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2020年8月3日 第7051号

【主な記事】

「営業再開の条件満たす」
第4回JP改革委 信頼回復の公約で議論


 日本郵政の増田寛也社長の下に作られたJP改革実行委員会(座長:山内弘隆・一橋大学経営管理研究科特任教授)の第4回目の会議が7月16日、公開で開かれた。グループ各社の社長や幹部、委員ら13人が出席。営業再開条件の評価や信頼回復に向けた公約について活発な議論が交わされた。再開条件について委員会は「最低必要な条件は満たされている」という評価。増田社長は「再開は十分条件が確実に見込めるかによる。最終の経営判断をしていきたい」と再開に向けて詰めの作業を進める。

 営業再開に当たり6月の定例社長会見で、増田社長は「契約調査がスケジュール通りに進捗し、お客さまの利益回復に道筋がついている」「法令・社内ルール違反の可能性のある募集人の募集停止措置が講じられている」「違反した募集人と管理者に対して社内処分への道筋がついている」「不適正募集を発生させないための募集管理態勢が整備されている」「募集人に対する再教育の実施とそれを継続するための仕組みがある」の5条件を示した。
 これを受けて、委員会では横田尤孝(ともゆき)委員(青陵法律事務所・弁護士)が、現場の視察なども行い5条件を評価した。視察したのは、信越支社や東海支社とその周辺の郵便局、かんぽ生命保険のコールセンター(大崎)など。
 再開の条件の進捗と視察した現場の状況などを総合して、横田委員は「100%ではないが、条件は概ね充足されている」と評価。そのうえで、営業再開の判断で「考慮すべき4つ考え」を示した。
 改革意識に対しては「各社の真摯な改革意識・本気度が大切だが、新型コロナウイルス感染下の厳しい環境の中で、最大限の努力をして一定の成果を上げたことは率直に評価されるべき」「改革への真摯な取組み姿勢から考え、途上にある改善策も遠からず実行されて、相応の成果が見込める」と評価。
 また、営業停止に対しては「長期にわたっており企業体力の大幅な衰弱が懸念される。社員全体の士気の低下にもつながる。郵便局は国民の財産・インフラであり、多様で多数のステークホルダーに対しても、営業を停止することは相当ではない」と述べた。
 改善策では「企業としての体力のあるうちに歩きながら考え、考えながら改善していく道もある。改革・改善策の中には、研修や録音の効果検証など営業を再開しなければ見直しが困難なものもある」と述べた。
 横田委員は「これらの4点を総合判断して結論を出してもらいたい」と提案した。
 他の4人の委員も横田委員の評価について同意した。野村修也委員(中央大学法科大学院教授・弁護士)は「再開は信頼回復のために行う。内部態勢を整えても、このまま休んでいたら、国民に理解してもらうには至らない。お客さまとの接点を持つことで、そのプロセスを通じて信頼回復に入るフェーズだと思う」と再開への意義を語る。
 梶川融委員(太陽有限責任監査法人・代表社員会長)は「少額で簡易、安心・安全な信頼性の高い商品であるかんぽ生命の保険商品の特性から考え、国民的に有益なサービスは提供していなければならない。健全なサービスを提供しているなら、自らの活動を停止している状態は、お客さまや国民にとっても不健全。一刻も早く改善し、再開させてもらいたい。より良いサービスを国民に提供することで、報いてもらいたい」と早期再開を主張する。
 管理者の処分への道筋について、野村委員は「道筋は立っているが、処分には『現場が悪いことをした責任』と『管理者の指導の仕方に問題があったこと』の2つの考え方がある。管理者として問題点があったかを定義した上で、処分につなげてもらいたい。お客さまへの営業指導も一緒に考える姿勢が、管理者にあったのか。現場の営業のやり方も含めて考えてもらいたい」と意見を述べた。
 梶川委員は「管理者の処分が終わらないと、同じようなことを起こすのかというと、それは違う。改善策は進行している。ただ、現場の知識やけん制機能が不足しており、整備が必要だ」と、管理者ばかりでなく現場の問題点も指摘した。
 野村委員も「今回の不祥事の根っこの部分はコンタクトリスクへの考えが十分でないことに原因がある。会社自身が評判を落とす行動に抑制が効かせる発想が、現場に浸透しにくい状況にある。ルール上可能だが、することが正しいか、立ち止まって考える発想が現場になかった。給付金の申請問題にも通じる。このままでは別の商品で、それが現れる危険性がある」と指摘する。
 また、梶川委員は「一定程度進んだことに達成感を持ってしまうのは危険。完全はないという恐れを持ちつつ行動していく。健全な懐疑心が組織にあり続けることが大事。改善策は前向きに、建設的に続けてもらいたい」と改革改善の継続性を求めた。
 消費者の立場から、増田悦子委員(全国消費生活相談員協会理事長)は「全件調査ではがきを送ったというが、利用者の中には返信を躊躇するケースもある。申し出るには精神的に高いハードルがある。通知が分かりやすかったかを検証してもらいたい」と要望した。
 山内座長は「最低必要な条件は満たされているという委員の評価があり、各社は営業再開の準備を丁寧に進めてもらいたい」と総括した。
 増田社長は「再開しても、今年度は営業するだけでなく、生まれ変わった姿をお伝えするという活動になる。一般的な営業再開とは違う。お客さまの面前で恥じない信頼回復活動という段階。それらの条件が充足されているか。再開の十分条件が実行されるかを経営陣が責任をもって判断したい」と述べた。

 グループ行動憲章 国民への公約に

 国民への公約を策定した理由について、増田社長は「再開には力を入れているが、会社全体が変わらなければならない。単に元に戻るのではなく、グループの全ての社員が、お客さまに満足や安心を最優先に取り組まなければならない。会社の基本姿勢を国民に約束することが重要」と公約の必要性を強調する。
 公約はグループ行動憲章の「信頼の確保」「規範の遵守」「共生の尊重」「価値の創造」「変革の推進」のうち、今年は信頼と規範の2つを採用した。公約は、その年の信頼回復に向けて取り組む項目を中心に決められ、毎年見直される。
 行動憲章を公約にした背景には、不祥事が起きたのは行動憲章が社員に浸透・順守されていなかったことがある。
 その事例として、信頼の確保に対しては「社内の売上げ達成の強い圧力により、一部の社員はお客さまからの信頼を悪用した」「不祥事は報道発表しているが、対応が後手に回り、企業としての説明責任を果たしていない」。
 規範の遵守では「法令違反や社内ルール違反が横行した」「数字至上主義になり、売上げ獲得までのプロセスを評価しない仕組みが存在した」。共生の尊重は「消費者ニーズを軽視し、顧客の不利益であっても商品を販売した」「ノルマ未達成社員へのパワハラが発生」。価値の創造は「顧客ニーズにマッチした商品・サービスが不十分」。
 公約の評価は、お客さま満足度アンケートや成果などの数値の評価、委員会による評価も加え、総合的に行う。対外的なPRとして、郵便局や支店に、ポスターやチラシを配布。また、営業活動を通じて顧客に説明していく。
 委員からは公約を伝える方法として、野村委員は「公約を自分事としていく仕掛けが必要。現場の人に『私の事業と公約』についてネットで発信してもらい、365日続ける。1年後に1年間社員が頑張ったプロセスを新聞広告で発表する」といった具体的な提案があった。
 増田社長は「抽象度の高い理念を社内外にどのように浸透させるのか頭を悩ますところ。良い示唆をいただいたので、こちらでも検討したい」と述べた。


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