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2020年11月2日 第7064号

【主な記事】

グループ成長戦略を検討
[JP改革委]次期中経に反映


 日本郵政の増田寛也社長は、10月21日に開かれた第6回JP改革実行委員会(座長:山内弘隆・一橋大学経営管理研究科特任教授)で、日本郵政グループの成長戦略の研究やゆうちょ銀行のガバナンスの検証を同委員会に依頼したことを明らかにした。10月5日から開始した「お客さまの信頼回復に向けた約束」の活動状況も公表した。成長戦略について増田社長は「報告いただく成長戦略は内部で検討し、次期中期機経営計画に落とし込めればよいと思う」と述べた。

「共創プラットフォーム構想」打ち出す

 日本郵政グループの成長戦略は、委員会内に「成長戦略研究会」を作り、来年1月末をめどに報告書という形で増田社長に提出する。成長の方向性や生かすべき強み、プラットフォーマーとして新たに持つべき強みなどについて検討する。
 メンバーは、山内座長をはじめ一橋大学経営管理研究科の加藤俊彦教授、西野和美准教授、坪山雄樹准教授、佐々木将人准教授、武蔵野大学の渡部博志准教授の6人。
 研究会は、すでに9月10日と10月2日の2回開催され、日本郵政グループが直面する課題の検討が行われた。研究会の成長戦略は「郵便局の銀行と保険の販売・管理業務は、顧客側から見て大きな強み。将来的に日本郵政とゆうちょ銀行・かんぽ生命保険の資本関係は解消されても、ビジネスでの連携は継続すること」を前提にしている。
 増田社長は「金融2社の株式は手放していくが、グループ全体の共通基盤で事業会社をビジネスとして生かしていければよい。その仕組みを考えていただきたい」と要請した。
 「資本関係とグループ企業の付加価値」について、梶川融委員(太陽有限責任監査法人・代表社員会長)は「グループは資本関係を持ち、利益相反を起こさないことに意義がある。日本郵政グループは資本解消を前提としているが、将来に向けてはそれぞれの企業が、付加価値をサステナブルにどう実現していくかが重要」との意見を述べた。
 研究会では成長戦略の作成に当たり、「政治やその他の利害関係者が多数存在していることや法規制、民業圧迫への配慮、組織内外の既得権益の維持に向けた対応は、利益・成長の機会を合理的に追及するうえで阻害要因となっている恐れがあり、できるだけ構造的に分離して考える」を前提としており、阻害要因を取り除いた仮説の下で検討する。
 山内座長は「日本郵政グループは民間と比べて、法規制や多数のステイクホルダーなどにより身動きが取りにくい。デジタル化が進む一方で、過疎化、少子化の問題もある。都市部では競争が激化している。郵便局ネットワークをこのまま維持するのは難しいのではないか。すぐに廃止するというのではないが、場合によっては、統合の必要もある」と、2万4000の郵便局の統廃合や減局について触れた。
 横田尤孝(ともゆき)委員(青陵法律事務所・弁護士)は「企業の継続性やいろんな事業を考えるうえで、政管分離がプラスなのかマイナスなのかについても考えてもらいたい」と述べた。
 研究会では、成長の方向性について、多様な企業・団体・事業者・公的部門と連携し、グループのネットワークを最大限活用する「共創プラットフォーム」という“場”を通じて成長の可能性を検討する。リアル拠点の優位性を生かしたプラットフォーマーとしてアマゾンなどの巨大デジタル企業との差別化を図る。
 プラットフォームの活用に当たり、顧客情報の一元管理と活用を提案。グループ内の顧客は、郵便や荷物の利用者、貯金・保険の契約者、年齢層も高齢者に加え、最近はメルカリなどのコンシューマー同士の売買の拡大により、若者や女性の利用も増えている。幅広い層の顧客が利用する郵便局を他社にはない強みとして位置づける。
 成長戦略では、これらの多様な層が利用する顧客基盤や、2万4000局の郵便局ネットワーク、ゆうちょ銀行のATMネットワーク、長年にわたり培ってきた郵便局への信頼性などの強みを最大限に活用するための検討を進める。
 研究会ではプラットフォーマーとして持つべき新たな強みとして、顧客ニーズに基づく機動的なラインナップ、リアル接点でしかできない価値の提供、日本郵政グループの顧客向けサービスを提供する事業者に向けたマーケティング機能の提供などを挙げている。
 成長の方向性として、委員からは「社会貢献ができるような事業ができないか。人の役に立っているという誇りを持ち、ワクワク感を持って事業ができるのではないか。環境というのも大きな課題」(横田委員)、「デジタル化に取り残された人を郵便局で救えないか。端末の使い方を教えるなどコンシェルジュ的な役割が果たせないか」(野村委員)、「信頼できる企業にしかできない事業を担ってもらいたい」(増田委員)、「これからは信託業務が重要。郵便局には信用性があり、郵便局に将来のことを相談し、その内容を文書にし、保管管理してもらうビジネスはありうる」(野村委員)などの提案があった。
 共創について増田社長は「自前主義には限界がある。M&Aの話はあるが、トール社で失敗しているので、他企業との連携を進めたい。いろんな企業と組んで足りない能力を補完し、生かしていければよいと思う」と述べた。
 最後に増田社長は「持株である日本郵政が、コンプライアンスシステムをグループ全体の共通の基盤としてハンドリングしていく役割を果たしたらよいのか。成長戦略研究会には、グループ全体での取組みはもちろん、持株の社長としてどうしたらよいのか示唆をいただきたい」と、持株や社長の役割をJP改革実行委員会に投げ掛けた。


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