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2020年12月7日 第7069号

【主な記事】

改正郵便法が成立
全会一致 土曜休配、送達日数を緩和へ

 土曜休配や送達日数の1日繰り下げなど郵便法と信書便法の一部を改正する法律が11月27日に衆・参本会議全会一致で可決・成立した。日本郵便と民間の信書便事業者にも適用される。これにより、日本郵便では、土曜日の配達担当者の約85%、郵便区分作業をする内務夜勤従業員の約64%の再配置をすることが可能となった。増加傾向にある荷物の人員が確保でき、サービス改善にもつなげられる。12月4日に公布、6か月以内には施行される。

 成立したのは「郵便法及び民間事業者による信書の送達に関する法律の一部を改正する法律」で、郵便物を扱っている日本郵便と特定信書便事業者(11月20日現在、555の認可事業者)に適用される。
 11月19日に開催された衆議院総務委員会で、武田良太総務大臣は「郵便の役務のなるべく安い料金によるあまねく公平な提供を確保するとともに、日本郵便と一般信書便事業者との間の対等な競争条件を確保するため、郵便業務管理規程の認可基準のうち郵便物の配達日数及び送達日数に係る基準の緩和並びに配達地により異なる額の料金を定めることができる郵便物の範囲の拡大を行うとともに、一般信書便事業についても同様の緩和等を行う必要がある」と提案理由を説明した。
 郵便法改正(第70条と第67条)の柱は「通常郵便物配達頻度を現行の週6日以上を週5日以上にする(土曜休配)」「送達日数を原則3日以内から4日以内とする」「割引が適用されている郵便区内特別郵便物の範囲を地域区分局に拡大する」。
 このほか、郵便物が地理的条件や交通事故など特別な事情で遅れる場合は、「3日を超え、2週間を超えない範囲で送達しなければならない」とあった規定を「4日を超え、総務省令で定める必要日数以内(経済的な通常の方法での配達を前提にする)」に改められる。
 郵便法が改正されても、書留や速達、ゆうパックは土曜・日曜も配達し、原則翌日配達を維持する。選挙運動用はがき、山間地に配達される日刊紙は土曜配達を実施する。
 郵便法の改正の背景には、郵便物の減少や人手不足、深夜の区分作業者の労働環境の改善(新型コロナ感染症対策としての3密の回避など)がある。
 郵便物は、ピーク時の2001年度と比べると、この18年間で、約4割(99億通)減少した(2019年度は163億通)。一方で、Eコマース市場の拡大などにより、荷物はこの18年で約10倍に増えた(2019年度は45億個)。また、郵便局の現場では、必要な社員数が集まらない現状もある。
 改正によって郵便から荷物に人員が再配置できる。土曜配達担当者は約5万5000人のうち、約4万7000人、送達日数の1日繰り下げにより約8700人のうち、約5600人が対応できるようになる。
 配達日への影響は、翌日配達地域の場合、翌々日配達になるが、土曜休配の影響で、木曜と金曜差出は月曜配達となる。現状では木曜差出は金曜日配達、金曜差出は土曜配達となっている。
 郵便法などの改正は、10月30日に国会に提出された。11月19日の衆議院総務委員会、同20日の衆議院本会議、同26日の参議院総務会を経て、同27日の参議院本会議で可決・成立した。両院ともに全会一致。
 19日の衆院総務委員会では、立憲民主の山花郁夫議員、奥野総一郎議員、松田功議員、道下大樹議員、共産の木村伸子議員、維新の足立康史議員、国民の井上一徳議員が、26日の参議院総務員会では立憲の小沢雅仁議員、吉田忠智議員、維新の片山虎之助議員、柳ヶ瀬裕文議員、民主の小林正夫議員、共産の伊藤岳議員が質問した。
 参院総務員会では、政府参考人として日本郵政の増田寛也社長、日本郵便の衣川和秀社長、諫山親副社長、ゆうちょ銀行の池田憲人社長、かんぽ生命保険の千田哲也社長らが出席した。
 ユニバーサルサービスに関し、武田良太総務大臣は「維持できない状況を想定する前に、状況をつくらない努力を全力でするべき。しっかりと経営状況というものを改善して、国民の信頼に足る企業として進化していただきたい」との認識を示す一方で、デジタル化などについては「地域の拠点としての郵便局やデータを活用しながら地域課題の解決に貢献する取組などについて議論、必要な環境整備について税制改正、予算措置など幅広く検討してまいりたい」との考えを明らかにした。
 また「郵便局の能力というものをもっと生かして、ひいては社会貢献に導いていただきたい。他の金融機関が撤退した地域など少子高齢化の進む地域社会において、郵便局が生活インフラとして大きな役割を担っている。絶対にユニバーサルサービスというものは安定的に維持していかなくてはならない。ユニバーサルサービスが確保され、地域との連携が進むよう取り組んでまいりたい」と強調した。
 増田社長は「ユニバーサルサービスを会社の努力としてやっていくのは大変重要だと思っているが、その中で、土曜日の業務から平日の業務、深夜帯から昼間帯にと、こういう働く者の立場を考える。一方で、郵便に対するお客さまのニーズも変化をしてきている。必ずしもスピードへのニーズは高くなくなるとの変化も出てくると思う。いずれにしても、お客さまの立場、そして社員の幸せも含めて追求しながら、社会に貢献していくグループであり続けなければいけない。しっかりと国民のインフラであるユニバーサルサービスを守っていきたい」とした。
 衣川社長は「土曜日配達や深夜帯の郵便業務からほかの業務にシフト可能となる要員の人件費、関連して削減可能となる物件費等を合わせ、約500億円強の経費削減を見込んでいる。2018年12月の段階で総務省の情報通信審議会に提出した約600億円という数字から、荷物等の増加傾向など郵便事業を取り巻く環境の変化を踏まえて、改めて精査したもの」と述べた。
 また「成長が見込まれる荷物事業への要員シフトによる事業の拡大を通じて、会社全体の経営基盤の強化に資することができる。郵便事業についても引き続き効率化の努力を続けていきたい。勤務時間帯等のシフトが可能となる要員の一部を、人手不足の中で超過勤務、休日出勤等で対応することを余儀なくされている業務に再配置をすることで、超過勤務や休日出勤等を更に減らし、働き方改革を行っていきたい。社員にとっても雇用の確保や賃金の改善に資することになる」との考えを示した。
 諫山副社長は「郵便物の土曜日の配達のために出勤している社員、現在約5万5000人のうち約4万7000人が他の曜日の業務、あるいは荷物等の業務に再配置可能になると見込んでいる。送達日数の1日繰下げにより、郵便物の仕分業務のために夜間、深夜帯の勤務に配置している社員、現在約8700人のうち5600人が昼間帯の業務や荷物等の他の業務に再配置可能になるものと見込んでいる」とした。
 
 ユニバーサル維持などで附帯決議
 成立にあたっては、将来にわたってユニバーサルサービスが維持できるように政府が務めるべきなどを内容とする附帯決議が採択された。自由民主党・国民の声、立憲民主・社民党、公明党、日本維新の会、国民民主党・新緑風会、日本共産党の各会派の共同提案。
 ユニバーサルサービス維持の支援とともに、郵便サービスの水準を維持するため基本料金の見直しの検討も行うとしている。また、非正規雇用を含めて全ての社員が長時間労働を招くことがないようにすることや、同一労働同一賃金の具現化も求めた。
 さらに、デジタル時代の対応、多様で柔軟なサービスを展開し、地域社会への貢献を推進することができるよう、必要な環境整備を行うこととしている。
【郵便法及び民間事業者による信書の送達に関する法律の一部を改正する法律案に対する附帯決議】
 政府は、本法施行に当たり、次の事項についてその実現に努めるべきである。
一、郵政民営化から十三年が経過したことを踏まえ、郵政民営化の進捗状況等について総合的に検証すること。
二、郵便サービスの水準を変更するに当たっては、日本郵便株式会社等と連携し、利用者に対する適切な周知を図るとともに、サービス提供に混乱が生じることがないよう指導監督を行うこと。また、日本郵便株式会社において、日刊紙、選挙運動用の通常葉書の配達頻度が確保されるよう、十分配慮すること。
三、日本郵便株式会社が将来にわたり、郵便サービスを維持し、全国あまねく安定的にユニバーサルサービスを提供する責務を果たし、ユニバーサルサービスの質の維持・向上ができるよう支援すること。また、日本郵便株式会社による郵便のユニバーサルサービスの提供状況を注視し、必要に応じて、郵便サービスに対するニーズや社会経済の環境変化等を踏まえ、基本料金の見直しを含め郵便サービスの水準を維持するための方策を幅広く検討すること。あわせて、ユニバーサルサービスコストを国民・利用者に分かりやすい形で明示すること。
四、日本郵便株式会社が、非正規雇用を含む全ての社員を大切にし、長時間労働を招くことがないようにするとともに、できる限り深夜労働を減らすことができるよう、指導監督を行うこと。また、働き方改革関連法の趣旨にのっとり、雇用を維持し、処遇や労働条件の改善を図り、同一労働同一賃金を具現化するよう指導監督を行うこと。
五、日本郵政グループが、かんぽ生命保険の保険商品に係る不適切契約問題等によって損なわれた国民の信頼を回復するとともに、再発防止策の確かな推進と経営の健全化を早期に実現するよう指導監督を行うこと。
六、デジタル時代の郵政事業の在り方について、ユニバーサルサービスの維持を図りつつ、新たな時代に対応した多様かつ柔軟なサービス展開、業務の効率化等を通じ、国民・利用者の利便性向上や地域社会への貢献を推進するため、必要な環境整備について検討を行い、その実施に努めること。


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