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2021年5月17日 第7092号

【主な記事】

「楽天ロジスティクス」7月設立
日本郵便 物流プラットフォームに

 日本郵便と楽天グループ(東京都世田谷区、三木谷浩史社長)は、7月1日に物流会社「楽天ロジスティクス」を設立する。資本金は1億円で、出資比率は日本郵便が50・1%、楽天が49・9%。楽天の物流部門を切り離し、新会社に移管する。商品の保管から配送のラストワンマイルまでを一本化することで、効率化を図るほか、他事業者も利用できるDXプラットフォームも共同で構築する。配送は主に日本郵便が担う。

 新会社は、倉庫での保管や在庫管理、輸送の手配などを行うロジスティクス事業を柱とする。新会社ついて、諫山親副社長は4月28日の会見で「EC、物流のサプライチェーン全体をリアルとデジタルの両面で一本につなげることにより、効率的で利便性の高い物流プラットフォームを構築する。大きなチャレンジだ」と強調。
 「新たな社会インフラとしてのオープンプラットフォームを作り上げていきたい。業界全体の物流DXを加速させるための大きなチャンスと捉えており、Eコマースに関わる全てのステイクホルダーと一緒に成長していける社会の実現に貢献していきたい」とその目的と意義を語る。
 楽天は5月中に100%子会社の「楽天ロジスティクス合同会社」(資本金300万円)を設立する。7月1日に同社を株式会社に変更し、楽天の物流部門が保有する資産や負債を新会社に移管する。役員は両社からそれぞれ4人ずつ就任する予定。
 出資比率について諫山副社長は「公平性を保持しながら、意思決定を機動的に行うための比率」と説明する。
 楽天によると、新会社に継承される楽天の物流事業の2020年12月期(決算期12月)の売上は、169億2400万円だが、営業収益については非公開。昨年12月末(決算時)の分割する物流部門の資産は812億9400万円、負債は809億5500万円。資産や負債の評価は、引き渡し時の7月1日の状況により判断される。
 出資金について諫山副社長は会見で「適切な価値評価に基づいて決める。デューデリジェンス(投資先の価値やリスク調査。一般的には過去の業績の推移や設備投資、簿外債務などの財務評価やシナジー効果、人材、技術、設備なども評価の対象)を実施した上で、両者で協議しながら、妥当と考えられる金額を出資する。今回発表していない内容は新会社発足までに協議する」と話す。新会社の業績見込みについても協議中だ。
 新会社で扱う荷物は、当面は楽天の荷物や楽天市場の加盟店から楽天フルフィルメントセンター(物流拠点)で預かった商品などになる。
 計画では、2022年の取扱数は9つの物流拠点で2億個、2025年には11~13の物流拠点で3億個~5億個を予定している。
 新会社では、非接触での受け取りや、いろんな場所で受け取る、まとめて1回で受け取るなど顧客のニーズに応えるためのアプリ開発も行う。
 物流面では、日本郵便のネットワークと新会社のオペレーションを統合することで、重複作業を省き効率化を図る。現在は荷物を楽天のフルフィルメントセンターから一旦、集配局に運んでいるが、新会社のプラットフォームができると、同センターから直接、運送便の発着ができるようになる。
 諫山副社長は「荷物の差出データを分析することで、柔軟で効率的な運送便の運行が可能となる。共同開発する物流プラットフォームが試金石。それを日本郵便のネットワーク全体に広げて、全国的な物流の効率化を目指している。それが軌道に乗り、十分な効率化と競争力、高いサービスレベルも確保できれば、更なる投資を行い、日本郵便以外の物流事業者や楽天以外のEC事業者にも利用してもらいたい」とビジョンを話す。
 楽天から移管される物流拠点は準備中のものも含めて8拠点ある。楽天の計画では、2023年度までに開設予定の3施設(福岡、八尾、多摩)と合わせて11施設を開設し、新会社に移管する。2024年度以降も新規開設を予定している。
 日本郵便は物流部門のM&Aで、日本通運のペリカン便との統合やオーストラリアのトール社の買収で失敗を重ねている。ペリカン便は圧縮で1000億円以上のコストが掛かった。6200億円で買収したトール社は、エクスプレス事業をわずか7億円で売却することになった。トール社は今だ2200億円の負債を抱えたままだ。
 楽天との新会社設置に当たり、郵政民営化委員会でも「日通のペリカン便とはうまくいかなかったが、今回も同様の問題が発生することはないのか」(2月)と心配する声もあった。日本郵便は「ペリカン便は、合弁会社の認可が受けられず、取り込む形となった。準備不足が大きな原因」と反省している。
 トール社について日本郵政の増田寛也社長は4月28日の定例会見で「買収当時の資料を見たり、当時のことについて関係者にヒアリングも行った。日本郵政グループの負の教訓として残したい。そして、今後の買収や提携に生かし、経営にも反映していきたい」と話している。

楽天モバイルのカウンター
進む戦略的提携 郵便局に設置

 日本郵政と日本郵便、楽天グループは戦略的業務提携を締結し、メーンの共同の物流会社の設立を決定した。DX推進やECサイト、モバイル、金融など様々な分野での提携についても検討を重ねており、その内容が少しずつ具体化している。
 4月には、楽天上級執行役員だった飯田恭久氏が日本郵政執行役に就任し、日本郵政グループのDX推進を担当するなど人事交流も進んだ。
 モバイル分野では、郵便局内の空きスペースに楽天の申し込みカウンターを設置する。スペース貸しのみで、営業は楽天の社員が行う。また、日本郵便の配達網や郵便局ネットワークを活用したマーケティングの実証実験を5月から5局で実施する。
 ゆうちょ銀行は、同行デザインの楽天カードの取り扱いを今年中に開始し、その後、ゆうちょ銀行が発行するクレジットカードに関しても楽天と協議する。
 ECでは、日本郵便が取り扱う商品を楽天のサイトで販売するための協議を行う。郵便局では、楽天市場で販売する商品の申し込みを受け付けることについても検討する。


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