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2021年5月24日 第7093号

【主な記事】

日本郵政グループ中期経営計画
「共創プラットフォーム」核に
地域を支え新たな価値創造


 日本郵政グループの中期経営計画「JPビジョン2025~お客さまと地域を支える共創プラットフォームを目指して~」が5月14日、発表された。郵便局ネットワークを核として、様々なパートナーと価値あるサービスを作り出す「共創プラットフォーム」をビジネスの柱に、日本郵政が保有する金融2社の株式を50%以下にすることも明確にした。5年後の日本郵政連結当期純利益は2800億円。地域支援やカーボンニュートラル、社員の働きやすさなど持続可能に社会の実現にも配慮した内容となっている。

 ビジョン策定に当たり、日本郵政の増田寛也社長は「フロントラインや各社の社員の声に耳を傾けてきた。グループの社長ら経営陣とも議論を重ね、グループ全体で作り上げた。5年後の姿をビジョンとして示した」とグループの一体感を強調した。
 日本郵政グループが目指す姿として共創プラットフォームを挙げた。増田社長は「グループの強みは地域に根差した2万4000局の郵便局ネットワーク。これはグループにしかない極めてユニークな資産。お客さまと地域を支えるプラットフォームとして捉え直したい。地域の企業やコミュニティとともに、価値ある新商品やサービスを創造する場にしたい」と将来の姿を語る。
 共創プラットフォームについて、増田社長は「プラットフォームには、様々なパートナーに参画してもらう。コラボレーションの機会が増え、郵便局ブランドを通じて提供する商品やサービスは多様に広がる。コスト競争力、スピード、顧客ニーズの把握力を高め、多様で価値あるサービスを提供したい。お客さま本位のマーケティングを具体化するスタートライン」と位置付ける。
 その上で「お客さまと地域社会から必要とされ、選ばれ続けることが結果として利益に結びつき、持続的な成長につながる。誰一人取り残さない志が共創プラットフォーム実現の原動力になると信じている」と述べた。

「デジタル郵便局」を いつでもどこでも便利に

 全国の郵便局ネットワーク(リアル)と24時間365日稼働する「デジタル郵便局」を融合させることにより、新たな価値を創造する。デジタル郵便局は、オンラインによりいつでもどこでもより便利で身近に利用でき、顧客一人ひとりのニーズに合ったサービスを提供することもできる。
 デジタル化により、地方公共団体との連携による新サービスやグループ各社とのワンストップサービスなどの新たな価値の提供も視野に入れている。
 郵便・物流事業、銀行、生命保険のグループのコアビジネスの充実・強化を図る一方で、不動産事業や新規ビジネスの推進により、ビジネスポートフォリオを転換し、成長につなげる。
 成長に向けた課題として、日本郵便はラストワンマイルにおける二輪車の活用や保有データを活用したサービス・オペレーションの改革、ゆうちょ銀行はDX推進による安心・安全なサービスの充実と業務改革、地域への資金循環と地域リレーション機能の強化、かんぽ生命保険は、保障性ニーズへの対応や新たな営業スタイルへの変革、日本郵政はグループ内の連携強化やグループ外企業との積極的な連携、成長戦略を課題としている。
 これらの課題について増田社長は「少子高齢化やデジタル化の進展といった社会の変化の中で、お客さまや地域を支える価値創造を使命としているが、簡単な道のりではない。乗り越える課題も多い」と現実を語る。

成長に向け積極投資 不動産やIT、DX推進

 新規ビジネスへの投資額は、5年間で5500億円から1兆円を計画している。不動産は5000億円(グループ保有不動産に3000億円、グループ外不動産に2000億円)。 M&Aやグループ外企業への投資について「トール社の反省を踏まえて、専門の知見も入れて、コンプライアンスやリスク管理を徹底した上で、慎重かつ大胆に投資していきたい」と方針を述べる。
 成長に向けた投資として「戦略的IT投資」を積極的に行う。デジタル化やDX推進に対して、従来の2倍に当たる5年間で4300億円を実施する。「デジタル郵便局関連」では、共創プラットフォームや窓口業務運営のデジタル化に200億円、「郵便・物流事業のDX推進」に1800億円、「金融2社のデジタルサービスの拡充」に2300億円を投資する。
 一方で、リストラを伴わない人員削減も計画。DXやデジタル化を進めることなどにより、グループ全体の業務効率化を図り、4社合わせて3.5万人分の業務を削減する。
 その内訳は、日本郵便3万人、ゆうちょ銀行3000人、かんぽ生命保険1500人。「適切な要員配置と自然減により人員削減を実現し、リストラは行わない」という方針も合わせて示された。
 効率化や生産性の向上、業務改革により、経費を削減する。日本郵便は、かんぽ生命保険への渉外社員ら1万3000人の出向に伴う人件費の減少(950億円)などで経費を1600億円削減する。ゆうちょ銀行は550億円、かんぽ生命保険は280億円を削減する計画。

風通しの良い組織へ 日本郵政、日本郵便は一体的運営

 組織風土の改革も盛り込まれた。「組織の内外の風通しを良くして、社員に働きやすい、働きがいのある職場づくりをしたい。時間が掛かるが愚直に全力で取り組みたい」と増田寛也社長。営業目標や人事評価を見直す。
 お客さま本位の営業活動を徹底するため、営業目標は新規契約重視から新規契約と契約継続の両方を重視する目標に変更。目標額を純増額(販売額―消滅額)にする。 これに伴い人事評価も営業実績の比重を下げて、営業プロセスや営業品質、アフターフォローの実績を評価する。2021年度からはお客さま満足度も評価に加える。
 人材の育成にも取り組み、グループ内の人材交流を促進させる。日本郵政と子会社の3社間、子会社同士、本社と支社、支社と郵便局・直営店・支店間。交流することでグループ内の風通しを良くする。日本郵政と日本郵便は人事や採用の一体化を図る。
 かんぽ不適正販売の問題点として、ガバナンスの強化が求められたこともあり、日本郵政は、グループ全体の司令塔の役割を果たし、その強化を図る。具体的には、グループ内の調整を行うため、日本郵政に財務・経理、IT、コンプライアンス、リスク管理、人事など、持ち場に応じた最高責任者を置く。
 最高経営責任者はCEO、最高財務責任者はCFO、最高コンプライアンス責任者はCCOなど「グループCxO」といわれる制度を導入する。 リスク管理も顧客本位の業務運営を阻害するような事象を早期に発見するためグループ一体で行う。
 日本郵政と日本郵便は役員の兼務や人事・採用も一体化する。また、支社への権限委譲を責任と共に進める。地域の独自性を高め、地域での活動を機動的に対応できるようにする。
 規模の大きい郵便局は、郵便・物流、窓口、金融渉外機能を重視したこれまでのマネジメント体制を見直し、郵便局一体となったマネジメントにしていく。

保有割合は50%以下に ゆうちょ銀行、かんぽ生命株式

 資本戦略については、郵政民営化法の規定に沿い同計画5年の期間内に「金融2社の保有割合をできるだけ早期に50%以下にすること」を明確にした。かんぽ生命保険は5月17日に自己株式取得により、それを実現した。
 増田社長は「かんぽ生命保険は株式を処分しても連結子会社は変わらない(40%を保有していれば要件を満たせば、連結子会社とすることが可能)。郵便局ネットワークを核としたグループ一体のビジネスは変わらない」と説明する。
 金融2社の株式処分後の将来像については、金融2社は共創プラットフォームの核となる会社と位置付けている。将来的にグループの資本関係はなくなったとしても、日本郵便との受託関係を保ちつつ、グループ一体のビジネスモデルを維持する方針。共創プラットフォームを通して、日本郵政グループ外の企業とも連携。郵便局ネットワークを活用し、新たなサービスを提供する。
 2025年までの中期経営計画期間中に、日本郵政は金融2社の株式保有を50%以下にするため、配当収益も半減するが、日本郵政自体も自己株買いを実施する。日本郵政の配当方針は「一株当たりの配当は年間50円を安定的に実施する」と現状を維持する。
 金融2社の株式保有率が50%の場合の2025年日本郵政連結の当期純利益は2800億円(ゆうちょ銀行の保有率が89%の場合は4200億円)。日本郵政グループ全体の連結当期純利益は5100億円を目標にしている。
 同計画期間の各社の利益目標として、日本郵便は連結当期純利益220億円、ゆうちょ銀行は同3500億円、かんぽ生命保険は910億円。
 また、各社の主要な取組みとして、日本郵便は荷物などの収益を8900億円、ゆうパックの取扱個数13.6億個を目指す。ゆうちょ銀行は自己資本比率10%程度、営業経費を550億円削減、配当性向は50~60%を目安にする。かんぽ生命保険は保有契約件数2000万件以上、お客さま満足度90%以上を目指す。
 環境への配慮や持続可能な成長に向けて「ESG経営」に取り組む。カーボンニュートラルの目標値も「2030年度までに温室効果ガスを2019年度比46%削減を目指す」と設定。企業への投資もESGを意識して実施する。
 増田社長は「実行するために作ったビジョン。工程表を作り施策ごとの進捗管理を行う。各社経営陣は責任を持って実行していきたい」と話す。3年後に見直しを行う。


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