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2021年1月4日 第7073号

【主な記事】

「風通しのよい組織」を
[日本郵便]衣川和秀社長インタビュー


 日本郵便の衣川和秀社長は就任以来、「風通しのよい組織」に取り組む。「本社は郵便局の実態や世の中の動きに合った制度、施策を立案するが、円滑な業務運営には趣旨や背景事情について支社、郵便局に丁寧に説明することが重要」とし、「郵便局での仕事があって支社や本社の仕事があり、郵便局を中心に考えることで、信頼関係が深まる」と本社社員の意識改革を求める。また「今年は郵政創業150年の節目の年。創業の原点に思いを馳せ、全社一丸で頑張っていきたい」との思いを改めて強調する。

お客さま本位を徹底

■明けましておめでとうございます。昨年はかんぽの問題等の対応にご苦労され、引き続き信頼回復の取組みが求められます。新型コロナウイルス感染症への対応もありました。昨年を振り返っての思いなどについて聞かせてください。
 明けましておめでとうございます。かんぽの問題では、多くのお客さまにご迷惑、ご心配をおかけしておりますことを改めて深くお詫びいたします。
 昨年は、1月に業務改善計画を提出し、その着実な実施に努めてきました。そして、10月5日からは信頼回復に向けた業務運営の活動を開始しました。お客さまからは「信頼していただけに、裏切られた落胆が大きい」との厳しい言葉を数多くいただきました。
 その一方で「私たちのために誠実に邁進してもらいたい」「変革に向けて進んでいってほしい」といったお言葉もいただいており、この活動を通じてしっかりと一人ひとりのお客さまと向き合い、信頼回復に取り組んでまいります。
 郵便局だけではなく、支社、本社、役員一同を含めた活動だと思っています。第一線の社員の皆さんが前向きな取組みができるよう、私も含め本社の役員が郵便局を訪問するなどして、継続してフォローをしていきたいと考えています。
 その一方で、新型コロナウイルス感染症拡大という予期せぬ事態が起こったわけですが、フロントラインの皆さんは、国民生活のインフラとして、またユニバーサルサービス維持のため、感染リスクにさらされ厳しい状況にある中、使命感を持って窓口業務や集配業務などの運行に最大限、尽力いただいています。
 具体的には、マスクやアルコールの消毒液の配布、飛沫飛散防止ビニールシートの設置などのハード面のほか、職場における健康管理、窓口の混雑緩和対策、集配現場での感染予防対策や対面によらない配達の実施など、業務面においても全国の郵便局の様々な状況において、社員、管理者の皆さんが一体となって取り組んでいただき感謝を申し上げます。

■新型コロナウイルス感染症は続いていますが、新たな対応について想定されていますか。
 感染の拡大がどの程度までか、どのくらい続くかが予測できないと具体的な対策は申し上げられませんが、前述の通りマスクや消毒液といった必要な物資を着実に郵便局に届けていくと同時に、3密回避のための基本的な行動が各郵便局できちんと実施できるよう、本社としても郵便局をバックアップしていくということに尽きると考えています。

■かんぽ問題では、現場へ過剰な目標を求めたとの指摘があります。
 特別調査委員会の報告書では、厳しい営業推進管理や新規契約に偏った手当の体系が、不適正募集を助長したものと指摘されております。そういうことを踏まえて、2020年度においては、お客さまからの信頼回復に向け、金融商品の営業目標は設定せず、フォローアップ活動や各種研修等を行ってきました。
 昨年の10月からは「信頼回復に向けた業務運営」に取り組んでいますが、引き続きお客さま本位の徹底に向けたマネジメント手法の向上・人材育成に取り組み、お客さまからの信頼回復を進めることで、郵便局サービスのご利用へと繋げていきたいと考えています。

■日本郵政グループの役員が、郵便局を訪問するなど現場の声を吸い上げる活動も展開されていると聞いています。
 その取組みは引き続き実施していきます。昨年10月5日の後に私も何局か訪問しましたし、金融関係の役員を中心に郵便局を訪問して、現場の声を聞いてきました。訪問時の社員の皆さんの声としては、お客さまからの厳しい言葉がある一方で、お詫びや約束の説明をしても、そもそも関心を示していただけないケースもあったと聞いています。
 お客さまの声は重く受け止めなければならないと考えています。郵便局の皆さんが日ごろから、様々な問題に真摯に取り組んでいる結果だと思いますが、「しっかりがんばってもらいたい」などの温かい声もいただいています。そうした声を糧にしながら、お客さまからの批判を反省材料にしつつ、地道な取組みを続けていきたいと考えています。

郵便局があって支社・本社がある

■就任されて以来、「風通しのよい組織」にと取り組まれています。まずは本社社員から意識の改革を求められています。
 業務改善計画においても、様々な新しい仕組みを取り入れています。郵便局でどのような問題が起こっていて、どのようなことに困り、どういう要望が出ているのかを、本社として素早くきちんと把握できるような体制が必要だと思います。
 その一方で、本社は制度や全国的な施策を立案・実施する立場であり、郵便局の実態や世の中の動きをよく知り、それに合った制度、施策を展開していくことが必要です。円滑な業務運営のためには、制度、施策の立案趣旨や背景事情について支社、郵便局に丁寧に説明することが重要です。しかしそれが、きちんと郵便局に伝えきれていない面があるため、本社としてさらに努力して、意見が双方向で良く通るようにしたいと考えています。
 郵便局、支社、本社はそれぞれに与えられている役割は異なるものの、どうすればお客さまのお役に立てる仕事をして、より良いサービスを提供できるかということに尽きます。お客さまとの関係では、まずは郵便局を中心に考えるべきで、そのためには、日頃のお互いの信頼関係が不可欠となります。
 そうしたことが欠けていると、何か問題があったときに、問題自体の的確な把握ができず、素早い対応もできないことになってしまいます。そうした観点から、就任以来、「風通しのよい会社にしたい」と皆さんに伝えてきました。

■衣川社長をトップに「JP改革運動」を進められています。
 本社の仕事の仕方を改善するため、本社社員の声を反映させた「本社スタンダードプラン」を策定しました。これは職務行動評価にも含まれる行動指針で、本社社員として期待されている役割です。現時点で実践できていないものもあるかもしれませんが、私をはじめとした経営陣も含めて本社全員で取り組んでいくこととしています。
 仕事をしていく中で、自分がやっていることを見直してくださいという趣旨で、5つの指針を考えました。一番分かりやすいのが「郵便局の立場で物事を考え、幅広く丁寧にコミュニケーションをとる」ということです。
実際に取り組んでいく中で、「郵便局で何に困っていて、どんなことをして欲しいと考えているのか」「お客さまはどんなことを望んでいるのか」というようなことを、支社、本社が的確に把握すべきであろうし、その一方で本社、支社で考えている制度・施策は、世の中の大きな流れの中で必要とされているものがあり、何を目的としていて、どういう趣旨なのかを、郵便局の皆さんにも丁寧に説明をしていきたいと考えています。
 この取組みは、日常の意識や行動の変化を促すものですから、明確な達成基準を設けていません。常に継続して見直し・改善を図るために「運動」と名付け「JP(日本郵便 本社)改革運動」としています。
 これをきっかけに自分自身の行動と「本社スタンダードプラン」を照らし合わせ、改善が必要であれば一つひとつ改善し、それを継続していくことが必要です。本社の意識や行動が変われば、それが次第に支社、郵便局にも伝わり、それぞれの意識も変わることで、お互いの信頼関係が構築され、皆さんが働きやすい風通しのよい組織となっていくと考えています。

■現場の声が支社や本社になかなか届かないということが、郵便局から聞こえます。
 担当の役員が、郵便局や支社の皆さんがどのようなことを考えているか、直接話を聞こうとしています。それらに対して、本社の方で何ができるのかについて、一種の意見交換の場を設けており、私もその記録を読むように心がけています。
 参加者の話を聞くと、「自分たちのできることを、きちんとやっていかないといけない」と改めて強く感じたという感想が多いようです。

■本社は縦割りでなかなか横串で物事を見ないという声もありますが。
 郵便局の立場で物事を考えて欲しいということも、まさにそういう声に応えるものです。もちろん、私たちの仕事は、制度や仕組みに基づいて実施しますので、その枠組みの中での限界はありますが、縦割りになっているためにそれぞれの部署ごとの都合で何かができないということはありません。
 一つの部の中であれば、部長が判断する話ですし、部が跨がれば担当役員が判断すれば良いわけです。さらに全社的になれば、最終的には私が判断します。そういった中で、できるだけ郵便局のことを考えて、お客さまに喜んでいただけるような仕組み、そして郵便局の皆さんが働きやすいような仕組みを作っていきたいと考えています。

地域社会の課題解決に貢献

■2020年度は中期経営計画の最終年度となります。中期経営計画で日本郵便は、2020年度の連結営業利益900億円、純利益650億円、ゆうパック取扱個数10.5億個などをかかげています。手ごたえはいかがでしょうか。
 新型コロナウイルス感染症の影響によって、郵便・物流事業においては、プラスとマイナス両面があったと思います。
 ゆうパックをはじめとする荷物に対する需要が増えたのがプラス面です。上半期では、巣ごもりによる消費の増加によるEC利用の拡大によって、ゆうパックの取扱数量は5.7億個(前年同期比21.0%増)となりました。一方でマスクの配布や特別定額給付金関連の特需もあったものの、コロナ禍における経済活動の停滞などのマイナスの影響が現出し、DMなどの広告郵便物やゆうメールなどの企業差出し郵便物、国際郵便物の減少などにより、全体としては厳しい状況が続いています。
 足元では、新型コロナウイルスの感染症拡大等、予断を許さない状況であり、営業収益動向を注視していきたいと考えています。

■次期中期経営計画は、どのような事を重要視されるのでしょうか。
 11月に次期中期経営計画の基本的な考え方をグループ共同で発表しました。日本郵便としては、郵便・物流、貯金、生命保険の窓口業務としてユニバーサルサービスを今後ともいかに安定的に継続していくかが大きな課題です。
 郵便局はお客さまとの大切な接点であり、日本郵便のみならず日本郵政グループ全体にとっても非常に重要な根幹をなす資産であることから、約2万4千局の郵便局ネットワークの水準については、現在のものを引き続き維持していきたいと考えています。
 次期中計では、少子高齢化、過疎化が進む地域社会において、貴重なリアルネットワークとしての郵便局が、生活基盤サービスに加え、地域ニーズに応じた多種多様なサービスを提供していくことにより、地域社会が抱える各種課題の解決に貢献していくこととしています。
 また、ユニバーサルサービスを維持するためには、収益もきちんと確保していかなければならないことから、グループの新たな成長に向けた3本柱として、コアビジネスの充実・強化、不動産事業の拡大、新規ビジネスなどの推進を掲げています。
 コアビジネスの充実・強化では、郵便・物流事業、銀行業、生命保険業はグループの根幹事業で、将来にわたり充実・強化を続け、安定的かつ持続的な提供に向けて、最新技術や社会環境を踏まえた変革を図ることにより、事業基盤をより強固なものとしていきます。また、新しい年にあっても、お客さまの信頼確保が引き続きの大きな課題であると考えています。
 収益力の向上や効率化・生産性の向上のほか、ウィズ/ポストコロナ社会におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)による新たな価値の創造や、サービス・機能の拡充、各種手続き・相談などのオンライン化、タブレットやATMを用いたお客さまによるセルフ処理への移行、データドリブンによる郵便・物流事業改革などを推進していくこととしています。
 デジタル化の進展、あるいは感染予防という観点から、従来から比べると対面での活動の比重が落ちてきつつあります。コスト抑制のためにもシステムの基盤を整備して業務を円滑に運行していきたいと思っています。
 金融窓口部門では、お客さまとお会いできる機会が今後どうなるのかを見通せない状況にあり、ゆうちょ銀行、かんぽ生命のほかにも受託業務がありますが、課題として増加する端末の数を何年かかけて一本化して、使いやすくしたいと考えています。直接対面ではなく、端末を使って話す機会が今後は増えてくると思いますので、端末の整備もあわせて進めていきたいと考えています。
 不動産では、日本郵政不動産、日本郵政と一緒に取り組んできましたが、次期中計期間においては、社会情勢や不動産の利用形態の変化などを先取りし、マーケット動向も注視して収益の柱化を図ります。具体的には、都心部にある保有不動産の有効活用の検討を3社共同で進めていきたいと考えています。また、グループ外の不動産への投資拡大を図ります。
 新規ビジネスの推進については、生活をトータルでサポートするための事業拡大、新商品・サービスの開拓を図ってまいります。郵便局を社会のインフラとして利用していただけるよう促していきたいと思います。
 地方公共団体事務の包括受託、地方銀行のATM設置といった地域金融機関との連携強化、JRの無人駅の窓口業務の受託など過疎地における様々なサービスの受け手として、事業拡大の余地はあると考えています。
 今後とも、郵便局ネットワークを生かし、グループ横断的な体制で、地域のニーズに応じた多種多様な商品・サービスの提供等を実施するとともに、認知症対応などの高齢者向けサービスの導入によるお客さまのライフステージをトータルでサポートしていきます。
 サービス拡大については、事務処理能力との兼ね合いにはなりますが、郵便局をインフラ基盤として活用していただけるのは、たいへん喜ばしいことです。

労働環境の改善に取り組む

■郵便法の改正が実現しました。日本郵便の業務の効率化などに期待が持てるのではないでしょうか。
 今回の郵便法改正については、郵便というユニバーサルサービスを将来にわたって安定的に提供していきたいと考え、かねてから要望していたという経緯があります。
 デジタル化の進展により、郵便物の減少が継続しています。また、昨今のコロナ禍による企業活動の停滞に伴い、特に企業から発送されるダイレクトメールが大きく減少しているほか、行政手続の電子化の更なる推進も見込まれることから、企業等からの差出しが多くを占める普通扱いの郵便物は減少傾向が加速するおそれがあります。
 感染症拡大を防止するための企業などの取組により、さらにデジタル化が加速していくと思われ、郵便物数の動向は予断を許さない状況だと思います。
 通信手段の多様化により、郵便を取り巻く環境も、求められているニーズも変化しています。電子メールで済ますことのできないような挨拶状などの儀礼的な郵便物や契約書などの現物性のある郵便物のニーズが中心となり、スピードに対するニーズは相対的に低くなってきていることを踏まえ、スピードを維持するために料金を引き上げるよりも、お客さまの許容できる範囲内でサービス水準を見直すこととしたものです。
 一方の要請として、労働環境の改善及び働き方改革があり、現在の翌日配達体制の下では深夜労働が大きな比重を占めている上、土曜日出勤が常態であることから、これらの見直しが必要となります。
 さらに、感染防止のため、3密(密閉・密集・密接)となる労働環境を避ける必要があり、深夜帯の作業・出勤人員を昼間帯に移し、分散して配置するなどお客さまや社員の安全確保のため、働き方改革が急務となっています。
 今回の改正によって、土曜休配と送達日数の1日繰り下げを実施し、これに伴う形で労働力の配置を早急に見直していくことになります。
 今後は、郵便物の減少と荷物の増加が不可避ですので、郵便から荷物分野へのリソースシフトを推進していくことになります。
 まだ正式な実施日が決まっているわけではありませんが、現段階では本年の秋を目途に様々な検討作業をしています。


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