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2022年5月30日第7146号

【主な記事】

ゆうちょシンポ 池田社長が将来像を語る
独自の「Σ(総和)ビジネス」展開


 「ゆうちょシンポジウム」が5月16日、東京都千代田区のJPタワーで開かれた。池田憲人社長が中期経営計画の評価やゆうちょ銀行の将来像について語った。リテールビジネス(個人向けの小売で、ATMなどの役務取引の手数料)やマーケットビジネス(資産運用)などの従来ビジネスの収益を向上させるとともに、それらをベースにGP業務の本格化や地域活性化につながる新ビジネスにもチャレンジする。池田社長は「現中計期間には、GP業務を起点にこれまでのビジネスや施策を総和し、「∑ビジネス」(仮称・シグマは総和という意味)の地固めを図りたい」と抱負を述べる。

 ゆうちょ銀行の2022年3月期の決算は上場以来の最高益となった。資金利益の大幅増益によるものだが、今後は、「リテールビジネス」「マーケットビジネス」といった従来ビジネスに加えて、それらを生かした「新たなビジネス」にもチャレンジする。3つのエンジンで収益源の安定と増収増益を図る方針。
 第一のエンジン・リテールビジネスの主力は、為替・決済関連、ATM、投資信託などの手数料で利益を上げる役務取引。「役務取引等利益」は2017年(964億円)以降は堅実に増加し、2021年度は1284億円まで増加した。更に収益を拡大させるとともに、営業経費の削減も図る方針。池田社長は「役務取引等利益の増加と営業経費の減少を示す数値は、リテールビジネスの経営努力を示している」と評価する。今年度の役務取引等利益は前年度比146増の1430億円を予想する。
 現在の中期経営計画(2021年度~25年度)では「お客様本位の業務改革」を中心に、投信販売強化(積立投資、販売チャネル別ライン ナップ整理、投資一任サービス「ゆうちょファンドラップ」の開始)、口座貸越サービス開始、統合顧客データベースの構築、共創プラットフォームの構築(ゆうちょ通帳アプリの機能拡充・ 家計簿・家計相談アプリの展開ATM機能高度化、料金見直し)、戦略的IT投資の拡充などに取り組む。
 大和証券と共同開発し5月9日からサービスを開始した「ゆうちょファンドラップ」について、池田社長は「多様化するお客様の資産運用ニーズにお応えし、一層寄り添ったサービスができると考えている」と話す。2022年7月末に終了するデビットカード「mijica」に替わり、ブランドデビットカード「ゆうちょデビット」の申し込みも5月から開始された。池田社長は「これらの新サービス導入により中長期的な役務収益の拡大を図りたい」と方針を示す。
 次期以降の中計では、新たなビジネスにチャレンジするため、広範な他社サービスとの連携による共創プラットフォームを拡大・進化する。またリアルチャネルをセーフティネットにした、全てのお客さまが利用しやすい「デジタルバンク」などにより、サステナブルな収益基盤を構築する。
 リテールビジネスについて、池田社長は「これまでリテールビジネスを展開するに当たり、我々は官業的な精神や風土を、永続的に民間事業、大衆に受け入れられる精神・行動・姿勢に改良・進歩していく素地を作ってきた。これからも重要なビジネス行動と考える。信頼性とお客様本位の業務運営は今後の発展と民営事業化の基礎であり、商品・サービスの適切性、窓口のデジタル化、風土改革などお客様を原点としてビジネス戦略を進めてきた。これを定着・改良、点検・改良していくことをビジネスの本道として意識している」と今後の経営の在り方を語る。
 第2のエンジン・マーケットビジネスは、同社の稼ぎ頭。2021年度の連結の当期純利益は3550億円。2015年11月の上場以来最高益となったが、主な要因は外債投資信託やプライベートエクイティファンドからの分配金などが増加したことによるもの。資金利益は前年度比1854億円増の1兆1474億円となった。
 池田社長は「前中経の3年間は逆風の経営環境の中、純利益は3000億円を下回った。民営化の基盤整備や資産運用などの種まきを行った結果、いくつかが実を結んだ」と振り返る。
 資産運用が成果を上げている背景には、金融の専門人材を増強できたことを挙げる。市場フロント、リスク管理、ALM(資産・負債の総合管理)の3つをバランスよく整備。人材も200人増やした。運用のプロである専門職88人(うち社内登用は29人)を揃えた。池田社長は「外部採用も継続させるが、肝は社内だと考えている。才能・才覚ある社員は登用したい」と社員の育成も積極的に進める方針。
 資産運用面では、国債中心の資産運用から国際分散投資へと大きく舵を切った。国債での運用分をリスク性資産や戦略的投資領域への投資にシフトさせた。現在の中計期間では「適切なリスクテイクによる収益向上」を目標に、最終年度にはリスク性資産を2020年3月末(91.1兆円)から20兆円程度上積みし110兆円に、戦略投資領域も10兆円まで拡大する。 プライベートエクイティファンド・不動産投資による収益貢献の本格化 クレジットクオリティ重視の運用などに取り組む。
 現中計後の2026年度以降は、円金利ポートフォリオを再構築する。池田社長は「現在アメリカやヨーロッパの金利が上昇しているが、将来的には国内金利が上昇すれば、60兆円を超える日銀への預入金を国債に振り向ける。それにより、円金利ポートフォリオの収益の拡大が期待される。円金利の状況を継続的に注視したい」と説明する。
 第3のエンジン「新たなビジネス」では、独自の「∑ビジネス」を展開する。∑とは総和という意味。これまで行ってきた「地域ファンドへの出資」や「子会社JPインベストメントでのGP業務(ファンドの組成や運営管理を行う)」を土台に、国内でのGP業務を本格化させる。それをベースに地域活性化につながる新たな種を探し出しビジネス化するというもの。
 全国233ある同行の支店などを活用し、地域企業や地方自治体向けの新たなB2Bビジネスを展開する。具体的な内容は中間決算時に公表する予定。


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