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2021年7月5日 第7099号

【主な記事】

新会社「JPデジタル」設立
[日本郵政]増田社長 デジタル郵便局を実現

 日本郵政の増田寛也社長は6月30日、東京・大手町の本社ビルで定例会見を行い、デジタル郵便局の実現に向けて、新会社「株式会社JPデジタル」を設立すると発表した。グループ外企業からの支援を受けながら、グループの横断的・一体的なDX (デジタルトランスフォーメーション)施策の推進 やDX人材育成を通じて、新しい価値の提供を目指す「デジタル郵便局」の実現をリードしていく考えだ。日本郵政100%出資(資本金6千万円)で7月1日設立、8月中に営業を開始する予定。

 日本郵政グループは、新中期経営計画で発表したリアルの郵便局ネットワークとデジタルとの融合に向けて、取組みを加速している。とりわけ、「デジタル郵便局」は成長戦略の核(コア)であり、最重要の施策と位置付けている。
 デジタル郵便局は、お客さまに対して24時間365日、いつでもどこでも郵便局サービスを提供すると同時に、新たな価値を創造するためのプラットフォームとなるもの。デジタル郵便局を早期に立ち上げて、サービスを開始することが今回の新会社設立の狙い。
 デジタル郵便局が提供するお客さまサービスは大きく3つある。一つ目は、リアルの郵便局におけるお客さま体験価値の拡大。リアルの郵便局の中に、デジタルの窓口を設置、技術を駆使して、郵便局サービスをより簡単・便利にしていく。二つ目は、郵便局外でのお客さま体験価値の創造。自宅や外出先などで、スマホやウェブなどを通じて、いつでもどこでも郵便局サービスを利用できるように整備をしていく。三つ目は、デジタル郵便局ならではの新たなサービスの開発。地域コミュニティやパートナー企業と積極的にコラボレーションして、リアルとデジタルを融合した価値の共創に挑戦する。
 デジタル郵便局を早期に実現する推進部隊として、新会社の設立を決定した。7月1日設立で営業開始は8月を予定している。資本金6千万円。日本郵政100%出資。日本郵便、ゆうちょ銀行、かんぽ生命などグループの横断的かつ一体的なDXを推進。一体的な開発環境、体制をリードしていく役割を担う。同時にDX専門人材を社内外から広く集めて、機動的に施策し実装していく場となる。
 代表取締役CEOには、グループCDO(最高デジタル責任者)の飯田恭久日本郵政執行役が就く。飯田氏は、4月1日付人事で楽天の上級執行役員から日本郵政に転籍し、執行役(DX推進室副担当)に就任。6月18日付でDX推進室副担当から、グループCDO、DX推進室に担当が変更された。
 事業領域は大きく4つある。一つ目は、グループDX施策の実行。二つ目は、各社からの依頼によるDX施策の支援。三つ目は、デジタルテクノロジーを活用した新規サービスの構築。四つ目は、グループ横断でのDX人材の育成。各社のDXをリードして、その開発を後押しすると同時に、デジタル郵便局のお客さま態勢に統合していく。
 推進スキームとして、グループのCDO(チーフデジタルオフィサー)を長とする各社横断のDXコミッティーを設置する。JPデジタルが要となって、各社と連携して、デジタル郵便局を早期に実現していく。
 グループ各社のスペシャリストを集結させて、DX部門と人材育成部門を設ける。それぞれが、グループ一体的・横断的なDX施策のリードと、将来を担うDX人材の育成に取り組む。
 一方、ケイパビリティ(ライバル企業よりも優位に立てる能力)の観点から、 DXによる顧客体験でノウハウを持つ企業であるSOMPOホールディングス株式会社、株式会社電通グループ、楽天グループ株式会社から支援を仰ぐ。
 具体的には、データ、AI(人工知能)、UI/UX(サービスの扱いやすさ/サービスを通じて得られる全体の体験)、デジタルマーケティング等の第一線のDX人材の支援を受ける。今後は、この3社以外に趣旨に賛同してもらえる企業を拡大し、共創プラットフォームとデジタル郵便局を共に創造するパートナー企業と広くコラボレーションしていく考えだ。
 JPデジタルで取り組む具体例としては、まずデジタル窓口の実現に向けて郵便局にデジタルデバイスを設置して、さまざまなお客さまに便利で新しいサービスを利用してもらうよう準備をしていく。また、いつでもどこでも郵便局の窓口サービスを利用してもらうようウェブやアプリの開発を進める。One ID(生体情報を紐づけた認証用のデータ)やロイヤリティプログラム(優良顧客に対して、インセンティブ・特典を提供する施策)の導入はじめ、お客さま一人ひとりのニーズにいち早く対応していく。合わせて、地域コミュニティやパートナー企業とデータやサービスを連動・連携して魅力的なサービスを提供するプラットフォームを構築する。
 「デジタル人材確保は官民ともに争奪戦の感があるが見通しは」との記者の質問に対して、増田社長は「スタート時点では30人。支援企業3社から1ないし2人来てもらい人材を確保する。それ以外の企業からも、目的に沿った形で広く人材を確保する。規模感でいうと、2年経ったところで200人くらいにしていきたい。郵政グループの中からも登用したい」と回答した。
 主な事業内容は、①日本郵政グループ各社およびグループ外企業に対するDX推進の支援②日本郵政グループ各社およびグループ外企業からの依頼によるデジタル関連サービス・ ソリューションの開発・試験・運用③デジタルテクノロジーを活用した新規サービスの企画・構築・提供・運用④デジタル人材育成。
  新規サービスに関する質問には、「アイデアはいっぱいある。デジタルのプラットフォーム、デジタル基盤、リアルな基盤両方を掛け合わせて、それをひとつのプラットフォームとして、そこに企業や地域のコミュニティに入ってきてもらうことになる。そして、どういうサービスが可能かを相手と相談するため、現時点で申し上げる段階にはない」と述べた。
 一方、楽天グループとの業務提携のうち、金融・EC分野に関しては「ゆうちょ銀行と楽天が継続的に協議している。ゆうちょ銀行を発行主体とするクレジットカードを発行することが来年以降の目標。ゆうちょ銀行専用デザインの楽天カードは、年内に発行する予定。保険分野では、具体的に申し上げられないが、非接触でできるような取組みについてどういうことができるかを楽天とともに検討している」と進捗状況を説明した。

JP未来戦略ラボ設置
若手登用で変革推進
増田社長直属の組織

 日本郵政は、新中期経営計画「JPビジョン2025」の実現に向け、7月1日付 で増田社長直属の組織「JP未来戦略ラボ」を設置した。グループ各社の若手社員を中心として組織し、グループ横断的な体制によるシナジーと、既存の枠組みにとらわれない発想により、これからの日 本郵政グループの変革を推進していく。
 「JPビジョン2025」で掲げる お客さまと地域を支える「共創プラットフォーム」の実現など、日本郵政グループ横断的な重要課題に関して、取組方針・計画の立案および提言を行っていく。また、グループ各社や外部からの知見を取り入れながら、イノベーションの創出につなげるための検討を行う。
 「JPビジョン2025」には、郵政創業150年の節目に当たって、グループが新たなステージに進んでいく、未来に向けて大きく生まれ変わる決意が込められている。
 増田社長は、「共創プラットフォームの実現には、外部とのコラボレーションだけではなく、私たち自身が自ら変わっていく、内側から変えていく、これが必要だと思っている。つまり当社グループの内部の変革、イノベーションを加速させるための仕掛けが必要だと考えている。そのための新たな組織として、日本郵政社内に7月1日付でJP未来戦略ラボを設置する」と述べた。
 JP未来戦略ラボは、日本郵政グループの変革に挑戦するイノベーションチームとしての位置付け。そのミッションは、グループ横断的な事業課題に関して、方針・計画の立案や提言を行うこと、また、郵便局のフロントラインを含めたグループ各社や外部からの知見を取り入れながら、イノベーションの創出につなげるための検討を行っていく。
 増田社長直下の組織とし、グループ各社から人材を集める。当初は32人で立ち上げる。メンバーのほとんどは、グループ各社で実務の中核を担う30歳代の社員。いずれも民営化後に入社した社員を集めている。
 増田社長は「古いしがらみにとらわれず、柔軟な発想を持って課題に取り組んでもらいたいという狙いを込めている。グループの中長期的な課題にチャレンジする機会も持ってもらうことで、将来の経営を担う人材の育成にも繋げてまいりたい」と期待を込める。
 また「JP未来戦略ラボには、グループ各社の経営幹部に対して直接提言させる権限を持たせるが、検討だけを行うシンクタンクではなくて、施策の実行まで担当することによって成果に責任を持たせる。ミッションはひとことで表すと『変革』。グループ横断的な人材によるシナジー、既存の枠組みにとらわれない若い力。この二つを掛け合わせることで、あるべき組織風土の変革、さらなるお客さま本位への変革を進めていく」と強調した。
 例えば、人材育成では、意欲のある社員が挑戦する機会が不足していることが課題と捉えられており、このラボ自体をひとつの解決策とするとともに、人材が成長、活躍できる環境の実現に向けた、人事戦略の検討にも取り組む。
 こうした背景を踏まえて、増田社長は「当グループに不足している徹底したお客さま本位、マーケティング志向の課題であり、お客さまとの距離を縮め、お客さまのニーズを深く把握するための仕組み作りにも取り組んでまいりたい。これまでともすれば自分本位、会社本位になりがちだったが、お客さま本位に生まれ変わる。ラボを中心としたこの変革は、グループが経営理念として掲げている、『お客さまと社員の幸せ』に繋がる。わがグループの経営理念は、お客さまと社員の幸せを実現させて、地域に貢献していくこと。こういう経営理念に繋がるものと理解している。社内ベンチャーにも取り組んでいきたい。取組みが進展していけば、公募してメンバーに加わってもらうことも考えている」と設立の趣旨を説明した。


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