コラム「春秋一話」

 年/月

2021年10月18日第7114号

新型コロナと「キネマの神様」

 9月28日、政府は全国27都道府県に発令されていた緊急事態宣言、まん延防止等重点措置を解除する方針を示し、今年4月から発令されていた緊急事態が9月30日をもって終了した。時間制限を残してはいるものの飲食店での酒類の提供についても解禁され、経済再開に向けた新型コロナとの共存が模索される新たな状況となった。
 最初の緊急事態宣言が首都圏などを対象として発出されたのは昨年4月7日、その10日後には全都道府県に対象が拡大、最終的に5月25日まで続いた。この間、特措法に基づき、公立学校の休校、外出自粛、催し物の開催制限、施設の使用制限などの措置が講じられ、経験したことのない災厄に対して予防法もなく手探り状態での行動抑制が行われた。
 影響が大きかった業種は多数あるが、映画、演劇などエンターテイメント業界も多大な影響を受けた。映画館の閉鎖により封切り映画が上映できないだけでなく、撮影も中断せざるを得なくなっていた。6月以降、順次緩和されたものの時期を外した映画を上映するわけにもいかず、多くの映画館でジブリ作品など過去の人気作品を上映して急場を凌いでいた。
 今年8月に公開された山田洋次監督の「キネマの神様」も新型コロナの影響を大きく受けた映画の一つだ。この映画は作家の原田マハさんが2008年に刊行した小説を原作とした映画である。小説は、主人公の円山歩がその父親の多重債務の原因となっているギャンブルと酒を強制的に辞めさせるため、もう一つの趣味である映画鑑賞だけを許し、自身も映画評論に関わりながら人生が思わぬ方向へ展開していくという物語である。
 山田洋次監督はこの小説を映画化するにあたり、現代の主人公たちの日常に加え、父親が若い時代に助監督として映画界に関わり、母親も撮影所近くの食堂の娘という原作にはない50年前の物語を加え、現在と過去とをシンクロさせるという脚本に書き換え、現代を舞台にした父親役を映画初出演の志村けんさん、若い時代を菅田将暉さん主演として撮影が始まった。
 撮影は昨年2月に過去の時代から始められ、その後に現代版の撮影に入る予定になっていた。しかし、3月に志村けんさんが新型コロナ感染により配役を辞退、その後に急逝し、撮影も中止せざるを得ない状況となった。志村けんさんの代役を沢田研二さんが演じることとなり撮影が再開されるが、度重なる撮影中断により予定は大幅に伸び、今年8月に公開となった。
 映画は円山歩が勤める事務所で2019年秋に日本で開催されていたラグビーワールドカップをテレビ観戦しているシーンから始まる。その後、現代と過去が交互に映し出されるが、現代の場面では、横浜港に寄港したクルーズ船のテレビニュースや、街中を歩くマスク姿の人々など、日を追うごとに新型コロナの感染が広がる様子を映し出す。
 終盤では、父が唯一の趣味として通っていた友人が経営する名画座も休館の影響で行き詰まっていくが、最後の場面では父親が「やはりキネマの神様はいるんだ」と思いながら終わる。
 この映画は松竹映画100周年記念作品として公開されたものだが、100年前といえばスペイン風邪の流行、アントワープオリンピックなど現代を彷彿させる出来事があった時代である。時代は変化していくものの自然に抗えぬ人間だが、映画「キネマの神様」では50年という時代をつなぐ神様、そして小説「キネマの神様」では家族を結ぶ神様が描かれる。
 さて、新型コロナの時代を経た現代を生きる我々にとって、明るい未来を描き出してくれる神様はいるだろうか。
(多摩の翡翠)

2021年10月11日第7113号

「ユウちゃん」「アイちゃん」

 「ユウちゃん」「アイちゃん」と聞いて、ピンとくる日本郵政グループの社員は多いだろうか。郵便貯金のマスコットキャラクターとして、郵政省時代には広く親しまれた。「郵便貯金のペットを募集」と、昭和37(1962)年に部内から募った。翌38年にリスが選ばれ、さらに一般公募で愛称が「ユウちゃん」と決まった。
 愛称への応募は10万1349通、そのうち875通が「ユウちゃん」だった。名付け親の賞金として1万円の定額証書が、抽選で10人に贈られた。大卒初任給が約1万9000円の時代だから、相当な金額だ。
 リスに選ばれたのは、日本に広く生息し、可愛くて年齢にかかわらず親しまれ、活動的で木の実を集めてコツコツと蓄える習性があること、また、植物の種子を森全体に広げ、自然を豊かにしていることに貢献していることなどが、貯蓄や財政投融資によって、社会に福利を還元する郵便貯金が果たしている役割の象徴に相応しいとの理由だ。現在のSDGsにもつながる。
 初代の「ユウちゃん」は大事そうにドングリを手にしていた。誕生を祝って全国各地で「郵便貯金マスコット祭り」として、様々な記念行事が繰り広げられたことを、当時の通信文化新報は報じている。
 松山郵政局では、徳島地方貯金局の職員で構成する阿波踊りの“貯金連”を招き、松山市でPRに努めた。本場の阿波踊りでも、毎年にように上位入賞をしているベテランぞろいの約60人が繁華街を練り歩き、約7万人がつめかけたという。金沢郵政局では、今ではちょっと眉をひそめられそうだが、記念たばこを配布。広島郵政局は、貯金体験文を懸賞募集した。
 アメリカとスウェーデンの郵政長官からは、リスのつがいが贈られてきた。ノースウェスト航空、スカンジナビア航空のキャビンアテンダントが郵政省を訪れ、郵政長官のメッセージと共に古池信三郵政大臣に手渡した。このリスたちは、東京郵政局がNHKとタイアップして世田谷区民会館で行われた“のど自慢”で披露され、その後に上野動物園に寄贈された。
 この「ユウちゃん」誕生に「渋い顔をしている」とのニュースも。ひと足先にリスをマスコットキャラクターにしていた埼玉銀行、西日本相互銀行などが「縄張り荒らしは困ると当惑」していると新聞記事になった。
 「ユウちゃん」のように、企業や商品の顔として、時代を超えて長く親しまれてきたマスコットキャラクター、誕生時のエピソードや歴代の変遷などを知ることができる「日本カンパニーキャラ&シンボル大全」を、辰巳出版が9月に発行した(1650円)。日本のキャラクター文化が総覧できる。もちろん「ユウちゃん」も登場している。
 マスコットキャラクターの多くは1960~1990年代までに誕生したという。「他社との差別化を図るため」「製品に親しみをもってもらうため」など、オリジナリティに富んだ様々な“顔”が生まれてきた。時代の流れに応じて、少しずつデザインの変更も重ね、広く親しまれる存在となった。本ではバラエティ豊かな愛すべきキャラクターたちにまつわるストーリーを楽しめる。
 「ユウちゃん」は平成2(1990)年、約30年近くにわたって活躍してきた初代から2代目に受け継がれた。同時に妹の「アイちゃん」、両親も登場、「ユウちゃん」一家は総合通帳の表紙にもなって、郵便貯金のイメージアップに貢献した。5年後の平成7年には、おじいちゃん、おばあちゃんも一家に加わった。
 平成19(2007)年10月の郵政民営化により、郵便貯金の商品やサービスはゆうちょ銀行に引き継がれたものの「ユウちゃん」一家は姿を消した。しかし、木の実を広く運び、森林を豊かにし、多くの生き物を育むといったリスに象徴されるように、社会に貢献する“ゆうちょ”の役割は、いつまでも引き継いでほしい。
(和光同塵)


2021年10月4日第7112号

お客さまの信頼回復とその次に

 去る9月22日に、JP改革実行委員会から、日本郵政グループにおける「お客さまの信頼回復に向けた約束」評価報告書(以下、「報告書」)が出ている。かんぽ不適正営業事案を受けて対策を進めてきた中で、お客さまの信頼回復に向けた5つの約束の達成状況の評価を行っている。報告書を読んで、気になる点と今後について考えてみたい。
 まず、約束5(お客さまに喜んでいただける商品・サービスを提供します)と約束4(法令・ルールを遵守し、お客さまが安心してご利用いただける高品質のサービスを提供します)の評価の差が、判断する主体によってバラつきがある点が気になる。
 即ち、約束5は「お客さまの満足度」(お客さまから見た判断)と「社員浸透度」(社員から見た判断)では約束4より評価点が低い(相対的に見てできていないということになる)。これに対し、「活動の達成度」(目標値による判断)と「委員評価」(JP改革実行委員の判断)では、逆に約束5が約束4よりも高い。しかも「活動の達成度」では約束5は満点(5点)と、約束4の2.2点の倍以上の差だ。
 「委員評価」では約束5が3.7、約束4が3.6と僅差だが、合計評価点では、約束5の方が約束4よりも達成度が高くなっている。これをやや乱暴に言えば、お客さまや社員は、日本郵政グループはお客さまに喜んでもらえる商品・サービスを十分に提供しきれていないと思っているのに対し、設定した目標値による評価だと、それなりに提供できているということになる。
 約束4の評価方法は「サービス改善数」、つまり、改善した項目が多ければ計画を達成していることになるという基準だ。確かに、この1年間、様々なサービス改善が実施されている。ただ、お客さまと社員の感覚と、数値目標とのギャップは気持ちが悪い。お客さまも社員も良いサービスだと感じられるような、本質に迫るサービス改善を望みたい。
 次に考えたいのが、これら5つの約束を更に深掘りしていくために何が必要かという点だ。報告書では、この1年の活動は「マイナスをゼロに戻すための第一フェーズの活動に過ぎない」としており、次のフェーズは当然ながら「顧客本位の事業運営を徹底することで、顧客との信頼回復に向けて取り組んでいくこと」であり、それがなければ日本郵政グループの将来はない。非常にもっともなことだ。
 このときに大事にしておきたいのが、社員が会社のために頑張って働こうと思うかどうか、社員満足(ES)がどの程度高まっているかだ。この点、報告書に気になる記述がある。「一部の社員の中に会社への不信感が生じ、日本郵政グループへの帰属意識が希薄化していることが感じられた」と指摘する。
 社員が不満足な状況では、顧客に喜びを与えられない。社員が納得感を持てる対策、また日頃からの業務運営の在り方、指揮命令系統の改善等々、社風改革も含め、継続した対応を期待したい。
 さらには、もう少し先の姿を見据えて、並行して動いていかねばならない。お客さまの信頼回復後、事業として持続可能な利益を安定して獲得できるようにしていく必要がある。
 金融営業の冷え切った営業マインドを温めなおすのは容易ではないが、お客さま本位で、社員も安心して営業でき、魅力的な商品・サービス提供を可能とする具体的な道筋を、社員に語れる日が早期に訪れることを願う。
 そして、費用面でどのようなあるべき姿を構想していくのか、こちらも具体像を示していかねばならない。
(ケーニヒスベルク)

2021年9月20日第7110・7111合併号

東京2020大会と女性活躍推進

 シンガーソングライターの松任谷由実さんが昨年12月に「深海の街」というアルバムをリリースした。
 アルバム制作中にコロナ禍となり外出自粛を余儀なくされたが、地球規模で人類に影響を与え、世界史に残るような2020年にこそ、楽曲をアルバムとして記すべきという強い想いを持ってリリースしたそうである。
 このアルバムに「1920」という曲が収録されている。彼女の母親が2020年5月に百歳を迎えたがコロナ禍で施設に会いに行くこともできず、母の生まれた年について調べたところ、世界的なスペイン風邪の流行、オリンピックの開催など2020年との共通項がいくつも見つかり、そこからこの曲のイメージが膨らんでいったという。
 1920年のオリンピックは、第1次世界大戦終戦後のベルギー・アントワープで開催されたが、敗戦国の出場禁止、2年ほど前からのスペイン風邪の流行、資金難による宣伝不足など、困難を極めた中での開催だった。「1920」には「空席だらけのコロシアム」という一節があり、まるで今回の大会を予知したかのようだ。
 1年延期された東京2020大会だが、直前になっても新型コロナウイルスの猛威は衰えるどころか感染は拡大し、東京など緊急事態宣言が発令される中、競技場はほぼ無観客という前例のない大会となった。幸い感染が爆発的に広がるなどの最悪の事態は避けられ、最終的にはその開催を肯定的に捉える人が6割を超えていたとの報道の中、全日程を終えた。
 今回の東京大会は男女共同参画についても注目される大会となった。各種競技では男女の種目が同等になるように確保され、男女混合競技も前回大会から倍増の18種目となっていた。また開会式では全ての国、団体で男女1名ずつのアスリートが旗を掲げ、大会ビジョンの「多様性と調和」を表していた。
 このビジョンは「あらゆる分野で男女が共に参画し女性の活躍が進むことが豊かで活力ある持続可能な社会を生み出し、暮らしやすい社会の実現に貢献すること」を目指すとされた。国内における女性活躍推進への取組は、2003年に内閣府から「社会のあらゆる分野において、2020年までに指導的地位に女性が占める割合が少なくとも30%程度になるよう期待する」との目標が設定されたが、直近2019年の統計を見ても米国などで40%を超えているのに比べ、日本は15%に至っていない。
 昨年12月に閣議決定された「第5次男女共同参画基本計画」では公務員だけでなく民間企業においても係長相当職の女性割合30%以上の目標を2025年までと5年延長している。日本郵政グループが発表している中期経営計画「JPビジョン2025」においては「本社における女性管理者比率を2030年までに30%以上とする」とあるが、本社以外の組織においては「環境整備・人材育成に取り組む」とあり数値目標は設定されていないようだ。
 本紙に連載を掲載している前川孝雄氏が6月7日号で「女性管理職比率向上は社会の枠組み改革とセットで進める視点が大事」と書いている。
 今大会開催前の組織委員長の発言、女子ボクシング競技で金メダルに輝いた選手に対するテレビ解説者の発言など、女性に対する蔑視発言が報道された。
 これまで日本国内では目くじらを立てるほどのことではないと見過ごされてきていたが、このような古い意識の改革が基本だろう。今回の東京2020大会が、社会、企業の古いパラダイムの変革につながる契機になればと願う。
(多摩の翡翠)

2021年9月13日第7109号

組み合わせの妙がプラス効果

 先日、テレビで「FNSラフ&ミュージック~歌と笑いの祭典~」という番組を観た。週末に2夜連続、計9時間におよぶ生放送の番組だ。内容は「歌と笑いの融合」がテーマで、アーティストとお笑い芸人がコラボして歌やネタを披露したほか、普段は見られない顔ぶれでのトークが繰り広げられていた。
 お笑い芸人の松本人志さん、タレントの中居正広さん、お笑いコンビ・ナインティナインの岡村隆史さんと矢部浩之さんを中心に、お笑いコンビ・千鳥の大悟さんとノブさん、お笑いコンビ・アンタッチャブルの山崎弘也さんと柴田英嗣さんらが中心となって番組を進行。久しぶりに面白い番組を観たというのが正直な感想だ。
 この番組内で、お笑いタレントの内村光良さんがサプライズ出演した。松本人志さんとの共演はフジテレビ系「笑っていいとも!」のグランドフィナーレで共演して以来7年ぶりとなる。それ以外にテレビではこの2人は共演していないだけに「この2ショットは久しぶりだな」と思った。
 テレビの世界では共演NGという言葉を耳にする。松本さん(ダウンタウン)と内村さん(ウッチャンナンチャン)もそのくくりで扱われることもある。だが、松本さんと内村さんは今から30年くらい前にフジテレビ系「夢で逢えたら」というバラエティー番組で、ダウンタウンとウッチャンナンチャンとして共に出演している。人気番組でもあり、当時よく観ていた。
 松本さんの方が一つ年上だが、2人は互いをずっと「ウッチャン」「松ちゃん」と呼んでいる。今回の共演でも同じように呼び合っていた。ネットでの反応を見ると、若い世代ほどこのことが斬新に映ったようだ。
 共演NGの話題でよく名前があがるのが、とんねるずとダウンタウン。諸説あるが、当人同士は互いにそれほど何とも思っておらず、周りのスタッフや関係者たちが「この2組は共演させてはいけない」などと遠ざけてきたことで、今日までこれといった共演の機会がなかっただけのことと思われる。
 その2組が今から7年半前の2014年3月31日に放送された「笑っていいとも!グランドフィナーレ感謝の超特大号」で共演した。当初、直接絡む段取りではなかったようだが、タモリさん、ダウンタウンの2人、ウッチャンナンチャンの2組がステージ上でトークをしていた時に突然、とんねるずの2人が乱入した。当時、このシーンをテレビで観ていたが、非常に感動したのを覚えている。
 とんねるずもダウンタウンも、当時オンエアしていた番組は子どもの頃から大体観ていた。ダウンタウンは正統派の漫才で世に出てきたのに対して、とんねるずはコントなど、型にとらわれずとにかく笑わせるためにハチャメチャやっていた印象がある。
 とんねるずの方が年も上で、芸歴でも少し先輩にあたる。どちらのコンビも昭和から平成と、トップとして走り続けてきた。だがこれまで、上述の通り2組が共演する場面はほとんどなかった。
 もしもこの2組をメインとした番組が放送されるとしたら、果たしてどんな内容になるのだろう、と想像してみたが、タイプの大きく異なる2組なだけに全くと言っていいほど想像がつかない。
 最近よく、今のテレビはつまらなくなったと言われる。コンプライアンスが厳しくなっていることもあるので、致し方ない部分はあるが、一度この2組がメインとなって絡み合う番組を観てみたい。
 今までになかった組み合わせがプラスの効果を生み出し、その連鎖で人々が笑顔になる、そんな世の中になっていくといいなと思う。(九夏三伏)

2021年9月6日第7108号

国際切手展2021に思うこと

 8月25日から30日まで、パシフィコ横浜で「日本国際切手展2021」が開催された。主催者は日本郵便株式会社、公益財団法人日本郵趣協会、一般社団法人全日本郵趣連合、公益財団法人通信文化協会の4者で、名誉総裁は高円宮妃殿下である。
 日本での国際切手展は1971年以来、10年ごとに開催され、今回で6回目。新型コロナウイルスの世界的な流行のため、今回の国際切手展は、国際郵趣連盟(FIP)が認める全世界を対象とした国際切手展ではなく、アジア地域の国際切手展という建付けでの開催となった。
 未だコロナ禍が収まらず、緊急事態宣言発令の地域も拡大されている我が国で、このようなイベントを開催することに批判もあったろう。しかし、開催に漕ぎ着けた関係者の努力を多としたい。今回は、この国際切手展を取り上げて、いくつか考察してみたい。
 まず、郵政創業150年の節目の年に、日本で国際切手展を開催した意義を再確認してはいかがであろうか。明治4年の郵便創業以来の事業の歴史が、パネルや実際の郵便ポストなどの展示品により、簡潔かつ分かりやすく展示されていた。
 現在、日本郵政グループは信頼回復の途上にあり、コロナ禍もあってお客さまとの接点の持ち方も難しいものがある。明治以来150年の歴史は、戦争など順風満帆のときばかりでなく、努力の蓄積がある。こういった先人の労苦に思いを馳せ、足元を見つめ直し、郵政事業の将来を考えてみる機会としてほしいところである。
 第二に、世界的にコロナが感染拡大し始めてから、リアルに開催された国際切手展は、世界でも今回の日本国際切手展2021が初めてという点を評価したい。参加国・地域や参加作品数の減少や、アジア地域の国際切手展という位置付けに、いわば「格落ち」した枠組みという逆風にあっても、会場にはカテゴリーごとに蒐集・研究された作品が多数展示され、国際切手展としての水準でその成果が競われた。
 感染防止に万全を期し、物理的に開催に至らしめたことは、試行錯誤や困難を乗り越えたものであり、国内外の郵趣関係者にとって、力強いエールとなろう。
 第三に、国際切手展は、当然ながら世界一流の切手コレクションの競争と展示を行う場であるが、今回の切手展では、それにとどまらないイベント的要素に工夫がされていた。
 例えば、日本郵便が最近発売した63円と84円の2枚セットのフレーム切手をその場で写真撮影して作成するブース、クイズラリーに答えてガチャで当選すると本人の写真を撮って記念のキーホルダーにしてもらえる取組み。
 また、子供たちが郵便の区分や配達の流れを体験できるコーナーや、二輪車の展示、文房具愛好家が心躍らせる文房具ショップの出店など、郵趣家だけでなく、ターゲットを広げ、ITが進展して郵便や郵趣に触れる機会が減少した現代にあって、郵便に親しんでもらう良い機会を提供したといえる。更に、皇室関係の特別な展示も、名誉総裁のコレクションや、切手や絵葉書の原版など、注目すべき貴重な品々があった。
 郵便は、世界的に長期減少傾向にあるものの長い歴史を持ち、趣味の対象として奥深い領域を有している。郵趣家という深いレベルの趣味人ではなくとも、人々に幅広く郵便に触れて親しんでもらえるための努力は引き続き必要であり、今回の日本国際切手展ではそのための何らかの気付きもあったであろう。
 今後とも、郵便の普及・啓発のための様々な取組を積み重ね、今回の切手展を一つのステップアップの機会としてほしい。
(連環子)

2021年8月30日第7107号

真夏の配達 あなたならどうする

 その昔、郵便配達をしていた時のこと。朝から真夏の日差しが照り付ける、暑い夏の日の出来事だ。
 その日、要配達物数も書留の数も少なかった。道順組立もスムーズに終わり、かなり早く作業が進むなと思い、いつもより多く郵便物をバイクに積んで出発した。
 水分補給も適度にしながら順調に配達をしている中、あるお宅に書留があったので、配達しようと玄関まで行った。
 結構古い家で、広い庭があって、玄関は門から少し離れた所にある。
 その門を空けようとした時、人影が目に入った。その家の主、お婆ちゃんだ。門には呼び鈴は無いので、門を開けて玄関の呼び鈴を押すのがセオリーだ。しかし、そのお婆ちゃん、上半身裸で洗濯物を干している。
 正直戸惑った。このまま普通に門を開けて入って行ってよいものなのか。「きゃー!」とか大きな声を出されたりしないだろうか。想定外の光景を前に、一旦引き下がった。「どうしよう…」。
 ちょうどその時、同じ班の遅番の先輩がバイクで現れ、これから配達に向かう人の居住確認を私にしてきた。「救いの神!」と思い事情を説明した。すると先輩は笑いながら「大丈夫だよ、行っちゃいなよ」と言った。でも私はやはりそこまで堂々と行くことはできない。
 なので、先輩に「寿司おごるから代わりに行ってくださいよ」と頼んだ。先輩は「寿司?俺あまり寿司は好きじゃないんだよね…」と言う。「じゃあ焼肉!」と言うと、「最近暑いから食欲ないんだよね…」とかわしてきて、「あ、ごめん、午前配の書留あるから行くね」と行ってしまった。
 先輩は日頃から世話になっていて、気さくですごくいい人だが、その時だけは「なんて冷たい奴だ」と思った。
 現実に戻って、その家に再び行くと、まだお婆ちゃんは洗濯物を干している。思い悩んでいてもしょうがないので、ひとまずここはスルーして配達を続け、午前の配達を終えて帰局する前に、もう一度立ち寄ることにした。
 そして午前の配達を終え、再び向かった。「頼む、服着ていてくれ」そう願いつつ。家に着くと、庭にお婆ちゃんの姿は無かった。ひとまず安心して、門を開けて玄関の呼び鈴を押し、「書留です」と呼んだ。
 すると家の中から返事があり、少し時間がかかって出てきた。「どうぞ」というので戸を開けると、上着に袖を通しながらお婆ちゃんが登場。「暑い中ご苦労様」というような労いの言葉をかけてくれて、無事に配達することができた。
 帰局後、班の人たちに話をすると、みんな笑っていた。1人の先輩が「お婆ちゃんか…若い女の子だったらよかったのに」と言ったが、「いやいや、そういう問題じゃないでしょ…」と心の中で思った。
 そして午後の配達を終えて帰局すると、遅番のあの先輩がいた。すると満面の笑みで「さっきのお婆ちゃんどうした?」とからかってきたので、「ちゃんと配達しましたよ!」と切り返した。
 それ以降、その先輩が私の担当区に入った時などに、「あのお婆ちゃんに郵便あるけど(配達に)行く?」などいじられるようになった。「行かないです!」と返しつつ、集配の仕事で黙々と作業をしている中で、こういうちょっとした雑談も癒しになるのかな、なんて思った。
 郵便配達で、予期せぬ場面に遭遇することもある。そうした時に、どう対応したら良いのか。
 実体験を収集して、可能な範囲でマニュアル化しておくことも必要なのかなと思った。
(九夏三伏)

2021年8月23日第7106号

「ミチクサ先生」と呼ばれた漱石

 千代田区神田の丸の内線淡路町駅近くに「松榮亭」というレストランがある。創業1907(明治40)年という老舗の洋食レストランだ。ここのメニューに「洋風カキアゲ」という料理がある。昼時にはランチメニュー「カキアゲライス」としても人気がある。この松榮亭の初代店主は、東京大学の教授フォン・ケーベル氏の専属料理人だった。
 彼の家を訪れた教え子の夏目漱石が「何か変わったものが食べたい」とリクエストしたところ、冷蔵庫に残っていた食材を使い即席で作ったのが洋風カキアゲだった。漱石はそのオリジナル料理がたいそう気に入り、以来、松榮亭の看板メニューとなったそうだ。
 この明治の文豪夏目漱石の生涯を描いた「ミチクサ先生」という小説が日本経済新聞朝刊に掲載されていた。連載が始まったのは2019年秋。著者は「大人の流儀」シリーズのベストセラー作家の伊集院静氏。まだ「コロナウイルス」ということばも聞かなかった頃であり、毎朝、掲載の小説を読むのが楽しみになっていた。
 ところが日本国内へのコロナウイルスによる影響を予告するかのように2020年2月に著者の急病により休載となった。コロナ感染ではなかったが大病とのことで、一時は再開が難しいのではとも思われたが、幸い回復し約9か月後の同年11月に再開された。その後、順調に連載は進み、先月に連載が終了した。
 夏目漱石、本名夏目金之助は、東京牛込で生まれ、大学卒業後に、松山、熊本で英語の教員を勤める。熊本で教員をしているときに明治政府から英国への留学を命じられ、約3年間をロンドンで過ごす。
 日本へ帰国後は東京に居を移し、帝国大学の講師となり、しばらくして友人に勧められて教鞭をとりながら「吾輩は猫である」を執筆し、同人誌に掲載される。続く「坊ちゃん」も好評で、本人も小説執筆を生業とすることを望み、朝日新聞社に誘われて専属の小説家となり、数々の名作を執筆していくこととなる。
 伊集院静氏は10年ほど前に正岡子規を主人公とした「ノボさん」という小説を出版しているが、その中で漱石との友情を描き、漱石の「人間としての魅力に感心」したことが今回の小説に結実した。連載終了後の感想を述べた記事には「こんな人がそばにいたらずっと見ていたいと思うほどユーモアに富み、慈愛に満ちた人物であった」と感慨を語っている。
 この小説のタイトル「ミチクサ先生」は寺田寅彦が芥川龍之介に語る次のような逸話から付けられている。
 熊本での教員時代、学生だった寺田寅彦が俳句に夢中で勉学が疎かになっていると教師から叱られたことを漱石に相談した際、「叱られるかと思ったら、先生は笑って庭の築山を指し『教師はあの築山のてっぺんが最終の目標のごとく教えるだろう。でも実は、勉学も生きることもいかに早くてっぺんに登るかなんてどうでもいいこと。いろんなところから登って、滑り落ちるのもいれば、転んでしまうのもいる。山に登るのはどこから登ってもいい。むしろ転んだり汗を掻き掻き半ベソくらいした方が同じてっぺんに立っても見える風景は格別なんだ。ミチクサは大いにすべしさ』」と。
 私の年代にとって高校1年での課題図書だった「こころ」や、「草枕」「三四郎」など堅いイメージの強い漱石だが、その生涯の中では、家族や友人を慈しみ、多くの作家に影響を与え、日本の歴史にも大きな足跡を残したことを改めて知ることができた。近いうちに「草枕」を読み直してみよう。
(多摩の翡翠)

2021年8月9日第7104・7105合併号

自然と共生した縄文文化


 日本最大級の縄文遺跡で知られる「三内丸山遺跡」(青森市)をはじめとした「北海道・北東北の縄文遺跡群」が、世界文化遺産に登録されることになった。ユネスコ(国連教育科学文化機関)の世界遺産委員会が7月27日に決定した。「奄美大島、徳之島、沖縄県北部および西表島」(鹿児島県、沖縄県)の世界自然遺産への登録も26日に決定されており、日本の世界遺産は25件となる。文化遺産では「百舌鳥・古市古墳群」(大阪府)に続き20件目。紀元前の遺跡では初となる。
 登録されたのは北海道、青森県、岩手県、秋田県に点在する17遺跡。三内丸山遺跡のほかに、貝塚と集落跡の「北黄金貝塚」(北海道伊達市)、大規模集落跡の「御所野遺跡」(岩手県一戸町)、特徴的な遮光器土偶が出土した「亀ヶ岡石器時代遺跡」(青森県つるが市)、最古の土器片が出土した「大平山元遺跡」(青森県外ヶ浜町)などがある。集団墓の「キウス周堤墓群」(北海道千歳市)、ストーンサークルの「大湯環状列石」(秋田県鹿角市)、「伊勢堂岱遺跡」(秋田県北秋田市)といった祭祀や儀礼に関する遺跡も含まれる。
 約1万5000年前から1万年以上も続いた縄文時代の貴重な遺跡群だ。「先史時代の農耕を伴わない定住社会と複雑な精神文化を示している」と評価された。農耕や牧畜を選択することなく、狩猟や採集・漁労を基盤としながらも定住を進め、協調的な社会を形成、長期間にわたった縄文文化は、人類史にとって極めて貴重とされる。土偶や墓などから想像される複雑な精神文化も発展した。
 当時の海面は現在より約5メートル高く、内陸部まで海が広がっていたとされる。いわば「縄文海進」。温暖で日本列島はクリやクルミなどが実る落葉広葉樹が広がり、魚介類も豊富な生物多様性に富んだ自然が育まれた。縄文文化はこの豊かな自然と共生し、気候変動や自然環境の変化に巧みに適応、1万年以上にわたり持続可能な社会を形成した日本特有の先史文化だ。
 世界で最古ともされる土器が作られ、安定した暮らしのムラも出現した。ムラの周囲ではクリなどが栽培され、「縄文里山」と呼ばれる人為的な生態系も成立した。自然に大きな負荷を与えず、持続可能な資源の利用、優れた技術と豊かな精神世界を内包した成熟した社会として、現在に学ぶもことも多い。
 「凍てつくる真冬の空を押し上げて縄文遺跡の木柱は立つ」(中里茉莉子)。三内丸山遺跡を訪れたのは2016年11月、もう青森は雪の季節だった。緩やかな丘陵の先端、約35万平方メートルと想像を超える規模に驚かされた。縄文前期から中期まで(約5900―4200年前)の約1500年も続いた大規模な定住集落跡。住居や倉庫のほか、シンボル的な3層の大型掘立柱建物=写真=が再現されている。発掘は今も続いており、縄文文化の研究が継続されている。新たな歴史の発見が期待される。
 この地に遺跡が存在することは江戸時代から知られていたというが、1992年、総合運動公園の拡張工事に伴う調査で、次々と竪穴建物跡、盛土、大人や子どもの墓、多量の土器や石器、木製品、骨角製品、さらにはヒスイや土偶など祭祀に関係する遺物も出土した。1994年に見つかった大型掘立柱建物跡と考えられる6本のクリの柱は直径約1メートルに及び、高さは10~20メートルになったとされる。
 遺構の発見により、縄文人は移動しながら狩猟・採集生活を送っていたとの定説が覆された。これを受け同年、青森県では既に着工していた野球場建設を中止し保存を決定した。復元された大型掘立柱建物のスケールの大きさには目を見張るものがある。コロナ禍によって思い通りの外出は無理な昨今だが、悠久の歴史に想いを馳せ、その息吹に触れられる旅が、また自由にできる日々が早く来ることを願わずにいられない。(麦秀の嘆)

2021年8月2日第7103号

自粛のコロナ対策と郵政の類似点

 新型コロナウイルスの感染拡大が収まらない中で、東京五輪が始まった。インド型(デルタ型)は感染力が従来型にも増して強力であり、予防接種の進んだ国を含めて世界で改めて猛威を振るっているところであり、ウイルスという「見えない敵」との闘いの中での開催となった。
 我が国の感染防止対策は、国や自治体が人々に自粛を求める方法が主である。私権を制限することが難しい現行法制下では致し方ない。緊急事態宣言、まん延防止等重点措置が何度も発令されていることに、国民は感染を恐れつつも、「いつまで我慢を強いられるのか」「マンネリ化で人々が慣れてしまって効力が薄い」「テレワークでも仕事はできるが、対面で仕事した方がはかどる」といった認識が、市井の一般的な受け止めではなかろうか。
 都内で見ても、繁華街の人出は減るどころか増加している点があるし、電車の混雑度合いは外出自粛している人が多いとは言えない程度。7月下旬の四連休は高速道路で渋滞が発生し、五輪開会式会場近くは混雑したと報道されている。
 さて、この2年来、かんぽ不適正営業問題に端を発した日本郵政グループ全体での改革運動の進捗は、どのような状況であろうか。日本郵便からかんぽ生命への渉外要員の出向やかんぽ営業拠点の集約再編といった、目に見える対策も進行中である。また、目には見えない社風、組織風土を変えようという動きも、経営理念の浸透を図る活動などが継続され、グループ全体として取組みの途上にある。
 日本郵政グループを改革する上で、変革すべき点は複数あり、新型コロナウイルスのように真因は一つではなく、「目に見えない敵」も複数。その一つは、社員の意識である。それが積み重なって社風になる面もあるし、社風に染まって「ま、いいや」となる面の双方があり得る。
 道半ばの今、社員の意識はどのくらい変わっているであろうか。金融営業に関係した社員、郵便や荷物、共通部門の担当社員、本社支社等、色々な切り口があるが、まず、直接関与を疑われ、又は関与し、相応の処分を受けた社員は、当然ながら自分事として受け止めた。そうでない社員はどうであろうか。
 「会社は大変だが自分の担当には直接関係ないし、今までどおりのやり方で自分の仕事は回る」「日々の業務に追われて、それをこなすのが精一杯なのが現状」「頭では分かるが、何を変えればよいのか」といった向きも、表立って言わないにしても、少なからずあるのではと危惧する。
 冒頭のコロナ対策を引き合いに出せば、対策を講じていることへの慣れ、今までどおりで不便はない、どことなく他人事、恐ろしいが自分の身には(確率的に)降りかかってこない、といった共通点があるように感じる。加えて、中計(JPビジョン2025)で示された将来は分かるが、社員の日々の仕事に実感を伴わない、明るい未来が見えないといった、前向きな将来像を実感できる対応の不足という側面もあるのではなかろうか。これは、コロナ以前からの日本の将来についても言えることではあるが。
 仮に、我が国で法体系が見直されて強制力を伴うコロナ対策が行われたら、法令である以上従わざるを得なくなる。郵政グループに例えてみると、意に反してボーナスが4・3か月分から突如3.0か月分に減らされるといった「痛み」を伴う荒療治がないと多くの社員が本気にならないのでは?とは思いたくないが、多くの社員が「自分事」として「見えない敵」と戦い、課題を克服することを心から期待する。
(コン・ブリオ)

ページTOPへ