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2022年4月25日第7141号

【主な記事】

「防空壕きくらげ」で地域振興
ふるさと小包で取扱い
神奈川県川崎市連絡会・川崎栗平郵便局


 神奈川県川崎市地区連絡会(小泉明統括局長/川崎野川)は、麻生区で栽培される、生のキクラゲの販売を支援し、地域創生に力を注いでいる。麻生部会(濵田英明部会長/柿生)の川崎栗平郵便局(塚越広暁局長)が調整にあたり、局内ロビーでの代金箱設置による無人販売や市内全郵便局でのふるさと小包の取り扱いを実施。また、キクラゲ栽培システム建設の契約が県外で複数結ばれるなど、都市部では難しいとされている地域振興が実り始めている。

新たな特産品、無人販売も人気
 このキクラゲは、太平洋戦争時に作られた防空壕内で栽培されていることから、「防空壕きくらげ」の名称で新たな地域特産品として地域住民に親しまれている。
 無人販売は現在、川崎栗平郵便局と新百合ヶ丘郵便局(奥富進局長)で実施しており、「防空壕きくらげ」を買い求めるために、わざわざ電車を乗り継いで来局する人も珍しくない。
 「これまでのキクラゲは、早く栽培するために温度を上げるので実が薄くなるのに対して、最適環境で育つ防空壕きくらげは肉厚。コリコリ感が出て食べ応えがあるのが魅力」と塚越局長は語る。
 菌床が純国産なのも魅力。菌床のベースとなるオガ屑、それに菌も国内ものなので、食の安心・安全が期待できるうえ、骨の健康を保つ役割があるとされる、ビタミンDの含有率が食品中でトップ。食物繊維も豊富に含まれているので、生活習慣病の予防に効果的と言われている。
 炒め物はもちろん、豚キムチやシュウマイ、生クリームパスタ、天ぷら、アヒージョ、ワサビ醤油で食す刺身風でもおいしくいただける。郵便局の店頭販売では、魅力を知ってもらうために、写真入りのレシピ集チラシを配布して好評を集めている。

一年中の栽培が可能
 キクラゲを栽培している防空壕は、栽培元の株式会社熱源(川崎市・船崎帆洸社長)が、2013年に購入した山林に埋もれるように見つかった。戦時中、市内の大島小学校の4~5年生の女生徒の疎開先のひとつが近隣の古刹、常念寺。この女生徒達を守るため、旧日本軍が掘った防空壕がこの場所だった。
 同社の小山仁美さんは「近所の小学生がこの前を通って登校する際、『防空壕って何』と喋っている。当時の戦禍を考えると、今の子供たちにも伝えていかなければいけないと感じた」と語る。そして、防空壕を埋め戻すことは考えずに保存の道を探った。
 奥行約13メートル、幅約3メートル、高さ約2メートルの防空壕。崩落などの恐れがあるので、通常、埋め戻すところ、躯体を強化するために、鉄筋鉄骨で補強した。
 さらには、防空壕との共存共栄を図ろうと、植生栽培に活用できないか検討した。最初は、シイタケの栽培を試みたが、多生する分、間引きに手間が掛かるため断念。国内に流通しているキクラゲの95%が中国産といわれ、そのほとんどが「乾燥もの」だったことを知り、キクラゲの栽培に踏み切った。
 防空壕内の温度は25度。キクラゲは、きのこ(菌)なので光合成は行わない。酸素と80~90%の湿度が必要とされるだけだ。冬場以外は、自動散水と換気で環境を調整する。寒さの厳しい冬場は、㈱熱源、自らが開発した、発熱ヒーターで施設内を温めることにより、通常、夏しか栽培できないキクラゲが一年中栽培できる。

テレビでも紹介
 船崎社長は、川崎栗平局の社員の石野遼太郎さんと日頃から懇意にしており、定期的に両替を依頼するほか、保険の相談にも訪れていた。
 2020年のある日、「『防空壕きくらげ』をふるさと小包として販売することはできないか」と相談を持ち掛ける。それまでは、自社ネット販売に加え、JA系列の大型農産物直売所「JA セレサモス」への卸売を主としていたが、販路拡大を郵便局に委ねたいというのだ。
 石野さんは、塚越局長に報告し、許可を得て、データを集めて丹念に調査し、支社や郵便局物販サービスと掛け合いながら、地区連絡会、部会に諮った。その結果、ようやく、ふるさと小包のチラシ販売に漕ぎ着けることができた。2021年4月1日から川崎市内全郵便局で、販売がスタートし、2022年度も4月11日から10月31日まで継続して取り扱うことになった。
 小山さんは「多くの方々から『どこで買えるのか』との問い合わせをいただいています。郵便局で購入できることを伝えると『良かった』と言ってもらえます」と手応えを語る。
 また、2020年ごろからテレビでも、NHKニュースをはじめ、日本テレビ系のバラエティ番組「ザ!鉄腕!DASH‼」に取り上げられ、大きな反響を呼んだ。
 
広がるシステム販売
 本業が、発熱ヒーターケーブル類を主力製品とする設備メーカーだった㈱熱源は、防空壕での栽培経験を生かすため「生キクラゲ栽培システム」(製品名:BOXカルバートを使用したキクラゲ栽培加温システム)を開発。2018年には、コンクリート製キノコ栽培システムの特許を取得した。防空壕がある山林の頂上に建設したプロトタイプを見学に訪れる事業者も多数いるという。
 特殊な断熱塗装を施したコンクリート製の施設は、自動温度調整や湿度調整により、外気温に左右されにくく、寒い地方、豪雪地帯でも、一年中、生キクラゲ栽培が可能となる。
 同社の営業努力の甲斐があり、このほど、新潟県南魚沼市、富山県下新川郡入善町、千葉県市原市山口の各事業者へ栽培システムの販売が成約、今年7月から稼働する。近い将来、各地域ならではのキクラゲが誕生する見込み。今後も引き続き、郵便局とともに「防空壕きくらげ」の深化浸透を図っていく考えだ。


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