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2022年6月6日第7147号

【主な記事】

郵便局データの有効活動を
総務省検討会が報告書骨子案

 総務省の有識者会議「郵便局データの活用とプライバシー保護の在り方に関する検討会」(谷川史郎座長=東京藝術大学社会連携センター 客員教授)の第3回会合が5月26日に開かれ、報告書の骨子案をまとめた。郵便局が持つ様々なデータを社会的に有効に活用、さらに郵政事業の持続的な発展に革新的なサービスを提供できるようにするとしている。

 検討会は国民生活に必要不可欠なユニバーサルサービスを担う郵便局が公共性・重要性があるとし、全国2万4000の郵便局ネットワークとそのデータを有効活用、デジタル化の進展による国民のニーズの変化に即した新たなビジネスモデルを構築、郵政事業の持続的な成長・発展を目指すことを目的に、昨年10月15日に設置された。
 郵便局データを有効活用し、地域の課題解決や新規ビジネス創出につなげるが、利用可能なデータの範囲や活用に当たっての留意点について整理した。信書の秘密や個人情報の適正な取扱いを確保しつつ日本郵政グループの持つデータの有効活用を促進することを求めた。
 日本郵便は、郵便の業務を行うことが法定された唯一の事業体で、郵便のあて先となり得るほぼすべての世帯・事業所の所在情報や転居情報を保有している。郵便物の配達に必要な配達先の世帯情報をデータベース(配達原簿=配達総合情報システム)として保有。
 配達先住所、世帯主氏名、同居人名、事業所名、居住者旧姓、転居情報、空き家情報、宅配BOXの有無、オートロック情報、表札の有無、配達指定場所の有無、さらに飼犬の有無まで、様々なデータをシステム上に登録・更新している。
 転居情報では転送開始希望日、旧住所、転居者氏名、引き続き旧住所に居住する者の有無、事業所名、新住所等の情報などをデータベース(転居システム)として保有している。また、郵便番号データは、多くのウェブ上の申請フォームにおいて、住所の自動入力に活用されており、電子商取引等のインフラとして機能している。
 郵便法では「信書の秘密」や「郵便物に関して知り得た他人の秘密」について、原則として第三者提供が認められていない。
 ただし、最高裁判決などを基に、令和2年3月に郵便分野ガイドラインの解説が改正され、転居届に係る情報を含む 「郵便物に関して知り得た他人の秘密については、比較衡量の結果、それらの情報を用いることによる利益が秘密を守られる利益を上回ると認められたときには、 第三者提供が可能」と明記された。
 こうしたことを受け、検討会ではどこまでの活用が可能かの線引きについて議論してきた。骨子案では情報を用いることによる利益と秘密を守られる利益の比較衡量の結果、第三者提供が可能と認められる事例を示している。
 大規模災害や事故等の緊急時に、被災者情報・負傷者情報等を地方公共団体等に提供する場合を上げる。被災した家屋の住民基本台帳上の情報と実際の居住者が異なるなど実態把握が困難なことがある。日本郵便が把握している居住実態を提供することで、より正確で迅速な安否確認や救助等が可能となり、被災者の生命、身体や財産の保護に資するとした。
 また、国税や地方税に関する調査についての協力要請として、住民票を異動せず転出し所在の把握が困難となっている滞納者の転居届に係る情報を照会してきた場合がある。日本郵便が滞納者の同意を得ることなく、転居届に係る情報の提供に応じるとした。納税義務を担保する極めて公益性が高い事例とした。
 さらに、弁護士会が住民票を異動せず転出し所在の把握が困難となっている者の転居届の情報を照会してきた場合、同意を得ることなく応じるとした。この場合、提供された情報が相手側に渡る可能性があることから、DVやストーカー、児童虐待といった事案は除く。
 このほか、道路の維持管理等を行う地方公共団体や地図情報配信を行う地図会社からの委託で、公道の街路などの地図・空間情報の活用、空家の調査などが想定されている。その場合、人物の顔、住宅の表札など個人を特定しうる情報が撮影されないようにするなど、個人情報やプライバシーへの配慮を求めている。
 さらに、郵便局データ活用とそれによる国民のニーズに即した革新的なサービスの提供を一層促進するため、データ活用に向けた基本的な考え方や日本郵政・日本郵便の取組み、総務省などが実施すべき施策を社会に向け表明することが必要とし、「郵便局データ活用推進ロードマップ」を示した。
 まず取り組むべき課題として信頼の回復をあげる。令和元年にかんぽ不適正募集事案が発覚、令和2年度以降も金融分野、郵便分野ともに不祥事案が頻発、令和3年秋には郵便局長による個人情報の流用事案も発生したと指摘。
 郵便局データ活用を推進するに当たっては「現場の郵便局においてデータが適正に取り扱われることが大前提であり、研修の実施やマニュアルの見直しといった再発防止策に加え、郵便局への牽制機能強化のための検査部等の点検の強化、郵便局における顧客情報記載書類の削減、電子化等の取組みが必要」とした。総務省も今年2月に「郵政行政モニタリング会合」を設置したが、信頼の回復に向け監督の強化を図ることを求めた。
 保有するデータ資産すべてを対象とした管理体制の構築などデータガバナンスの強化を指摘。日本郵政グループは、データガバナンス体制の検討・整備のために「データガバナンスWG(仮称)」を立ち上げるとした。
 骨子案では「個人情報等の適正な取扱いを確保し、社会的受容性等に十分に配慮しつつ、データの活用を推進するため、新たな連携施策の創設を念頭に、必要な規定の検討・整備、データ活用の可否等のチェック体制、日本郵政とグループ内各社とのガバナンスの在り方等、データ活用に当たって必要となるブレーキ機能を整備すべく規程類を含めた体制を検討する」ことをあげる。
 中長期的には「グループ全体のデータ活用やデータガバナンスに関する戦略・方針を策定し、構築した体制によるチェックを踏まえ、データ活用を推進」する。
  また、日本郵便は「情報管理態勢強化及びペーパレス化PT」を組成し、業務プロセス・業務システムの見直しなどにより、紙ベースの業務帳票類の電子化に取り組み、紛失・亡失を防ぎ、デジタル技術を活用した情報管理システムを構築し、情報へのアクセスに関する管理の利便性を向上させることを図る。
 今後、労働人口が減少していく中、郵便・物流オペレーションの効率化・適正化・省人化・サービス向上に向け、データの活用やDXの取組みを進めることが必要とし、郵便・物流事業改革、約6万5000台のスマートフォンに実装済みのテレマティクス端末Dcat(配達コミュニケーション支援ツール)に機能追加、デジタル地図の構築を図ることをあげる。
 さらに、公的要請に応えるデータ活用について優先して取り組むとし、データ提供の運用体制の検討、スマートシティや地域実証事業への参画、オープンデータの推進を図るとした。
 新規ビジネスの段階的展開も必要とし、集配車両等を活用した地図基礎情報ビジネスの検討、利用者によるデータコントロールを可能とするオプトイン(利用者同意)モデルの構築、データビジネスの段階的な展開を進める。
 総務省は、郵便局データ活用ロードマップの推進のため、有識者・消費者等で構成し、個人情報保護委員会事務局やデジタル庁等関係機関も必要に応じ参画する「郵便局データ活用アドバイザリーボード(仮称)」を創設し支援していく。


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