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2020年12月14日 第7070号

【主な記事】

「社員と共に作り上げる」
[日本郵政]増田社長 次期中経の策定で方針


 第7回JP改革実行委員会(座長:山内弘隆・一橋大学経営管理研究科特任教授)が12月3日、開かれた。日本郵政グループの次期中期経営計画の基本的考え方や野村修也委員(中央大学法科大学院教授・弁護士)によるグループカバナンス・コンプライアンスについての提案などをテーマに意見交換を行った。同基本的考え方に対しては「数字が示されていなければ、お題目にしかならない」「グループが何を目指しているのか分からない」「資本構成の変化を念頭に置く必要がある」など、欠落した視点を指摘する意見があった。日本郵政の増田寛也社長は「足らざるところが見えてきた。社員みんなで共有し、その認識で中経を作っていきたい」と、社員と共に作り上げる方針を示した。

[JP改革委]目指す方向を明確に

 次期中期経営計画の基本的考え方は、2021年から2025年の5年間を計画期間として設定。策定に当たり、従来は各社が同時並行で進めていたが、今回はグループ全体の考え方を示し、子会社はそれに沿って具体策を決めていく方法を採った。その策定プロセスには、今回初めて社員の意見を反映することも加えた。
 増田社長は「社員が政策課題に参画することも大事。基本的考え方を示した後には、社員から200件もの意見が寄せられている。社員の参画を通じていいものにしていきたい」と抱負を述べた。
 これらの意見はグループ社員向けに設置されたポータルサイトを通じて、提出された。基本的考え方の策定に当たっては、日本郵政の中間管理職100人から500項目の提言がなされた。
 飯塚厚専務執行役は「今後は増田社長のビデオメッセージを見てもらい、年内をめどに現場からも意見を出してもらい、中経に反映させたい」とその工程を話す。
 横田尤孝(ともゆき)委員(青陵法律事務所)は「基本的考え方がよくわからない。何を目指しているか、端的に表す言葉が欲しい。『真のトータル生活サポート企業』がそれに当たるのかもしれないが、何を言っているのかさっぱりわからない。カタカナと漢字が交互に混じっていて、バランスの悪い標語」と問題点を指摘。
 「グループが目指すもの」という図については「事業環境から課題認識、と矢印で流れているが、つながりがわからない。これによって、どういうことを行い、どのような価値が生まれるか、論理的に流れていくようにした方が良い」と指摘する。
 また「グループとして、10年、20年先をどう見ているか。長いスパンの中での5年を見る必要がある。人口減少により日本が小さくなっていく中でどのようにグループが成長していくか、生き抜いていくか。それが中経そのものだ」とより現実に沿った事業の在り方を求めた。
 策定プロセスに社員の意見を取り入れることについては「現在の中堅でなく、これから中堅になる人に会社をどうしていったらいいのかを聞くのが良い」と述べた。
 野村委員は「数字を示し、経営環境にどのような厳しさがあるのかを示す必要がある。公共事業体の計画ではないので、ビジネスとして、どこを目指しどういう数字を追いかけるのか。数字がなければお題目にしか過ぎなくなる」と厳しい指摘。
 飯塚専務執行役は「数値は必要だと思うが、秋の段階では数字の議論ができていない。中経策定の中で利益やKPIを詰めていきたい。ROE(自己資本利益率、当期利益÷自己資本)・一株利益の数値は持っているが、足元の数値は低い」と答えた。
 野村委員は「かんぽ生命保険のROEは断トツに低いのはなぜかを考える必要がある。他の保険会社が数字を追いかけていく中で、横ばいが続き、2~4%で張り付いている。低金利でお金を預けるだけでコストになっている状況の中、他の金融機関は支店を統廃合している。その議論なしで『中経の数字は後から考えます』というのはどうかと思う。経営環境の数字に与えるインパクトや厳しい認識を踏まえたうえで課題を作っていくというやり方に変えていただきたい」と要望した。
 梶川融委員(太陽有限責任監査法人・代表社員会長)からは「一体経営として中経を策定するというが、期間内に資本構成の変化が起きると思われる。グループの意味の変容を念頭に置く必要がある。グループ全体の基本方針にその変化をどのように盛り込むのか。各事業の主張とグループ全体のシナジー効果は、どこかでコンフリクトするものもあるかもしれない。その議論を今日から始められるとよいと思う」と日本郵政が保有する金融2社の株式売却後の視点が必要なことを指摘した。
 野村委員は「リスク管理を前倒しで組み込んでいくことができていない。新しい計画を立てる時、リスクをイメージし、そこにかかるコストを計算しなければならない。売上があってもコストが増えれば、事業は徒労に終わる。リスク管理部門も巻き込んで計画を立てないと危ない」と指摘。
 キャッシュレスの方向に舵を切った場合については「コスト感覚を入れてビジネスにすべきか止めるべきかを考える。収益を吹っ飛ばすような調査委員会を設けなければならないのなら、やらなくてもいいということになる」と述べた。
 かんぽ問題の原因の一つが持ち株のガバナンスに問題があったことを受けて、野村委員は「持ち株会社によるグループガバナンス・コンプライアンスのあり方」を提案した。経済産業省の「グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針」(2019年6月28日)や「未来投資戦略2018」を参考として挙げながら、「ビジネス戦略はリスク管理への信頼がなければ実現できないこと」を強調した。
 また、野村委員は「不祥事対応の要は広報力」であることを挙げ、「リスクコミュニケーションができていなければ、不祥事は止まるところを知らなくなる。不信感を招くことになる」と伝え方の大切さを訴える。
 コンプライアンス部門の在り方については「コンプライアンスは営業を支える役割が大事」としたうえで、「コンプライアンス部門から『書類を出せ』、『報告しろ』ということばかりあると、営業がシュリンク(縮む・減る)してしまう。コンプライアンスは山に登ろうとしている時、引いた目線で全体を見て、ここは遠回りだけどこっちにした方がいいというアドバイスをする役割。コンプライアンスが『山に登るな』と立ちはだかるのはおかしなこと。発想の転換をして欲しい」と述べる。
 日本郵政グループに対する改善策として、リスク管理は“守り”で戦略は“攻め”と別々に考えるのではなく、一体化していくことや、郵政と子会社の権限分配への整理、収益目標の立て方とKPI設定方法の見直し、グループとしてのPRやブランディング活動への工夫、新規事業を創出する仕組みづくり、過剰なコンプライアンスから脱却しリスク管理を仕事に溶け込ませる、1線のリスクオーナーシップ(リスクを自分のこととして向き合う姿勢)の徹底、グループ内部統制の高度化、内部監査の高度化、内部通報制度の機能発揮などを挙げた。
 このほか、横田委員から業務改善計画の進捗の状況や評価についての報告があった。横田委員は「計画の86%が実施済みで、着実な進捗がみられる。募集人の人事処分についても予定通り」と評価。契約内容の説明の録音については、渉外社員(コンサルタント)1万3000人を対象に8月24日から本格実施した。
 横田委員は「顧客の同意の下、着実に実施されている。今後は顧客の負担軽減にも配慮し、その在り方を検討してもらいたい」と改善を求めた。
 増田社長は「持株のグループガバナンスが十分でなく見直しは喫緊の課題。事業会社は稼ぐ部分もあるが、公共性の要請が半分くらいはある。それらをうまく使い、物流は収益性を高めなければならない。ご示唆やご指摘は参考になった。中経の仕上げに向けて数値を固めていきたい」と述べた。


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