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2021年6月28日 第7098号

【主な記事】

郵便局ネット 維持・強化
[日本郵政株主総会]企業価値を向上

 日本郵政グループの株主総会が6月16日から18日までの3日間、東京都港区のザ・プリンスタワー東京で開かれた。コロナ禍で来場を控える株主のためインターネットでライブ中継も実施した。来場した株主はグループ全体で前年比3割減の310人となった。各社の総会では、今年度から始まった中期経営計画「JPビジョン2025」について説明。質問は、かんぽ問題への対応や業務提携、個人情報保護への対応、配当方針など多岐にわたった。

 日本郵政の株主総会は18日に開かれた。この日は173人(前年より86人減)の株主が来場、ライブ中継では総再生回数が1397回(同267回減)となった。中期経営計画「JPビジョン2025」は映像で紹介され、質問の後、事業報告や監査報告、取締役13人の選任(全再任)について、原案通り承認された。
 採決を前に10人の株主が質問に立った。質問は事前の質問と合わせて、全部で14問あった。長崎住吉郵便局の元局長の現金詐取事件やかんぽ問題、豪トール社のエクスプレス事業売却など、不祥事への対応や投資の失敗について、厳しい意見や質問があった。
 長崎住吉郵便局の元局長の現金詐取については、株主からは二つの質問があった。一つは「日本郵便とゆうちょ銀行は9億円強を補償するという発表があったが、民営化前の2007年以前の被害まで郵政グループが補償する必要があるのか」(事前質問)というもの。
 もう一つは、同事案に関連して郵便局長の犯罪を根絶させる方法について。株主からは「小さい郵便局の局長は転勤がない、世襲、地域との癒着やなれ合いがあり、不正が発覚しにくい。駅長や校長、駐在所長は2~3年で変わっていくが、地域と良好な関係を作っている。正社員で転勤がない選択肢はないと思うが、小さい郵便局の局長も例外なく転勤を実行してもらいたい」という意見があった。
 これに対して日本郵政からは、増田社長が「ゆうちょ銀行は国や日本郵政公社から貯金業務に関わる使用者責任を承継している。多額の賠償金になるが、ゆうちょ銀行は、お客さま本位の業務運営を行っており、お客さまからの信頼を維持し、企業価値向上に努めたい」と回答した。
 局長の犯罪防止策については、河本泰彰専務執行役が「メガバンクや地銀は一律に転勤を導入しているが、郵便局は地域に根差した事業活動を展開している。地域に密着した郵便局は1万8000局以上あり、局長は地域に貢献している。地方公共団体との提携を深め、今まで以上に貢献していこうという方向性がある。転勤の一律導入によるけん制効果と地域の皆さまの役に立つというメリットの両方を考えて、一律導入でなく、それと同様のけん制効果を実施できるかについて検討している」と答えた。
 トール社のエクスプレス事業売却について、株主からは「多額の金で買ったものを安く売った。失敗だったということをどう総括するのか。失敗の原因は何か」と説明を求めた。
 米澤友宏常務執行役(日本郵便副社長)は「トール社は買収に際しては会計や税務、法務、金融、ITの専門家の助言を受けており、デューデリジェンス(投資先の価値やリスクの評価)を適切に実施した。そのプロセスには瑕疵はないと認識している。投資の分析が甘く、買収後の経営現場の変化が見通せなかったことについては重く受け止めている」とした。
 また「これまでもマネジメントの変更や不採算事業の売却、人件費の削減を実施した。エクスプレス事業は豪州経済の減速や厳しい競争環境、新型コロナウイルス、標的型サイバー攻撃により、赤字が継続している。トール社全体の業績不振の主要因となっていたことから、4月に売却契約を締結した。今後はアジアを基軸とした事業展開を進め、残るロジスティクス事業とフォワーディング事業の採算性を向上させ損益の改善に努めたい」と答えた。
 配当について「中間配当を行わず年1回の期末配当だけだが、その方針を変更する可能性はないのか。安定株主の確保のためには年に2回の配当が望ましいと思う。2023年以降も年1回の配当なのか」(事前質問)と質問。
 増田社長は「利益剰余金が積み上がったとしても利益剰余金からの配当は実施しないため、今期の中間配当は見送ることにした。次年度以降は利益剰余金の水準や子会社からの配当状況などを勘案し検討したい」と述べた。
 株価と株主優待については、株主からは「上場して5年になるが、株価は半分になった。見解を聞かせてもらいたい。NTTやJTは株主優待をしているが、郵政は配送も自社で行っている。株主優待は実施するのか。しないのであれば理由を教えてもらいたい」と発言した。
 飯塚厚専務執行役は「株価は様々な要因により形成されるが、低いということは真摯に受け止めている。企業価値向上は大切だと考えている。中計に盛り込まれている施策を着実に行っていきたい。1株50円の配当を着実に実施したい。自己株式の取得を積極的に進め、資本効率の向上を図りたい。株主優待も考えたいが、まずは配当でお返ししたい」と説明した。増田社長も「企業価値向上を最優先したい」と強調した。
 郵便局の統廃合を心配する株主の声もあった。ある株主は「メガバンクが店舗を削減しつつあるからこそ、日本郵便の価値は輝いていく。しかし、人が減るとサービスの低下が起きるのではないか。国民全員がデジタルに対応できないことは分かっている。店舗の統合・廃止はどのように考えているのか」と質問した。
 米澤常務執行役は「郵便局は、地域に寄り添い、共に生きていくという社会的使命を果たすためにも、郵便局ネットワークの維持・強化は不可欠だと考えている。公共性と企業性の両立が重要と考えている。実現のためにも安易に数を減らすのではなく、地域のニーズに応じて郵便局ごとに、窓口営業も多様にしていくことを検討したい。それらの取り組みを通じて地域の皆さまに使ってもらい易くしていきたい」と答えた。
 株主からは「社長の言葉が末端の社員にまで届いていないのではないか」という指摘もあった。増田社長は「お客さまの信頼回復を最優先に取り組んでいる。フロントラインとは現場に出向いたり、オンラインでも話をしている。動画配信システムで全国の社員に動画を送り、思いを伝えている。今後も続けていきたい」と取り組みについて紹介した。
 「非正規社員の65歳定年制の撤廃」を要求する株主もいた。志摩俊臣常務執行役は「高年齢者雇用安定法(働く意欲のある誰もが能力を十分に発揮できるよう環境整備をする法律)が改正され、4月からは、定年制の廃止や70歳までの就業確保に対する企業の努力義務、社会貢献事業への従事支援などが企業に求められている。65歳以上の人の業務面での配慮や経営に及ぼす影響などを踏まえ、組合とも協議しているところ」と答えた。


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