コラム「春秋一話」

 年/月

2024年10月21日 第7271・7272合併号

ルール変更は中心となる者の意向を

 夏に開催されたパリオリンピック2024。日本代表の選手たちも活躍し、多くの感動を与えてくれた。
 今回、私が注目していたのが男子と女子のバレーボールだ。1964年開催のオリンピック東京大会で、日本女子チームは金メダルを獲得し、「東洋の魔女」と呼ばれた。
 その後、バレーボールは男女とも日本のお家芸とまで呼ばれるほどになったが、諸外国チームのレベルもアップし、日本は1990年代からは低迷期に入ってしまう。
 男子は、メダル獲得はおろか、オリンピックでは1996年アトランタ、2000年シドニー、2004年アテネと、3大会連続で出場を逃してしまう。2008年北京は出場するものの、2012年ロンドン、2016年リオデジャネイロと、2大会連続でオリンピック出場を逃してしまう。
 女子は1984年ロサンゼルスで銅メダルを獲得して以降、メダルからは遠ざかり、2000年シドニーではオリンピック出場を逃してしまうが、その後、2012年のロンドン五輪で銅メダルを獲得する。
 しかし、近年は男女とも個人やチームとしてのレベルもアップし、国際大会でも好成績を上げるなど強くなり、大きく注目されるようになった。
 私は中学時代に部活動でバレーボールをやっていたが、当時の6人制バレーボールは15点制のサイドアウト制で、サーブ権があるときだけ得点が入っていた。サーブもネットに触れるとサイドアウトになり、相手にサーブ権が移っていた。同レベルの実力同士のチームが対戦するとなかなか双方とも得点が入らず、試合が長時間になることもあった。
 現在は25点制(ファイナルセットのみ15点制)で、サーブ権の有無にかかわらず得点が入るラリーポイント制で、サーブもネットに触れてもOKのネットインとなっている。攻撃が決まると得点になるので、試合時間も以前よりは短くなり、試合の面白みも増したかなと思う。
 なお「デュース」(以前は14点対14点、現在は24点対24点・ファイナルセットは14点対14点のセットポイントで得点が並ぶこと。2点差が付くまでエンドレスで試合が行われる)は今も昔も変わらないが、記録を紐解くと、この25点制になって以降、20数年前に大学生の大会で、59点対57点という、類を見ないハイスコアで決着がついたという記録もある。
 男女とも進化し続けている日本のバレーボール。これから大いに期待を込めて応援していこうと思う。
 さて、ルールの改正はバレーボールだけの話ではなく、他のスポーツや組織でも行われている。最初に決めたルールの下で競技が行われる、組織が運営されるが、長い時間が経過していく中で、競技を行う者、組織に属する者にとって、やりづらくなるケースが生じてくる。
 そうした時に、いろいろな意見を取り入れながらルールの改正が行われるが、その改正のプロセスは果たしてどうなっているのだろうか。よりプラスになるように、携わる者たちが真摯に議論を重ねたうえでの改正であればよいが・・・
 例えば、すでに高校野球で導入されている野球のタイブレーク制度。とりわけ投手にとっては計り知れない精神的・身体的負担がかかる。
 正直、個人的にはこのタイブレークには反対だ。時間の短縮、選手の負担ということにとらわれ、野球の本来の姿とは離れてしまうからだ。今後もこの制度を続けていくのであれば、携わる全ての人にとってより良い形を引き続いて模索していくべきであろう。
 何かを変えていく場合に、中心となる存在が無下にされてはならない。(九夏三伏)

2024年10月14日 第7270号

お正月行事の復活と年賀はがき

 郵便局は発足当時から手紙文化の推進を生業とし、無数の郵便物を人の手から人の手に渡してきた。その用途は実に多種多様だが、そこに利便性を加えるため、期間限定の商品を時代に合わせて提供してきた。その最たるものが年賀はがきだろう。
 元旦から2週間程度だけ使用するまさに期間限定商品である。かつては夏期限定のかもめ~るもあったが、このはがきは長い間売り上げが低迷し、2020年度を最後に廃止となった。実際のところ、これは当然の成り行きだったかもしれない。なぜなら暑中見舞いを出す習慣自体がすでに薄らいでいたのに、かもめ~るはその希薄となった習慣に乗って成立している商品だったからだ。
 夏だからといって暑中見舞いを書く人はほとんどいない中、それ専用のはがきを作って売ろうとすることに少なからず無理があった。費用対効果を考えれば、もっと早い段階で廃止にしてもよかったのではとも思われる。
 そこで年賀はがきである。これも販売枚数が年々減少の一途をたどっており、かもめ~るの二の舞にならないか心配である。お正月に年賀状を書く習慣がなくなれば、当然年賀はがきも売れなくなる。
 そう考えると、年賀はがきの売上減少を食い止めるのは目先の販売手法だけではなく、お正月という日本古来の風物詩自体を復活させることにあるのではないかとさえ思う。今では正月だからといって凧揚げや羽根つきをする子供もいなければ、福笑い、コマ回しをする子供もいない。
 初詣でも晴れ着を着た女性をほとんど見かけない。言ってみれば正月らしさが数十年前に比べてすっかりなくなっているのではと感じる。その流れで正月だからといって年賀状を書く習慣もなくなれば、年賀はがきが売れなくなるのは当然である。
 最近では「年賀状じまい」という言葉まで流行しつつある。したがって日本郵便がすべきことは、「お正月」という日本古来の行事自体を再度盛り上げ、昔の「お正月らしさ」を取り戻す努力もすることだと思う。様々なアイデアを仕込んだ年賀はがきを作るのと並行して、年末から年始にかけてテレビCMやSNS、ホームページ、新聞などあらゆる広告媒体を使ってお正月の雰囲気自体を盛り上げる事も大切なのではと思う。
 年末には地元の商店街にお願いして正月の飾りつけを所々に置かせてもらったり、琴の演奏を商店街中にスピーカーで流すことも検討に値する。そもそも現代では街中を歩いているとクリスマスソングは耳に入ってきても正月ソングは全く聞こえてこない。国民の一大イベントは明らかに正月からクリスマスに移行している。
 琴の演奏については12月中旬以降全郵便局の窓口で流してもいいと思う。現状では年末になると大手家電メーカーが年賀はがき作成のためのプリンターをテレビCMで売り込んでおり、彼らが日本郵便の代わりに年賀はがきの宣伝をしてくれているようなものである。
 「年越しそば」「除夜の鐘」「初詣」「おせち料理」「お雑煮」「年賀状」「お年玉」は年末から年始にかけての代表的なイベントである。無病への感謝など行く年を振り返り、来たる新しい年の幸を祈る思い、伝統行事が続いてほしいと願う。
 「お正月」という日本古来のイベントが衰退しているとは思わないが、それに密接な年賀はがきも、かもめ~る同様に時代に取り残されてしまわないようにと祈る。(有希聡佳)

2024年10年07日 第7269号

日本発のウェルビーイングを

 「GDPを超えて」(Beyond GDP)の取り組みが加速しつつある。ニューヨークの国連本部で9月22日、23日に開催された「未来サミット」の成果文書「未来のための協定」は、「GDPを超えて」に向けた行動の必要性を次のように訴えた。
 「GDPを補完する、あるいはそれを超える持続可能な開発の進展を測る尺度を、緊急に開発する必要性を再確認する」
 こうした議論が高まったのは、GDPだけでは社会の進歩や幸福度は測れないという認識が共有されるようになったからだ。そのきっかけとなったのが、フランスのサルコジ大統領が2008年に設置した「経済成果と社会進歩の計測に関する委員会」である。
 ジョセフ・スティグリッツ教授、アマルティア・セン教授らが参加したこの委員会は2009年に報告書をまとめ、「社会的発展の指標としてのGDPの限界」を指摘した。委員会が指標として注目したのが、ウェルビーイング(Well―being)である。ウェルビーイングとは「身体的・精神的・社会的に良好な状態」であり、「幸福」という概念に近い。
 こうした動きを受け、2017年6月に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針」では、従来の経済統計を補完し、人々の幸福感・効用など、社会のゆたかさや生活の質を表す指標群の作成に向け検討を行う方針が示された。昨年の臨時国会においては、総理の所信表明演説としては初めて「ウェルビーイング」が盛り込まれた。政府や企業がウェルビーイングを重視するようになる中で、「JPビジョン2025+」にも「ウェルビーイングの向上」を目指すと書き込まれている。
 ウェルビーイングの議論が活発になる中ではっきりしたのは、欧米のウェルビーイングと我が国のそれとが異なることだ。欧米では、「自尊感情や自己効力感が高いことが人生の幸福をもたらす」との考え方が強く、こうした「獲得的な幸福感」が重視される傾向が強い。これに対して我が国では、人とのつながりや思いやり、利他性、社会貢献意識などを重視する「協調的な幸福感」が重要な意味を持っている。
 つまり、日本人の幸福感には、獲得的要素と協調的要素を調和的に育む独自のウェルビーイングの実現が必要だということになる。これが、「調和と協調」のウェルビーイングだ。2018年には自民党に「日本ウェルビーイング計画推進特命委員会」(当初はプロジェクトチーム)が設けられ、「調和と協調」の議論を深めてきた。特命委員会顧問の下村博文衆院議員、委員長の上野通子参議院議員とともに、積極的に活動に取り組んできたのが長谷川英晴参議院議員らである。長谷川議員ら特命委員会メンバは昨年7月に島根県隠岐諸島を訪れ、島根県出雲東部地区連絡会(江角直記統括局長/松江殿町)の海士(あま)、美田(みた)、知夫(ちぶ)、中条(なかすじ)の4郵便局を視察。地域のために奔走し、幸福度の向上につながっている女性局長の取り組みなどを聞いた(本紙2023年8月21日号)。
 ウェルビーイングの実現においては地域コミュニティの維持、活性化が不可欠であり、それを支える郵便局の役割の大きさが明確に示されている。
 これから重要になるのが、国際社会への「調和と協調」の発信だ。すでに、昨年5月に開催されたG7富山・金沢教育大臣会合で採択された「富山・金沢宣言」には、「調和と協調に基づくウェルビーイングへのアプローチ」の認識が共有されている。
 また、昨年6月に閣議決定された教育振興基本計画は「『調和と協調』に基づくウェルビーイングの考え方は世界的にも取り入れられつつあり、我が国の特徴や良さを生かすものとして国際的に発信していくことも重要である」と明確に述べている。
 こうした中で、特命委員会は5月に第7次提言をまとめ、「日本として国際社会で積極的にリーダーシップを発揮していくべきである」と述べ、「調和と協調」に基づくウェルビーイングに関する指標が盛り込まれるよう働きかけるべきだと強調している。いまこそ日本発のウェルビーイングを国際社会に発信するときだ。(酒呑童子)

2024年09年30日 第7268号

坂本龍馬と福沢諭吉の文字活用法

 坂本龍馬が筆まめだったことはよく知られているが、実際に130通以上もの手紙が現存している。当然、江戸時代のことだから和紙に筆で書かれており、文字通り「筆まめ」だったことがよく分かる。
 特に姉の乙女や妻のお龍に宛てた手紙には特徴ある内容で有名になったものもある。その一つは通称「えへんの手紙」と言われるもので、江戸で勝海舟の弟子になって活躍していることを「えへんえへん」と繰り返し書いて自慢している。こういう表現が江戸時代からあって今でも理解できるのが嬉しいし、龍馬の気持ちがよくわかって微笑ましい。
 もう一つはお龍に宛てた手紙で、浮気がばれて夫婦喧嘩をした後に謝罪したものがある。浮気をすれば喧嘩になるのは今も昔も同じだが、お詫びの気持ちを文字にして渡しているのも面白い。言いにくいことは口頭ではなく文字で伝えようとするのは現代に生きる私たちにも通じる。メールやLINEという便利な手段がある現代では、これからは言いにくいことはメール・LINE頼みになっていくのだろうか。ちなみにお龍との結婚記念に鹿児島に旅行しているが、これが日本最初の新婚旅行と言われており、その様子も絵入りで乙女に手紙で報告している。イラストの横に文字も添えており、これは他にはほとんど例がないらしい。龍馬の型にはまらない自由な発想はこうした手紙からも読み取れる。
 少し話は脇にそれるが、龍馬と同時に暗殺された中岡慎太郎も型にはまらない人物だったようだ。その証拠に笑顔の写真が残っている。幕末ではまだ「写真を撮ると魂を抜かれる」と信じられている風潮があるにもかかわらず、中岡だけ満面の笑顔で写っている。魂など抜かれるはずがないという当たり前の現実的な感覚を持ち合わせていたのだろう。この型にはまらない二人が同時に暗殺されたのも歴史の妙なのかもしれない。もう一人同時代に生きた有名人で思いつくのが福沢諭吉である。慶應義塾の創立者であることは言うまでもないが、文化人・知識人であったが故に多数の書簡が残っている。
 福沢の場合は特に学生への通達が多い。一風変わった内容では、学生に校舎内でのあいさつを不要にしたというのがある。不要というより禁止にしたといった方が近い。学校内で学生が教師に出会えば、当然一度立ち止まってお辞儀をする。そうすると教師もお辞儀を返さなければならない。学校内にいれば当然多数の学生とすれ違うから、これをいちいちやっていたのではわずらわしくて仕方ない。
 時間の無駄だと考えた福沢は教師陣たちの意見も確認したうえで校舎内での挨拶は禁止にしたそうだ。掲示板に貼られた「あいさつ禁止」の通達には学生も驚いただろうが、現代では逆に大学内で教師と出くわしても当たり前のようにすれ違うのがほとんどだろう。文字には人の行動、習慣を変えてしまう力があることを今更ながら実感させられる。
 龍馬と福沢は志士と文化人という違いはあっても、ほぼ同時代を生き、文字というツールをうまく活用して幕末という激動の時代を生き抜いたところは共通している。我々現代人もメールやLINEで文字をうまく使うことによって、上手に世渡りができるのかもしれない。(有希聡佳)

2024年09月16日 第7266・7267合併号

愛はきっと地球を救えると思う

 毎年恒例となっている24時間テレビが今年も8月31日~9月1日に放送された。
 従来は「愛は地球を救う」というテーマで放送されてきたが、今年は「愛は地球を救うのか?」というテーマで放送された。
 昨年秋、24時間テレビの寄付金などを含む1100万円あまりが着服されていたという不祥事が発覚。当該人物(日本テレビではなく系列局の社員)はその後、懲戒解雇処分となった。
 この件が報じられて以降、多くの批判が巻き起こり、番組そのものの存続もふくめ、様々な議論がなされてきた。そして6月になって、日本テレビは今年も24時間テレビを放送することを決定した。
 着服の件に限らず、チャリティーと謳っておきながら出演者にギャラが支払われている、との疑いなど、従来から24時間テレビに対する批判は多くある。
 そうした中、今年の24時間テレビでは、それまで毎年、旧ジャニーズ事務所のタレント等が勤めていたメインパーソナリティーを廃止した。一昔前のような、本来の24時間テレビのイメージに近くなったと感じながら観ていた。
 さて、毎年24時間テレビの恒例となっているのがチャリティーマラソンだ。お笑いタレントの間寛平さんの企画として、1992(平成4)年から始まった。これまでにさまざまな人がランナーを務め、番組のエンディングでは会場で応援ソングが合唱される中、ゴールを果たすシーンが放送されてきた。
 もちろん、24時間休みなく走りっぱなしなどということはなく、適度に休憩を挟み、仮眠もとり、食事も取っている。専属トレーナーたちがチームを組んでサポートし、計画を立てて、本番に向けての練習等、きちんと準備していて、本番でも無理の無いよう常に伴走している。
 このチャリティーマラソンに関しても、毎年のように「ギャラをもらっているのではないか」「途中テレビに映っていない時間帯に車に乗ってワープしているのではないか」等の批判的な意見もある。しかし実際はどのランナーもそれぞれの思いを胸に一生懸命走っているはずだと思う。
 今年のチャリティーマラソンはというと、お笑いタレントのやす子さんが、全国の児童養護施設に募金を、との思いから、寄付をして走るという新たな形のチャリティーイベントとして、応募して当選した約1000人の市民ランナーの人たちと一緒に走る予定だった。しかし、台風の影響もあり、市民ランナーの参加は中止となった。
 8月31日は安全に配慮したうえで、日産スタジアム(横浜市)のトラックを周回する形でやす子さんは走ることになり、市民ランナーの代わりに芸人の仲間たちが参加して、やす子さんと一緒に走った。
 そして、翌日は日産スタジアムから公道に出て、例年と同じように会場のゴールを目指して走り、多くの人たちの声援を受けながら、無事にゴールを果たした。そして、全国から多くのマラソン募金が集まり、その額は4億3801万4800円となった。
 さまざまな批判を受けながらも、放送された今年の24時間テレビ。制作サイドは、番組のあり方をもう一度見つめなおして、今一番必要な支援は何か、集まった募金はどこへ届けるべきなのか、そういった思いを込めて、メインテーマを「愛は地球を救えるのか?」とし、クエスチョンマークを付けたという。
 私は24時間ずっと番組を観ていたわけではないが、率直な感想としては、ここ数年とは番組の雰囲気、イメージが変わって、トータルとして良くなったのではないかと思う。
 失った信頼を取り戻すことは大変だと思う。来年以降も良い番組であり続けてほしい。(九夏三伏)
 

2024年09月09日 第7265号

時代から無くなったもの

 ここ数年で急激にデジタル化が進み、今まで当たり前のように身の回りにあったものがそのあおりで次々と消えていくご時世となった。昭和はすでに遠い過去になったが、その時代には将来無くなるとは夢にも思わなかったものまで無くなりかけている。
 その最たるものがお金だ。クレジット決済が無かった時代は現金払いのみ、どこで何を買うにも現金が必要だった。自分の懐具合を確認しながら商品を購入し、店先で1円でも財布の中身が足りなければ買えなかった。
 飲食店に入る時などろくに確認しないまま飲食してしまい、会計の時に足りないとなると青くなったものだ。それが今では現金が無くてもカード1枚あれば事足りるし、それも無ければスマホのお財布機能で支払いができる。
 和同開珎が発行された飛鳥時代以降、お金は物を購入する時には必ず必要であり、経済活動の根幹であった。まさかそのお金がなくても物を購入できるようになる時代がくるとは、つい最近まで誰も思わなかっただろう。
 さしずめ硬貨や紙幣に刻印または印刷してあるアナログ数字がデジタルになったということか。財布からお金を取り出し、目の前で支払ってお釣りをもらうという一連の行為が、もはや時代遅れになってきた。
 店のレジに「現金お断り」の札が出てくるのも時間の問題かもしれない。数字だけが飛び交い、見えないところで支払いが終了するのが当たり前になるのだろう。
 デジタルの余波を受けたものは他にも多数ある。写真もそうだ。スマホやデジカメがない時代は撮り終わったフィルムを写真店に持ち込み、2~3日待って現像が終わった頃に再び受け取りに行くという流れだった。
 それが今やずっと高解像度のスマホで撮影して、しかもそれが自宅でプリントできる。LINEに添付して送信すれば、一瞬にして画像データを何人にでも共有できる。
 これでは写真店が無くなってしまうのも当然だろう。スマホが多機能であるためにカメラやビデオが売れなくなり、音楽再生機能を有しているためにiPodは消滅してウォークマンも激減した。
 かつての電話帳や家庭の医学といった分厚くて重い書籍も、スマホの電話帳やネットでの検索で事足りるため姿を消してしまった。また、スマホやタブレットに本をダウンロードできるため書店まで減少の一途をたどっている。
 昭和時代を数十年過ごした者にとっては、時代とともに無くなっていくアナログ商品がなんとも名残惜しいが、これが時代の趨勢というものであろう。若い世代は違和感なしになじむのだろうが、古い世代の人間も慣れていくしかない。
 時代が下って今や異常気象や地球温暖化により、クールビズが当たり前になっている。仕事中は当然のように着用していたネクタイも、最近ではノーネクタイの会社員が大勢を占めてきた。次に我々が失うものは、もしかしたらネクタイかもしれない。(有希聡佳)

2024年09月02日 第7264号

地域防災の担い手としての郵便局

 自然災害の頻発化、激甚化が指摘される中、8月8日に震度6弱の地震が宮崎県を襲った。これを受け、気象庁は南海トラフ地震の想定震源域で大規模地震が発生する可能性がふだんと比べて高まっているとして臨時情報を出した。
 国民の防災意識が高まる中で、郵便局に対する期待も高まっている。日本郵政グループは地方自治体や企業などと連携し、防災・減災に取り組んできたからだ。8月1日には、日本郵便が災害対応に習熟した人材の育成などを目指し、気象庁と連携協定を結ぶと発表している。全国郵便局長会は、地域の減災と防災力向上のための活動を担う防災士の資格取得を推進しており、防災士資格を持つ郵便局長は1万2千人に上る。
 消防団の活動もまた、郵便局長に支えられている部分が大きい。日本郵政グループ全体で6千人以上が消防団に入団している。
 巨大地震などが発生した際、公設の消防機関が到着するまでの間は、地域の消防団による初動対応が極めて重要になる。能登半島地震の際には、がれきなどでふさがれた道路を切り開き、緊急車両が通る救援ルートを確保する「道路啓開」で、消防団は大きな役割を果した。
 消防団の強化がいまこそ望まれるところだが、団員数は残念なことに年々減少している。戦後まもなくは約200万人いた団員は年々減少し、1990年には100万人を下回った。2023年4月1日現在で76万2670人まで減少している。この危機的状況に対応し、郵便局社員は自ら消防団に入団するだけではなく、加入促進を支援してきた。
 今年からは、千葉市内や京都府舞鶴市内の郵便局が配達バイクと自動車に消防団入団を呼びかける大型のステッカーを張り付け、募集活動を強化している。
 一方、2005年にはすべての災害などで活動する従来からの基本団員とは異なる、特定の活動のみに参加する「機能別団員」制度が導入された。全国に先駆け同年4月に機能別団員を採用した愛媛県松山市では、松山西郵便局員31人が郵政消防団員となった。平常時には応急手当講習を受講し、災害時には災害情報の収集や避難誘導を担う。郵便業務を通じて地域情報に精通している強みや、機動力を活かし、災害における被害状況の情報収集を迅速に行い、市災害対策本部へ伝達する。さらに、避難勧告・指示の伝達、避難住民の誘導、防災情報の広報なども実施する。
 消防行政に詳しい関西大学の永田尚三教授は「郵便局員の方は、配達などを通じてふだんから地域に非常に精通しているので、特に災害時の情報伝達、避難誘導などでその専門性を発揮できる」と期待する。
 一方、昨年11月には三重県津市が、機能別団員を事業所単位で任命する制度を開始し、津中央郵便局の14人の職員が団員に任命されている。彼らが担うことになったのが、救急対応だ。職場の半径300㍍以内での通報に救急車の到着が遅れそうな場合、消防本部から連絡を受けて出動し、救急車が到着するまでの間、応急手当てやAEDを用いた救命活動を行う。
 救急車が119番通報を受けてから現場に到着するまでの時間は年々遅くなっており、2022年には初めて10分(平均時間)を超えている。この20年で4分も遅くなっているのだ。消防団員による救命活動がなければ、命を落とすケースもあるだろう。
 長谷川英晴参議院議員は、2023年11月9日の参議院総務委員会で、この津中央郵便局の事例を取り上げて質問、五味裕一消防庁次長は「郵便局、建設業、製造業など、様々な業界の従業員が機能別団員として入団されている事例があり、消防団員の確保を図る極めて有効な取り組みと考えている」と答弁している(本紙2023年12月4日号2面)。
 永田教授は、「津市の事例は非常に先進的な試みだ。救急車が到着するまでの応急・救命処置は全国的な課題であり、津市の仕組みを全国展開してもいいのではないか」と語っている。
 地域防災の担い手としての郵便局への期待は、ますます高まりそうだ。(酒呑童子) 

2024年08月26日 第7263号

気候変動への対応と災害への備えを

 観測史上最も暑い夏と言われた昨年に続き、今年の夏も各地で猛暑に見舞われている。
 そうした中、非常に興味深いニュースを目にした。新しい高気圧の出現により、今後は冷夏にならない可能性が高い、というものだ。三重大学の大学院生・天野未空さんが、その高気圧の存在を発見した。
 日本で冷夏というと、「やませ」と呼ばれるオホーツク海高気圧からの北東の冷たい風が入り込み、特に北日本で天候不順となり、低温に見舞われることが多かった。
 これまで、日本で顕著な冷夏となった年はここ50年くらいの間でいうと、1976(昭和51)年、1980(昭和55)年、1993(平成5)年が挙げられるが、いずれも農作物に大きな被害が出ている。これらの年ほどではないが、2000年代以降では2003(平成15)年や2009(平成21)年も北日本を中心に冷夏となっている。
 ところが、当時戦後最も暑い夏と言われた2010(平成22)年以降、冷夏にはなっておらず、毎年のように暑い夏となり、その暑さも特にここ数年非常に厳しいものとなっている。
 今回、天野さんが発見した新たな高気圧は、オホーツク海高気圧と太平洋高気圧の間の、日本の東海上に近年、頻繁に現れているというもの。オホーツク海高気圧から吹いてくる冷たい北東の風を、この新しい高気圧がブロックすることによって、冷夏にならず猛暑の夏となっているという。
 その新しい高気圧の中心が、上空ではカムチャッカ半島にあり、下層(日本の東海上)とでは中心の位置がずれていて、南北に傾いていることから、天野さんは「南北傾斜高気圧」と名付けた。
 2010年以降、冷夏といえる年が無かったのは、地球温暖化による気候変動が要因だと思っていたが、今回の天野さんの発見で、なるほどと思った。
 なお、エルニーニョ現象(ペルー沖の海面水温が上昇した状態が続く現象)が発生した時は、日本は冷夏となる傾向があり、ラニーニャ現象(同じ海域で海面水温が平年より低い状態が続く現象)が発生した時は猛暑となる傾向があると言われてきたが、近年これも当てはまらなくなっている。
 さて、日本では30年ほど前から漁獲量が減少しているが、その要因と言われているのが、乱獲と気候変動だ。気温が上昇すれば、海水温も上昇する。そうなると、獲れる魚も変化してくる。海水温の低いところに生息する魚は北上していくなど、生息環境に合った海水温のところへ移動していく。移動していった先で、すでに生息している魚との間で餌の奪い合いになり、個体数が変化していく、ということも起こってくる。
 夏季を中心とした気温、海水温の上昇をはじめ、気候変動は今後も続いていくと思われるので、農業や水産業もそれに合わせた、しっかりとした対策を講じていかなくてはならないだろう。
 また近年、豪雨災害や震災も多発している。「線状降水帯」という言葉自体は50~60年くらい前からあったが、ここ10年くらいの間によく聞かれるようになった。
 宮崎県で8月8日、最大震度6弱の揺れを観測した地震が発生し、気象庁は南海トラフ地震臨時情報「巨大地震注意」を出した。専門家は「緊急に何か行動をとらなくてはならないということではない」と指摘しているが、非常に気になるところだ。
 国や各都道府県、市区町村、企業、個人レベルと、防災・減災への意識は高まっていると思う。落ち着きながらも緊張感は持ち続け、命を守るための備えについて、一人ひとりが、地域が、国が今一度しっかりと確認し、徹底していかなければならないと思う。(九夏三伏)

2024年08月12日 第7261・7262合併号

郵便局のCSとカスハラ 
 

 最近よく〇〇ハラスメント、略して〇ハラという言葉をいくつも聞くようになった。ついこの前まではセクハラやパワハラくらいしかなかったが、次第にアルハラ(アルコールハラスメント)、モラハラ(モラルハラスメント)、カスハラ(カスタマーハラスメント)なども聞くようになった。どれも被害にあった当事者には深刻な問題だが、郵便局では近年「カスハラ」が大きな問題になりつつある。
 筆者が子供の頃、郵便局は役所の一つであり、切手やはがきを買いに行っても「いらっしゃいませ」とは言われなかった。郵便局からすれば「お客さま」というより、そういった物が必要だから買いに来たのであり、無言かせいぜい「こんにちは」と言われるのが普通だった。こちらもそれに対して何とも思わず、帰るときはやはり無言か「ごくろうさま」と言われて局舎を後にしたものだ。
 ところが時代が流れて社会全体が「お客さま第一」となり、郵便局も民営化以降その傾向に拍車がかかった。現在の郵便局窓口では切手やはがきを販売するだけでなく、様々な文房具やカタログ商品、キャラクターグッズ、カレーなどの食品等、コンビニさながらの品ぞろえをし、またマイナポイントの登録など国の政策にかかわる手続きまで請け負うようになった。
 CS向上が徹底され、繁忙局では窓口になるべく行列ができないように対応をするようになった。郵便局員のそういう姿勢は当然必要だし、「お客さま第一」で対応するのはCSの基本だろう。ただ問題なのはそれに便乗して少しでも気に入らないと過度なクレームを付けてくる人もいることだ。これは郵便局に限ったことではなく、世間一般の風潮でもあると思う。
 明らかに郵便局側のミスであれば平身低頭、謝る必要があるが、最初からクレームやいやがらせを目的に来る人もいるし、土下座を要求する人もいる。どこまでが正当な苦情で、どこからが理不尽なクレームなのかの線引きは難しいが、少なくとも窓口で大声を長時間にわたって出し続ける人には、別の対応が必要であろう。
 もはや本人と郵便局の間だけの問題ではなく、他のお客さまに迷惑がかかるうえに、不愉快な思いをさせるからだ。居合わせたお客さまも険悪な雰囲気により、過呼吸になって体調を崩すかもしれないし、心臓に持病があれば鼓動が早くなって病気が発症してしまうかもしれない。あまねく公平にお客さま対応をしながら、いかにこうした人への対応をするか、どこでクレーマーとしての対応に切り替えるか、さらにはどの段階になったら警察を呼ぶか、そうしたガイドラインを明確にし実行することが善良なお客さまを守ることにもなるし、それも大きなCSの一つであろうと思う。
 「気持ちよく用事を済ませ、気持ちよく帰っていただく」のがCSの基本であるなら、以前の「こんにちは」が「いらっしゃいませ」へ、「ごくろうさま」が「ありがとうございました」に変わるのは当然として、カスハラによる社員の被害や居合わせたお客さまの感情を守ることも大きなCSの要素であるに違いない。(有希聡佳)

2024年08月05日 第7260号

動き出した自動物流道路構想

 岸田総理は7月25日に開催された「第5回我が国の物流の革新に関する関係閣僚会議」で、「物流の常識を根本から革新していく取り組みが不可欠だ」と強調し、2027年度までに、無人のカートなどを用いて自動で荷物を運搬するための「自動物流道路」(オートフロー・ロード)の社会実験を開始する方針を示した。10年後をめどに実用化し、将来的には東京と大阪間での展開を目指している。
 政府は、深刻化する物流業界の人手不足やCO₂排出量削減という課題を解決するため、共同輸配送などによる物流の効率化を進めてきたが、より根本的な解決策を求める声があった。
 自動物流道路では、標準化された荷物の自動積み替えを実現し、空港、港湾、鉄道などとの連携も想定している。
 自動物流道路として2つの案が検討されている。高速道路の路肩や中央帯などを活用する「地上案」と、地下空間に専用トンネルを整備する「地下案」だ。
 自動物流道路に関する検討会の「中間とりまとめ」は、「地上部の活用の場合、中央分離帯及び路肩の活用が考えられるが、それぞれに本来必要な機能があるため空間確保の必要性があることや供用中の高速道路への影響を考慮する必要がある。また、地下空間の活用の場合、現地状況により工事期間や整備コストが大きく変動する可能性がある」と述べている。
 すでにスイスでは、「地下物流システム」の構築が進められている。地下20~100㍍の位置に主要都市間を結ぶ貨物専用トンネルを建設し、自動輸送カートを24時間体制で走行させる構想。トンネルの中に電動ベルトコンベアを3レーン走らせ、パレットに載せた荷物を時速30キロで運ぶ。また、急を要する荷物のために、時速60キロの輸送レーンも設ける。
 2026年の着工を目指しており、31年までにチューリヒ―ヘルキンゲンの約70キロの運用を開始し、45年までに全線開通する計画。総工費は336億スイスフランを見込んでいる。このシステムが完成すれば、CO₂排出量は約8割減少し、交通量は4割減ると見積もられている。
 スイスの「地下物流システム」の主体となっているのが、カーゴ・スー・テラン(CST)社だ。小売り大手のMIGROSやCOOP、通信大手のスイスコムなどとともに、CSTの中心になっているのがスイスポストだ。
 今回、岸田総理が決定した我が国の自動物流道路の整備にあたっても、民間資金を想定しつつ、民間の活力を最大限活用する方針が出されている。
 一方、イギリスではMagway社がリニアモーターを使用した完全自動運転による地下物流システムの構築に乗り出しており、2028年~30年の運用開始を目指している。かつてイギリスのロイヤルメールは、1927年から2003年まで地下郵便鉄道「メールレールウェイ」を使用していた(本紙2018年10月29日付、5面)。
 実は地下を利用した郵便輸送システムの研究は、我が国でも進められていた。郵政省の郵政研究所技術開発研究センターが、東京都内の交通渋滞の影響を受けることなく、郵便輸送のスピードアップを図り、省力化のための輸送自動化を目指し、1988年から研究していた。同センターは1994年3月に研究調査報告書をまとめ、新たな郵便輸送システムを提案した。
 リニアモーター車を環状に走らせることから「東京L―NET」と名付けられたこの構想は、交通渋滞の影響を受けないというメリット以外にも様々な効果があると評価されていた。しかし、建設費用の問題などをクリアできず、構想は実現しなかった。それからちょうど30年を経て、再び地下を利用した輸送システムが検討されることになったわけだ。
 立憲民主党の奥野総一郎衆議院議員は、日本郵便が他社に先駆けて、自動運転輸送システムの開発を進めてはどうかと提案している。スイスの自動物流道路開発の一翼を担うスイスポストのように、日本郵便が自動物流道路を主導することになるのだろうか。(酒呑童子)

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