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2021年6月21日 第7097号

【主な記事】

DX(デジタル・トランスフォーメーション)推進を積極的に
[総務省]郵政事業懇談会が答申案

 武田良太総務大臣主催の「デジタル時代における郵政事業の在り方に関する懇談会」(座長:多賀谷一照千葉大学名誉教授)の最終報告書案がまとまり、6月12日から7月12日まで意見を募集している。「データを活用したビジネスの推進」「地方創生・地方活性化への貢献」「グループガバナンスの強化・総務省が行う行政処分・指導の監督指針」「SDGs・ESGを重視した経営」の4つのテーマで構成される。日本郵政グループに期待される取組みや、総務省が課題解決に向けて実証実験を行うことなどが盛り込まれている。

 懇談会がこれら4つをテーマに開催された理由には、少子・高齢化やデジタル化といった社会環境が変化する中、ユニバーサルサービスは提供していかなければならない。一方で、郵便物の減少や長期低金利など日本郵政グループの事業環境は厳しい。デジタル化の進展により、新たなビジネスチャンスが生まれているが、日本郵政グループはその対応が遅れているのが現状だ。

 マルチステイクホルダーによる検討の場を
 データの利活用については、日本郵政グループは事業を通じて膨大な顧客情報を保有している。個人情報保護に配慮しながら活用できれば、新たなビジネスにつながる。 懇談会では「データ活用WG」を設置し、データを活用したビジネスやセキュリティ、先端技術の活用、海外の事例なども参考に、日本郵政グループに期待される取組みを示している。
 DX推進で早急に取り組むべきこととして、グループ全体の共通顧客データベースの構築をトップダウンで実行することや、利用者との接点である「ID」のグループ内での一元化、外部人材や若手の登用・DX専門人材の発掘・活用などがある。人材の確保は重要で、エンジニアが憧れる組織に変革することも求められている。
 郵政グループの持つ幅広い業務領域、豊富なデータ、企業規模、地域密着性を活かして、利用者の代理人として の「情報銀行」となることも提案されている。
 郵便法上の信書の秘密や個人情報保護法上の個人情報に該当するデータについては、その利用や第三者への提供に制限があるなど、法令上の規制に注意することが必要。「同意を必要としない新サービスについては、マルチステイクホルダー(有識者、日本郵便、関係企業、個人情報保護委員会、総務省など)による検討の場を設置し、実証事業も行いながら検討すること」が提案されている。総務省はこれらの取組みを推進するため、指導や助言を行う。

 個人情報保護委と連携を密に行う
 最終報告案を検討する第7回懇談会で、巽智彦構成員(東京大学法学部・法学政治学研究科准教授)は、データの利活用やビジネスを始めるに当たり「個人情報保護法の動きは速いうえ、個人情報保護委員会が法律の執行を集約している。マルチステイクホルダーと議論する際には、同委員会との連携を密にやっていただきたい。同委員会は郵政グループが保有する個人データの利活用には関心が高い」と強調。
 「仮名加工情報(個人を識別できない情報に加工する)については、その仕組みを正確に理解し、有意義に使っていくことが日本の個人情報の利活用に先例として重要な意味を持つ。総務省として適切な利活用を見守っていただきたい」と意見を述べた。
 そのうえで「データの利活用をする際には法律を使いこなせる法律家を巻き込んで、サービスを監修してもらい、進めていって欲しい」と付け加えた。
 日本郵政グループのデジタル化の現状を踏まえ、藤沢久美構成員(シンクタンク・ソフィアバンク代表)は「日本郵政グループは前段でやらなければならないのはITによる効率化。それを実行した上でのデータ利活用だと思う」と述べた。
 長田三紀構成員(情報通信消費者ネットワーク)は「データ活用には郵便局を利用する人に配慮してもらいたい」と、利用者保護の立場から意見を述べた。
 谷川史郎構成員(東京藝術大学客員教授)は「コロナのワクチン接種を見ていると、現場でいろんなアイデアが出て、良いものが生まれている。郵政グループもDXを進める中で、一度に全国一斉にするのではなく、現場でいろんな実験を積み重ねた方が良いと感じている」と提案する。
 中村伊知哉座長代理(iU 情報経営イノベーション専門職大学学長)は「ここでの検討結果が実行されるよう期待している。郵政グループ全体のものにしていくことが重要。デジタル化やDXは、日本ではITや情報部門のものだと考えられているが、これからは、DXは全員が自分事となる。日本最大級の組織がDXを進める大仕事。ITの利用ということもあるが、先端を追うことと全体の底上げの両方が求められている」と日本郵政グループの今後のDXのあり方について提言する。

 デジタル活用支援 郵便局を拠点に
 地方創生・地域活性化への貢献では、約2万4千の郵便局ネットワーク・40万人の従業員のリソースを地域に開放・提供・活用することや、地域住民のデジタル・デバイドも含めた格差是正解消につながるサービスを提供することなどが求められている。
 具体的には、地域の声を吸い上げて地域活性化や地域課題解決につながるサービスを検討する態勢を強化することや、「デジタル活用支援員」の活動拠点として郵便局の空きスペースを活用すること、ゆうちょ銀行には地域活性化ファンドへ積極的な投資などがある。
 総務省としては、自治体事務の受託拡大や、地域における様々な格差の是正に向けて、実証実験に取り組む。

 コンプライアンスで総務省監督指針策定
 かんぽ生命保険の不適正募集問題では、国民の信頼が大きく損なわれた。総務省と金融庁から業務停止命令などの行政処分が行われ、コンプライアンスやグループガバナンスの強化が求められた。
 懇談会では「コンプライアンスWG」を設置。WGでは総務省による監督指針案を策定した。日本郵政・日本郵便の監督に関する考え方や、行政処分・行政指導を行う際の着眼点や要件を可視化・透明化した。
 WG主査の根本直子構成員(早稲田大学大学院経営管理研究科教授・アジア開発銀行エコノミスト)は「良い戦略と監督指針ができた。他の金融機関と比べてもより進んだ方向性が示されていると思う。実行に当たっては、社員全体のリテラシーを高めることが必要だと思う」と述べた。
 また「こういう計画を実施する場合、情報を流すだけだと日々の仕事に追われ、いろんな通達も来て、深く理解できないかもしれない。何らかの形でいろんな人に浸透させることが必要。ボトムアップから別のアイデアが生まれる。そういう形になればよいと思う」と感想を述べた。
 かんぽ生命保険の不適正募集やゆうちょ銀行のキャッシュレス決済サービスの不正送金問題で根本構成員は「不祥事が起き、第三者委員会の解決策が出て、改善が進められるが、何年かすると風化していってまた同じ様な問題が起きることがある。何らかの形で過去を思い出し、過去を繰り返さないようにしてもらいたい」と提案する。
 SDGsへの貢献やESGへの取り組みについては、配達に使うEV車両・バイクを増やすことや、太陽光発電パネルの設置、顧客満足度や従業員満足度の経営指標化、それらに連動した評価制度の導入の実施、金融二社の資金運用にはSDGsやESGを意識した投資先の選定など。総務省は先導的な取組に関してモニタリングを行う。
 意見の送付先は〒100―8926 東京都千代田区霞が関2―1―2 総務省情報流通行政局郵政行政部郵便課、Eメールyusei-yubin@soumu.go.jp、FAX03―5253―5973。電話03―5253―5959、電話03―5253―5975。


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