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2022年4月4日第7138号

【主な記事】

「ローカル共創イニシアティブ」開始
日本郵政新規ビジネス室
小林さやか担当部長

プロジェクトを担当する新規ビジネス室の小林担当部長


 地域の社会課題を協業パートナーと共に解決しようと、新プロジェクトの「ローカル共創イニシアティブ」が4月から始動した。日本郵政グループ内から選抜された8人の社員が5つの地域のベンチャー企業やNPOに、2年間にわたり派遣される。地域課題の解決が目標だが、日本郵政の経営にとって大切な課題でもある「社員の開拓精神の育成」や「新規ビジネスの創造」「郵便局の活用」にもつなげたい意向だ。プロジェクトを担当する日本郵政新規ビジネス室の小林さやか担当部長に聞いた。
(永見恵子)

地域の課題を解決へ
開拓精神の育成、新規ビジネスも

 派遣される8人は日本郵政グループ4社(日本郵政、日本郵便、ゆうちょ銀行、かんぽ生命)から、公募により選抜された。昨年8月から募集を始め、約40人(20歳代~40歳代)の応募があった。書類審査を経て、協業パートナーと直接会うことも含めて、複数回にわたり面談。地域の意見も聞き最終選考を行った。最終面談では役員も加わり昨年12月に決定した。約4か月間、選考には十分に時間をかけた。
 「日本郵政グループに入社して、言葉では地方創生がやりたいという社員はたくさんいる。それには自ら行動する意思が一番大事だと思う。だから志望の動機や、取組みへの本人の意思が明確にできる公募にした。派遣先とのお見合いの機会も相当数、設けて、“本気度”を確かめた」。

 自ら考え行動する人材を
 このプロジェクトの目的は「チャレンジ精神を持ち自ら考え行動できる人材の育成」と「新規事業の共創プラットフォームへの展開」にある。
 「全く違う環境に飛び込んで2年間研鑽を積むことで、起業家マインドを持つ人材を育てたい。ローカルベンチャーと日本郵政グループのリソースを掛け合わせれば、社会課題解決型の新規ビジネスを創造できるのではないか。共創プラットフォームへの展開の可能性も探っていかなければならない。すぐに形になるものにならないかもしれないが、2年間で少なくともフックになるものを見つけてもらいたい」。
 運営事務局とアドバイスを担うのはNPO「ETIC.」。派遣先の協業パートナーは、同社がリストアップしたローカルベンチャーの中から、日本郵政グループのリソースが生かせる事業者を選定した。
 5地域と課題は、宮城県石巻市の空き家と相続問題、石川県能登半島の事業承継、島根県雲南市の終活と見守りサービス、三重県尾鷲市のカーボンゼロ、奈良県奈良市の給食センターを改造した施設の活用。
 「東日本大震災以降、社会課題を解決するためビジネスを起こす動きが盛り上がりを見せている。地域の課題の捉え方は、そこで活動する起業家が独自の視点によるもの。だから地域により異なる。日本郵政グループ側ではあえてテーマを絞らず、協業の可能性のあるローカルベンチャーが活躍している地域に派遣することにした」。

 共生、みまもり事業承継、空き家
 尾鷲市と奈良市では、住民共助により課題を解決する「ローカルコープ」という考え方の下、企業やNPOが行政と連携しながら、持続可能な共生社会の構築を目指すプロジェクトに参画する。組織を組成するところから始める。
 尾鷲市は、カーボンゼロを宣言し、同市と企業や団体が協定を結び、脱炭素や森林・海洋資源を生かした環境教育などの事業を進めていく。
 奈良市では月ヶ瀬地区にある給食センターをリニューアル、コワーキングスペース(事務所や作業場などに利用)として活用し、地域のニーズを捉えながら新たなサービスを作り上げていく。
 雲南市では、看護師が行う高齢者向け見守りサービス「ナスくる」を展開する会社「コミュニティナースカンパニー」と郵便局のみまもりサービスの協業の可能性を探る。ナスくるは医療知識のある専門スタッフが健康チェックをするため単価が高い(月2回の訪問で利用料は税込1万1000円)、一方で「郵便局のみまもりサービス」は比較的安価なこともあり、2つを組合せたサービスや、それぞれがオプションとして活用することにより、新たなサービスを検討する。
 石巻市では、東日本大震災を機に市外に移住する人が増えて、空き家が問題になっている。震災時にボランティアに来ていた人がこの問題に取り組み「巻組」という会社を興した。不動産会社で販売してもらえない物件を買い取り、シェアハウスなどにリノベーションして、移住を促進している。空き家を売るタイミングは相続の時が多く、終活サービスの取次ぎサービスを行っている郵便局や金融機関を持つ郵政グループとの連携の可能性を模索する。
 「ローカルベンチャーの組織の一員として、また日本郵政グループの出向社員として共創の種を見つけることと両方の立場で活動していくことになる。失敗してもいいからめげずにチャレンジを続けてもらいたい。2年間で実装の可能性を見ていくことになるが、事業化にはビジネスとして収益を得ることが前提。トライしてジャッジする。その回転をよくすることも意識したい」。

 稼ぐことの大変さを知って
 派遣に当たりまずは、現状を把握することから始める。それを基に派遣社員が考え検討する。実装までこぎつけて、更に軌道に乗りそうな事業については、支社や郵便局、本社に関連部署がある場合は一緒に検討するというステップを踏む。
 「その地域にある郵便局長が意欲的で、一緒にやっていただける場面もあると思うが、局長には本来業務もあるため、派遣社員が手と頭を動かして組み立てることを想定している」。
 本社の事務局は、日本郵政の新規ビジネス室のほか、JP未来戦略ラボ、日本郵便の地方創生推進室の3者で構成される。1か月に1度、8人から状況報告を受ける。次のステップに進むかの判断やメンタル面でのフォローもしていくという。
 「これまでこのような機会がなかったので派遣される人は、みんな面白いと思っているようだ。稼ぐことがこんなに大変なんだということを実感すると思う。うまくいかないことを知るだけでも価値はある。いっぱい悩んでもらいたい」。

 日本郵政は現状では金融2社に配当収入の多くを依存している。金融2社の株式の売却は法律で決められており、新規事業など新たな収益源は大きな課題でもある。
 日本郵政グループは上位下達の「官僚型組織」を引き継ぐ。画一的なものを効率よくこなすことには向いているが、創造性が必要な新規事業に向かない面がある。
 新規事業を生み出すには、自ら考え自律的に行動できる「ネットワーク型組織」が求められる。例えば、新規分野だけフレキシブルに動けるネットワーク型にし、プロジェクトやチームを事業ごとに設ける。ハイブリッド型組織も考えられる。
 自分のアイデアが形になっていく楽しみを、気心の知れたチームのみんなと共有できる。そんな成長の楽しみがあれば、例え困難があってもアイデアや努力で乗り越えられる。最大のパワーが発揮でき、成功に近づくための好循環が生まれるのではないか。
 アイデアが出しやすい環境の整備や異文化との出会いなど、多くの企業が新商品開発のため工夫を凝らしている。まずは、新たな投資が少なくて済む自社の持つリソース(インフラやサービス、人材、取引ネットワーク)を最大限活用して、何ができるか考えてみることも大切だ。
 サービスを全国展開しようとした時、地域ごとに課題や人材に違いがあることも考慮しなければならない。例えば、みまもりサービスや買い物サービスといった課題は社会福祉協議会や地元の商店が担っているケースもある。全ての地域で同様のサービスができるわけではないことも念頭に入れなければならない。


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