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2021年8月23日第7106号

【主な記事】

データ活用で新事業創出
総務省の懇談会 報告書を提出
郵便局ネットは「最後の拠り所」

 総務大臣主催の「デジタル時代における郵政事業の在り方に関する懇談会」(座長=多賀谷一照千葉大学名誉教授)の報告書が7月20日、武田良太総務大臣に提出された。日本郵政グループが持つ顧客データを活用したビジネスや地方創生、かんぽ問題でクローズアップされたコンプライアンスやガバナンスに対する総務省の監督指針など、デジタル時代に向けた同グループの重要課題について方向性が示された。

 昨年11月から8回の会合を開催。日本郵政の増田寛也社長や郵政民営化委員会の岩田一政前委員長、根本直子構成員(早稲田大学大学院経営管理研究科教授)、中川郁夫構成員(大阪大学招へい准教授)らがそれぞれの分野で郵政事業を取り巻く課題についてプレゼンテーションを行い、議論を深めた。
 今後期待される「データ活用」については、業務の効率化や既存サービスの向上、新たなビジネス(収入源)の創出、公的サービスとの連携を挙げている。データ活用には個人情報保護法や郵便法などの法律上の規制もあり、総務省は利用者保護やデータの適正な取り扱いに対して、指導や助言を行う。
 中でも「郵便局により地域課題を解決するもの」や「日本郵政グループに任せていては前進が期待できないもの」については、総務省が実証実験などを通じて開発や提供を促進する。
 必ずしも同意を必要としていないデータを活用した新サービスについては、日本郵便が保有する居住者情報(配達原簿、転送情報)や配達データを活用できるようにするためのガイドラインの制定の検討も盛り込まれた。マルチステイクホルダー(有識者、日本郵便、関係企業、個人情報保護委員会、総務省など)による検討の場を設ける。
 配達データの分析により、地域経済の見える化やエリアマーケティングへの活用、地図情報を利用している事業者との協業、災害対策や給付金の支給などの公的ニーズに応じた居住者情報の提供などでの活用も考えられる。
 DXの推進で日本郵政グループに期待される取り組みとしては、共通IDを活用した「本格的ライフサポートサービス」や「ネットとリアルの融合型新サービス」の開発、情報銀行としての役割を果たし「見守り、健康診断サービス」を地域住民へ提供、スマートシティへの参画、日本郵政グループ全体のサービスをまとめた「スーパーアプリ」の開発・提供などが盛り込まれている。
 地方創生・地域活性化への貢献についても議論が行われた。2万4000の郵便局ネットワークは「地域住民サービスのラストリゾート(最後の拠り所)」と位置付けられ、存在感を発揮することも求められた。現在は郵便・物流、銀行、保険の3事業に多く活用されているが、これらの郵便局が持つ資産を地域住民に開放・提供し、新たなビジネスの機会を拡大すべき、と提言している。
 郵便局の活用の一例として、総務省が推進している「デジタル活用支援員」の活動拠点とすることや、ゆうちょ銀行に対しては、地域活性化ファンドへの積極的投資や子会社を通じて地域課題解決や脱炭素に向けたインフラ整備を目的とした投資信託を組成し、郵便局で販売するなども提案されている。
 総務省には、郵便局を活用したテレビ会議システムを活用した遠隔相談を通じた情報格差の是正や、過疎地の交通手段などについて、検討するよう求められている。
 かんぽ問題やゆうちょ銀行のキャッシュレス決済サービスの不正送金などの不祥事で、日本郵政グループのコンプライアンスやガバナンスが問われたが、総務省は、日本郵政・日本郵便向けの、行政処分や行政指導を行う際の着眼点や要件を示した「監督指針」を策定した。
 不祥事を事前に回避するためのGRC(ガバナンス・リスク・コンプライアンス)ソフトウェアの活用も対策の一例として挙げられている。
 このほか、SDGsやESGへの取り組みも奨励している。環境への取り組みとしては、保有不動産への太陽光パネル設置やEV車の導入、ペーパーレス化、郵便局舎の木材の積極的活用などがある。
 SDGsの一環として、顧客満足度や従業員満足度の経営指標化、従業員の主体的な参画の促進なども求めている。総務省には、「JPビジョン2025」に掲げられた目標の着実な履行についてモニタリングすることも求めている。

楽天との提携 公正な競争環境を
 最終の同懇談会(第8回)では、多賀谷座長は「郵便事業は2万4000局を縮小しないことを前提に成立している。コンビニは経営の成り立たない地方にはないが、郵便局はペイしないことを前提にしている。DXによってシステムを改善し赤字を縮小して運営できると考える。国際物流については少なくともアジアレベルでは日本を代表するシステムを維持しつつ、政策的に対応していただきたい」と要望した。
 中村伊知哉座長代理(情報経営イノベーション専門職大学=iU学長)は「検討結果を郵政全体のものとしていくこと、組織全体・全員がDX人材になっていくこと、先端を追うことと基盤強化の両方が大事であることが重要なポイント」と指摘する。
 巽智彦構成員(成蹊大学法学部法律学科准教授)は「楽天と共同構築する物流網を最終的に他の事業者にも開放することが示されたことは重要。既存の携帯事業者との公正な競争環境についても慎重に考慮して進めてもらいたい」。
 谷川史郎構成員(東京藝術大学客員教授)は「データ活用については考慮すべき制約も多数指摘されており、実証実験を通じて事業者との上手な調和の取り方を検討できるとよいと思う」。
 西成典久構成員(香川大学経済学部観光・地域振興コース教授)は「地域のラストリゾートとして残っていく郵便局は地域活性化に貢献し、かつ郵便事業にもフィードバックがあるような形で、地域と組んでいけるような人材の登用、連携、育成に期待したい」。
 根本直子構成員(早稲田大学大学院経営管理研究科教授)は「顧客や地域の様々なステイクホルダーの利益を重視しつつ、財政基盤をしっかりしたものにしていく形で進めることが重要」。
 長田三紀(情報通信消費者ネットワーク)構成員は「データ利活用は拡大解釈による乱用があってはならない。様々なステイクホルダーの参加により透明性を持って議論できる場を総務省としても確保してもらいたい」などの意見や提言があった。

全国局長会、JP労組 パブコメに意見
 同報告書案は6月12日から7月12日まで、広く意見募集が行われた。全国郵便局長会、日本郵政グループ労働組合(JP労組)、KDDI、ソフトバンク、NECなど6つの法人と個人・9人、合わせて15件の意見が寄せられた。
 全国郵便局長会は「国民共有の財産である郵便局ネットワークを維持しつつ、デジタル化を図り、従前からの郵政三事業にとどまらず、新たな分野においても有効活用を図っていくことは、少子高齢化、都市部への人口集中が進む中、正鵠を得たものであり、これを政府、日本郵政グループが連携して早期に実現することが必要」と強調。
「最終報告書(案)の『デジタル時代に対応した様々な施策に積極的な取り組み』『事業計画認可時の要請事項等において、行政としての見解を表明するとともに、必要な行動を求めることにより、郵政事業の持続的な成長・発展を促していくこと』『ガバナンスの強化を図るとともに組織風土改革を進め、組織内での風通しのよい意思疎通、迅速な情報共有を行うことにより、的確に利用者へのサービスを提供し、地域や国民の信頼を積み重ねていくこと』について、積極的に支持する」という意見を寄せた。
 JP労組は「これまでと同様の事業展開を継続しているだけでは環境変化に柔軟に対応できず、持続性は乏しいと考えてきた。事業構造の改革を急ぐ必要がある。最終報告(案)は環境変化に応じた地域それぞれのコミュニティ形成に向け、地方公共団体等との連携はもとより、郵便局ネットワークを基盤とした事業運営と地域サービスの新たな挑戦として、その必要性を強く認識できる。デジタル化やDXが目的化することなく、事業の持続性を見出し、郵便局ネットワークを活用した地域社会への貢献を確かなものとするなど、本来の趣旨・目的に基づき、取り組みが進められることを要望する」と評価と意見を提出した。
 ソフトバンクからは「日本郵政からは他の企業への提供も拒まない趣旨の回答はあったが、今後、店頭販売スペースの貸出しや基地局敷設等を含め具体的事案で楽天が優先または優遇された場合、競争市場に不当な影響を及ぼす可能性がある。本業務提携を含め、日本郵政グループが新たに行う業務や届出業務については、進捗状況を適宜把握し、提携先等、特定の企業のみを不当に優先または優遇していないか注視するとともに、提携先の業種を含め、公正競争の観点で問題がないか、総務省または郵政民営化委員会等で検証し、結果を公表すべきと考える」。
 KDDIも「日本郵政グループが公的な性格を有することを踏まえれば、個々のテーマに取り組むにあたって公平性の確保が必要であり、特に日本郵政と資本関係を有する特定の事業者のみを、日本郵政グループが不当に優遇することのないよう注視していくことが必要」と同様の意見を提出している。


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