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2021年5月31日 第7094号

【主な記事】

高い信頼感がブランド価値
総務省デジタル懇 JPビジョンで意見交換
郵便局の維持自体がデジタルデバイド対策

 総務省の「第6回デジタル時代における郵政事業の在り方に関する懇談会」が5月20日に開かれた。日本郵政の西口彰人常務執行役が「JPビジョン2025」(中期経営計画)についてプレゼンテーションを行った。構成委員からは、成長戦略と公共性についてや楽天との提携、業務削減に伴う社員の配置転換などに関して、多数の意見や質問があった。データ活用WG(ワーキンググループ)やコンプライアンスWGの検討結果や、同懇談会の最終素案も示された。最終とりまとめは6月10日に行われる予定だ。

 JPビジョン2025について谷川史郎構成員(東京藝術大学客員教授)は「目標が掲げられているが、そのハードルの高さはどのくらいか」と質問した。
 西口常務執行役は「財務目標は、収支見通しを積み上げ式で計算したので、達成可能という数字。ビジネスポートフォリオの転換は、暗中模索しながらやっていく。事業分野が大きく変わるかどうかは、これからの努力にかかっている。確実に達成可能と言える状況ではない。財務目標には組み込んでいない」と回答した。
 巽智彦構成員(東京大学法学部・法学政治学研究科准教授)は「DXを推進する中でだれ一人取り残さないというキーワードで進められるというが、採算が取りづらい地域でのサービスと成長戦略との位置づけはどのようになっているのか」と質問。
 西口常務執行役は「中期経営計画は投資家向けに作っている。成長戦略に重きを置いた構成になっているが、郵便局窓口事業の『地域ニーズに応じた多種多様な商品・サービス』については、郵便局の役割や期待として考えている。デジタルデバイド(情報格差)や行政サービスについてはこれからも力を入れていきたい」と回答した。
 巽構成員は「プラットフォーム事業は独占・寡占に陥りやすい。楽天と構築する物流網は最終的にはオープンするということだが、それは重要なこと。郵便局のカウンターで楽天モバイルを販売するというが、他の事業者が販売したいと言ってきた場合はどうするのか」と質問した。
 西口常務執行役は「楽天との共同倉庫から直接荷物を運ぶ。他のEC事業者や配送事業者にも使ってもらう。ヤマト便はすでに配送を引き受けている。また携帯の販売は楽天がカウンターを借りて、楽天の社員が販売する。郵便局は場所貸しをする。NTTドコモやauがカウンターを貸してもらいたいということなら、断ることはできない。郵便局ネットワークはオープン化していきたい」と回答した。
 楽天との提携については宮元陸構成員(加賀市長)からも「楽天は中国のテンセントからも出資を受けるというが、個人情報や安全保障上の問題もある。米中が対立する中、それが激しくなると神経質になってくるはず。注意してもらいたい」と質問や意見があった。
 西口常務執行役は「個人情報が中国に流れる問題は、米中対立の中で楽天と連携して対処したいが、基本的には楽天側の問題。テンセントの出資は純投資で、出資することで協業を行う予定はないと聞いている。データのやり取りは発生しない」と強調した。
 「楽天と設立する物流子会社はデリバリーのオペレーションをやっていく。個人情報は楽天のお客さま情報を使い、倉庫から出し、ゆうパックで配送する。日本郵便の個人情報は切り離されてはいない。JPグループ側の個人情報のデータベースが楽天にそのまま開放されることはない。今後いろんな形態で協業することになるが、個人情報保護法を遵守したい」と答えた。
 長田三紀構成員(情報通信消費者ネットワーク)からは「デジタルデバイドが顕在化する中、郵便局の存在が期待されている。郵便局が地域で役割を果たすことで、信頼を得て郵便事業が成り立っていることを盛り込んでもらいたい」との意見があった。
 西口常務執行役は「日本郵政グループや郵便局の強みは弱者にも手を差し伸べて、信頼を得ていくことにある。信頼感やブランド価値は大きい。郵便局の維持自体がデジタルデバイド対策。政府の対策にも貢献していきたい」と述べた。
 藤沢久美構成員(シンクタンク・ソフィアバンク代表)は「日本郵政の大きな課題に職員の働きがいの問題がある。人員削減については、削減された部署の人がどの分野に移行するのか。イメージがあった方がいい。郵政の削減策には業務がなくなることしか記載がない。働く人を人工物のように扱うような表現は控えてもらいたい」と意見を述べた。
 西口常務執行役は「土曜休配で日本郵便では郵便配達からゆうパックの配達配置換えという例がある。金融窓口でのタブレットの導入により、バックオフィスで効率化した人員を戦略的な分野に投入するという振替も進める」と説明した。
 データ活用WGでは検討結果が示された。新サービスを提供する際に、個人情報活用の指針となる「ガイドライン」の制定、ステークホルダーによる検討の場の設置、データを活用したサービスの実証事業などを総務省が実施することも盛り込んでいる。
 データの活用は、事前同意を取っておく「オプトイン」、予めデータの取得や利用を通知・公表しておき、利用を停止する手続きを用意することでデータを利用する「オプトアウト」がある。
 オプトアウトを採用すれば、すでに保有する膨大なデータを活用できるというメリットがあるが、プライバシーなどの権利侵害を起こす可能性がある。
 総務省では、日本郵政グループがデータを活用した新サービスを創出しやすいよう環境整備を進める。日本郵政グループが保有する住居情報(配達原簿、転送情報)、配達データをオプトアウト方式で活用できる範囲について、有識者や日本郵便、関係企業、総務省などの代表者が集まり、検討する場が設けられる。
 オブザーバーとして参加した日本郵便の立林理専務執行役員は「ビジネスは制度面がクリアになっていることが前提となる。検討の場にしっかりと参加したい」と述べた。
 コンプライアンスWGでは、日本郵政と日本郵便の監督指針(案)も公表された。指針検討の背景には、かんぽ生命不適正募集問題などで失った国民・利用者の「信頼」「信用」を回復し、向上させることがある。総務省の監督に関する基本的な考え方や職員の行動規範を示すことで、コンプライアンスの確保に向けた取組みを促す。行政処分・行政指導の具体的な内容についても同指針に示されている。
 オブザーバーで参加した金融庁の森拡光郵便貯金・保険監督総括参事官は「監督指針は日本郵政、日本郵便の内部管理体制の整備に役立つ。その構築に取り組んでもらいたい。総務省とも連携してモニタリングしていきたい」と述べた。


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