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2021年2月1日 第7077号

【主な記事】

郵便局ネット価値向上を
[有識者委が報告書]5G基地化も提言

 郵便局ネットワークの活用策を探る有識者による「郵便局ネットワークバリューアップ戦略検討委員会」が報告書をまとめた。1月12日には武田良太総務大臣に説明、総務省で検討を進める考えを示した。郵便局の5G基地局化、JP共助連携ネットワークの構築、日本郵政グループ主導による地域金融機関の再編、物流データのデジタル化、上乗せ規制の撤廃などを柱としている。

 「郵便局ネットワークバリューアップ戦略検討委員会」は、昨年8月に郵便局ネットワーク強靭化委員会として発足、その後に名称を変更し、多様な視点から郵便局ネットワークの在り方などを検討してきた。
 バリューアップの意味は「日本郵政グループの企業価値を上げる」という成長戦略を視野に据えるもの。郵政グループの潜在的な成長力を引き出すことが大きな目的。
 日本郵政、日本郵便、ゆうちょ銀行、かんぽ生命の郵政グループが一体となって資金力と人材を活かし、企業価値を高めて、将来にわたって郵便局ネットワークの維持とユニバーサルサービスを確保する成長戦略を描けるようにする。
 報告書は郵便局の5Gの基地局化、JP共助連携ネットワークの構築、地域金融機関の再編にゆうちょ銀行が参加、物流データのデジタル化、上乗せ規制の撤廃などが主な柱。
 郵便局の5G基地局化は、5兆円の投資と通信会社へのリース。ゆうちょ銀行は国債等の償還で毎年22、23兆円の収入があるが、その一部を5Gへ投資、通信会社へリースすれば年間1000億円の収益を確保できるとする。ゆうちょ銀行の投融資能力を有効に活用することを求めている。通信会社の投資軽減によって、政府が進めている携帯電話料金の値下げも可能となる。
 郵便局の基地化によって、全ての地域で1年以内に5Gが利用できるようになれば、遠隔医療の実現やテレワークの推進などによって地域を活性化、地方創生への一助となる。郵政グループの収益力を構造的に改善するとともに、資本市場への強いメッセージにもなる。5Gによる情報格差の是正という国家的プロジェクトに参画する意義は大きく、郵政グループの企業価値向上に貢献する。
 JP共助連携ネットワークの構築は、全国の郵便局、ゆうちょ銀行営業所、かんぽ生命支店などを結び、都市部の繁忙局に来た人の相談に、画像や音声で対応する。いわば郵便局などの共助によって、過疎地の郵便局も活用する。
 地方の郵便局に来た人の専門性が高い金融商品などについての要望も、ゆうちょ銀行やかんぽ生命と連携し、待ち時間なく的確に回答ができる。2人局を含めて郵便局ネットワークを有効活用、ユニバーサルサービスの3事業一体の安定的な提供、外部提携による新規ビジネスの展開などに資するとしている。
 地域金融機関の再編では、ゆうちょ銀行が積極的に参加、地域への金融投資で産業育成の役割を果たしていくことを期待している。郵政グループ主導で多様な選択肢を提供するともに、地域活性化ファンドへ参加するとした。
 その場合に「負ののれん」の活用をあげている。地域金融機関を買収した場合に、純資産よりも低い金額で買収したときに発生するのが「負ののれん」。これは会計上は一括して利益計上が認められる。地域金融機関の再編に伴い生じる「負ののれん」を、更なる再編へ積極的に活用する。
 デジタル化の推進では、配送などの生産性向上やお客さま情報のデータベースをつくり有効活用することなどが内容。この中には道順組立データの戦略的な開放や、社会的に活用することなどを上げている。
 また、上乗せ規制など制度の見直しを求める。2万4000の郵便局ネットワークが、人材、情報等を十分に活用していないと指摘、現状ではユニバーサルサービスの維持に支障をきたす恐れがあるとし、多くの法的規制の解消を求めている。また、郵便局を社会的資本として明確化、国の政策遂行の基本に据えることとしている。
 このほか、情報銀行やマイクロファイナンスなどにも触れている。情報銀行は、個人等からの様々な情報を「資産」として預かるもの。情報銀行は匿名化や開示可能先などを踏まえて、分析や助言などのサービスを提供する。郵便局ネットワークの活用にもつながる。
 マイクロファイナンスは、社会的弱者の生活や事業資金についての小口融資。社会的セーフティネットとして近年は注目されている。SDGsの観点からも意義がある。ゆうちょ銀行、かんぽ生命の時効没入金の一部を充てることなどを想定している。
 報告書は武田総務大臣をはじめ金融庁、郵政民営化委員会、日本郵政グループ、全国郵便局長会、JP労組、全国簡易郵便局連合会などに説明。また、関係方面にも提言していく。
 なお、委員会発足に当たっては、柘植芳文参議院議員が「郵政事業が民営化され13年が経過するが、かんぽ問題はもとより、郵便、貯金とも内在する大きな課題を抱えており危機的な状況。旧郵政民営化法と新たな改正郵政民営化法での整合性がなく、3社の株式売却により、“郵政グループの一体感を経営の中で活かす”という事業本来の方向性が見いだせない現状。しっかり検証し、法的に不備な点は政治、経営の一体性は経営者が責任を持ち対処し、郵政事業の危機を乗り越えなければならない」とのメッセージを寄せている。
 委員会メンバーは、齋藤豊氏(元国民新党事務局長、元横浜中央郵便局長)、勝野成治JPビズメール社長、会計評論家の細野裕二氏、元日本総研専務執行役の下稲葉耕治氏、中江紳悟日立製作所特別顧問(元東北支社長)、下地幹郎衆議院議員、通信文化新報の永冨雅文相談役。


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