウェーデンでは94.5%にもなる。
 日本で育児を支援する施策として望むものは、過去の結果と比較すると「経済的負担を軽減する手当の充実や税制上の措置」「企業のワーク・ライフ・バランスの促進」「男性の育児休業の促進」「育児休業中の所得保障の充実」が増加している。
 日本の人口はこのまま推移すれば2065年には約8800万人になると推計され、少子高齢化が進展している。2020年の出生数は前年より2万4407人減少し84万832人。過去最少だ。合計特殊出生率も1.34と前年の1.36より低下した。厚生労働省が6月4日に人口動態統計を明らかにしている。
 また、総務省が2020年国勢調査の人口速報集計を6月25日に明らかにした(2020年10月1日現在)。日本の人口は1億2622万6568人。2015年の前回調査の1億2709万4745人から86万8177人ほど減少した。1920(大正9)年の開始(5596万3053人)から前回調査で初めて減少に転じたが、マイナス傾向は定着したといえる。男性は6136万14人、女性は6486万6554人。女性が350万6540人ほど多い。
 国際連合の推計によると世界の人口は77億9500万人。最多が中国(14億3900万人)、次いでインド(13億8000万人、アメリカ(3億3100万人)、インドネシア(2億7400万人)、パキスタン(2億2100万人)。以下、ブラジル、ナイジェリア、バングラデシュ、ロシア、メキシコと続き日本は11番目となっている。
 都道府県別では東京が1406万4696人、神奈川924万411人、大阪884万2523人、愛知754万6192人、埼玉734万6836人と続く。東京は54万9424人増加し、初めて1400万人を超えた。
 増加したのは9都府県(埼玉、千葉、東京、神奈川、愛知、大阪、滋賀、福岡、沖縄)。首都圏4都県は人口の約3割を占め、この5年間で80万8000人増加した。一方、北海道(15万2848人減)など38道府県では減少している。全国の市町村(1719)では82・4%に当たる1416市町村で人口減少となった。東京圏への一極集中が相変わらず進んでいる実態が浮き彫りとなっている。
 厚生労働白書は高齢化と同時に65歳以上の単独世帯は31・5%に達し、2040年には約4割、900万世帯になると推計している。内閣府の高齢化社会白書では60歳以上のおよそ3人に1人が「家族以外に親しい友人がいない」という実態を取り上げている。高齢者の孤独が深刻となっていることを指摘する。
 少子高齢化社会はますます進展する。子どもが育てやすく、高齢者にも優しい社会の在り方を幅広い視点から検証し、有効な対策を考えることが求められる。


(和光同塵)

2021年7月5日 第7099号

中計は出たが具体的な道筋示せ

 去る5月に、日本郵政グループの新中期経営計画が「JPビジョン2025」(以下「中計」という)が発表されたのはご存知のとおり。今後5年間に進むべき方向を「共創プラットフォーム」を根本的な方針として据え、デジタル化を進め、更に地域・社会に役に立っていこうという姿勢を表明したものだ。
 中計発表後の関係者の受け止めは、会社が思ったとおりだったのだろうか、気になるところだ。
 日本郵政グループ労働組合(JP労組)は、会社の中計とは別に、組合が考える将来像を予てから示し、同組合の全国大会でも議論されている。働く社員の立場から見て、日本の経済、社会の変化、日本郵政グループの課題の大きさと、これまで経営に「煮え湯」を飲まされた宅配統合後のボーナスカットの経験も踏まえ、組合としてグループの将来を切り開いていかねばならないという姿勢が見て取れる。
 注目したいのは、日本郵政グループが包含する本質的な問題をJP労組が指摘していることだ。ゆうちょ、かんぽの2社は、歴史的低金利下で収益減、そしてコスト削減が必至だが、その費用の多くを占める日本郵便への委託手数料を減らせば日本郵便の収益が減少し、結果として郵便局窓口事業の経営が難しくなる構造。
 これは本来、会社が社員に理解させるべきことではないだろうか。それにとどまらず、このような課題に応えるための打ち手についても、社員に説得力を持った内容で説明する必要があろう。
 中計にはデジタル郵便局など様々な施策が盛り込まれているが、それらがどのように効果を発揮していくのか、会社や社員の生活が「良くなるんだ」という社員の実感を引き出す仕掛けが、会社の次の取組みとして求められる。それがあってこそ、社員が安心して日々の業務に励むことができるし、社外のステークホルダーも日本郵政グループの将来に対して肯定的な評価を行いやすくなるだろう。
 また、中計の中から読み切れないことをもう一つ挙げるとすれば、前述のゆうちょ・かんぽ・日本郵便という3社の置かれた構造の中で、どのように郵便局ネットワークを維持発展させていくのかという点を、分かりやすく説明しないといけないということだ。郵便局窓口事業の収益が減少すれば、コストを削減する必要がある。セグメント別の労働力数は不明だが、日本郵便では3万人相当分を採用抑制等により自然減させる計画だ。
 率直に、社員は要員削減の規模感に対して不安を抱くし、郵便局窓口の費用削減の観点からは、デジタル化すれば何でも解決するという性格のものでもない。むしろ、デジタル化されたサイバー空間の郵便局でサービスが今以上に便利になれば、来局者数が減少する可能性がある。
 郵便局数を簡単に減らせない中、どのコストを減らしていくのか、要員が減るなら2人局が増えるのか、要員のローテーションを柔軟に行うのか、それとも何か別の手があるのか等々、疑問はいくつも想起される。
 これに関連して、6月22日に日本郵便が発表した一部郵便局の窓口時間の短縮の取組みは、実施局が離島などに限られるとはいえ、今後取り得る現実的な選択肢を示したものと言える。
 今回の中計は5年間だが途中で見直しも予定されているし、今後5年間のIT投資計画は中計発表前の4月28日に個別に報道発表されていることを考えると、重要な方針については、それが華々しいテーマでなくても、準備を進め、機を逸することなく社内外に示していくべきだろう。


(ケーニヒスベルク)

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