「通信文化新報」特集記事詳細

 年/月

2021年1月18日 第7075号

【主な記事】

「必ずしも良いと言えず」
[郵政民営化]岩田委員長
金融2社の株式売却で

 武田良太総務大臣主催の「第2回デジタル時代における郵政事業の在り方に関する懇談会」(座長:多賀谷一照・千葉大学名誉教授)が昨年12月21日に開かれた。日本郵政の増田寛也社長と郵政民営化委員会の岩田一政委員長がプレゼンテーションを行った。岩田委員長は、Eコマースで成功しているシンガポールポストが傘下の銀行を売却し、決済で困っていることを例に挙げ、「日本郵便がEコマースを展開するうえで、金融2社の株を途中で売ることは必ずしも良いことではない。つながりを持ちながら展開していくことが必要」と述べた。

 岩田委員長は「シンガポールポストは、Eコマースのプラットフォーマーとしてトップになりたいと活動しているが、課題として、民営化の過程でシンガポール開発銀行を売却したことを挙げている。Eコマースには決済が必要になってくる。今では困っており、銀行の免許を求めている」と述べた。アリババについても、Eコマースから始まったが、貯蓄や保険など生活全般のサービスを行っているという事例を挙げた。
 日本郵政グループは、現状では生活サービスを行う上で、理想的な経営形態と活用できる情報を持っている。その形態を維持できれば、デジタル時代のビジネスを展開するうえで、ポテンシャルの高い組織とも言える。
 世界で成功するEコマース企業の先進的な取組みの過程で、金融を必要としていることに対して、岩田委員長は「日本郵政グループの将来を考えると、金融2社を完全分離し、途中で売ってしまえば良いということでは必ずしもない。金融サービスとつながりを持ちながら、事業を展開していくことが必要だと思っている」と、郵政民営化法が株を早期完全売却するとしている中、デジタル時代の日本郵政グループのあり方に言及した。
 その理由として「Eコマースをビジネスにするうえで、アリババやアマゾンと国内外で戦っていかなければならない。Eコマースはこれから主戦場になる。負けない力を持っていないと生き延びられない。ビジネスの将来を考えた時、誰を相手に戦うのか。アマゾンの優れたモデルにも学び、対抗しうる力をつけておくべきだと考えている」と述べている。
 また、ビジネスモデルについては「郵便・物流、金融をカバーするプラットフォーマーとして、生き延びてもらいたい」と提案。日本郵政グループに求められているガバナンスとビジネスモデルとの関係については「ガバナンスの一番は、働き甲斐のある職場になっているかにある。『将来つぶれてもいい』と言う人がいることは問題。ビジネスモデルとガバナンスは表裏一体。民営化の新しい姿を日本郵政がイニシアティブを取って、いつまでにそれを実現するのか、先導してもらいたい。郵政民営化委員会は全力を持ってサポートしたい」と新たなビジネスの実現に向けての支援を表明した。
 エクスプレス事業(宅配)の売却を予定している豪・トール社について、岩田委員長は新型コロナウイルスにより、世界のサプライチェーンが乱れたことをチャンスと捉えている。岩田委員長は「ビックチャンスが生まれている。政府はサプライチェーンの立て直しに、補助金を出す。国内だけでなくアジア地域も対象となる。トール社はサプライチェーンの最適化を主な仕事にしている。そのノウハウは十分に活用できる。そういったところでアジアの物流を拡張していただきたい。フェデックスのようにグローバルサプライチェーンで収益を上げてもらいたい」とアドバイスした。
 日本郵政グループに蓄積されるデータの利活用については「データを豊富に持っているが、生かされていない。トータル生活サポートという公共的な所に積極的に使っていく。日本の知恵である『情報銀行』を、ぜひ活用してもらいたい」とデジタル時代のビジネスのあり方について語る。
 物流ネットワークの最適化については「ロジスティクスはAIやビックデータ、量子コンピューターまで使い、すさまじい戦いが繰り広げられている。物流のラストワンマイルの最適化だけではなく、郵便・物流全体のネットワークの最適化ができる仕組みを、ぜひ次期中期経営計画で示してもらいたい。再配達をゼロにしていくことも実現したい」と注文した。
 ゆうちょ銀行については「同銀行の資金収支(資金利益―資金調達費用)
は約1兆2000億円(昨年度は1兆2670億円)あるが、毎年約200億円ずつ減っている。さらに金利が下がると同銀行の経営は厳しくなる。地銀も同じ状況だが、同銀行は融資をやっていないため、利鞘の縮小のインパクトははっきりしている。ビジネスモデルの転換が求められている」と現状を分析。
 そのうえで「同銀行は、貯金という安全資産でリスクを取らないナローバンクだが、金利が下がっても経費はあり、最終的には赤字になる。金融危機を起こさないためにもナローバンクにするという経済学者の提案もある。銀行は投資信託の取り扱いだけにするミューチュアル・バンキングに移りつつあると思う。同銀行はビジネス領域を広げる必要があり、それには物流の最適化や成長に必要なインフラ投資など投資信託を作ったらどうか」と提案する。
 新型コロナウイルス感染症の影響を受け、対面での販売が難しい状況について、岩田委員長は「DXを加速しないと生きていけない。アフラックは商品の提案から契約までオンラインで行うモデルが提起されている。このような先進的なビジネスモデルを取り入れる必要があると思う」と述べた。
 岩田委員長のプレゼンテーション(「デジタル転換と日本郵政の将来」)に対して、構成員は概ね賛同の意見だった。

[増田社長]顧客データは慎重に活用

 増田社長は「次期中期経営計画の基本的考え方」について、プレゼンテーションした。グループの資本戦略としては「金融2社の株式の郵政の保有割合を50%まで下げて、届出制にしてラインナップを豊富にする取組みを進めたい」とした。
 データの利活用については「お客さまの同意が得られたものをビッグデータ化し、お客さまの意に沿った形で慎重に活用したい」と説明した。
 「DXを進めるに当たり、ネックになっているものは何か」という谷川史郎構成員(東京藝術大学客員教授)の質問に対して、増田社長は「DX推進にはIT人材とかなりの投資が必要。新たにシステムを設計し、情報の秘匿性に留意し、データをどのように使いやすくするか。商流と物流をどう結び付けて顧客のニーズに応えていくか。各社のニーズを超えていく辺りがポイントになる」と強調する。
 「お客さまのデータベースを作り上げたうえで、それをどうビジネスにつなげるかも課題。それには新しいニーズを敏感にキャッチし、自由に新しいサービスを検討できる人材の確保も大事」と答えた。人事戦略については「全ての人材を自前で賄うのは難しい。採用の多様化や企業との連携、外部人材も活用するなどで対応したい」と述べた。
 藤沢久美(シンクタンク・ソフィアバンク代表)は「日本郵政グループにとって重要なのはガバナンス。DXを進めるに当たり、今でも3事業に加えいろいろなことが増えて現場に負担がある中で、様々な指示があり対応していかなければならない。現場は大変負担が多い。現場と会社の間で情報の相互流通がうまくいっていないと感じている。現場と会社間、現場と持株・事業会社間とのコミュニケーション、仕事の合理化、ガバナンスで改善策はあるのか」と問うた。
 増田社長は「ガバナンスはグループ全体にとって重要というのは指摘の通り。フロントの社員、郵便局の金融商品を売る社員が現場で使うツール機器があるが、それらが複数にわたっていて現場は混乱している。各社のアプリを共通化するなど一つのタブレットにし、共通化していく。また、年間に684万件ものお客さまの声が寄せられている。ボイスプロジェクトがあり、AIで分析し、リスクを察知し、未然に防げるようにしている。今後はビジネスのヒントを拾い上げる仕組みを作りたい」と回答した。
 巽智彦(成蹊大学法学部法律学科准教授)は、トータル生活サポート企業と郵便・物流ネットワークインフラとの関わりについて質問。増田社長は「投資家に会うと2万4000局ある郵便局を、いつリストラするのかと聞かれるが、他の企業が2万4000ものリアルネットワークを作ろうとしても難しい。その価値を見つけて広げていきたい。デジタルで顧客をつかみ、郵便局で深堀する。地域によってはコンビニがない所もある。そこにはコンビニ的なものを提供する。地方自治体の支所が撤退する事務を受託する。地域の拠点としての役割を果たしていきたい」と答えた。
 根本直子構成員(早稲田大学大学院経営管理研究科教授)は「金融機関は店舗を縮小しているが、業務を効率化で店舗を集約し、リソースを新しいビジネスに向けることはないのか」と質問。増田社長は「物流施設の集約化により空いたスペースができる。不動産として活用したい。都市機能を備えた郵便局としての活用も考えたい。次期中計の中では、人口動態を見ながらDXも取り入れ、配置を検討したい」と答えた。


>戻る

ページTOPへ