「通信文化新報」特集記事詳細
2023年09月11日 第7213号
【主な記事】
千葉岳志部長(スポーツ&コミュニケーション部)
日本郵政 企業価値の持続的向上へ
地域・社会貢献を強化
社員の士気高揚も図る
中学校の部活を支援
〝TEAM JP〟で一体感を
日本郵政は、スポーツを通じたグループ企業価値の持続的向上を目指し4月1日にスポーツ&コミュニケーション部(S&C部)を設立した。S&C部は設立後初めて、東京都府中市と「スポーツ振興等に関する協働協定」を8月22日に結んだ。今後もS&C部を核として、日本郵政グループ女子陸上部の運営面の強化に加え、スポーツを軸としたグループ内外のコミュニケーションの活性化、および地域貢献・社会貢献に資する活動に積極的に取り組んでいく。千葉部長に話を詳しく聞いた。
―設置の目的と経緯について教えてください。
S&C部を設置した背景には、日本郵政グループ女子陸上部の橋昌彦監督の強い思いがある。「チームの強化」「従業員の士気高揚」「社会への貢献」を3本柱に据えて女子陸上部は立ち上がった。女子陸上部は2014年に創部し、来年の4月には創部10周年を迎える。クイーンズ駅伝では9年で3回の優勝、オリンピック選手も輩出するなど数々の実績を残し、「チームの強化」という面では成功している。しかし、橋監督は「従業員の士気高揚」と「社会への貢献」という点では対応が不十分との認識を抱いていた。
また、有力選手の進退を目の当たりにしてきたこれまでの経験を通じて、引退後もスポーツで培った経験や得意分野を活かしながら、日本郵政グループ内に残って仕事を続けられるような「新たなセカンドキャリア制度の整備・構築」の必要性を感じていた。
これまでは、日本郵政の本社広報部に女子陸上部の事務局が置かれ、東京都小金井市でチームが活動するという体制だったが、「従業員の士気高揚」「社会への貢献」、そして「新たなセカンドキャリア制度の整備・構築」という3つの課題にチャレンジするため、橋監督が自ら動くことで関係各部署の理解を促し、その結果として、日本郵政本社内に独立した部署としてS&C部が設置されることになった。
―設置の社会的背景を教えてください。
例えば、パナソニック株式会社が2022年4月、傘下のサッカーチームやラグビーチームなどの運営を一括管理し、スポーツを持続的に発展させるため、パナソニックスポーツ株式会社を設立したほか、本田技研工業株式会社は同年12月にホンダスポーツチャレンジ(Honda Sports Challenge)というスローガンを作成し、挑戦をコアとした「たのしむ・はぐくむ・つなげる」という3つの方向性でスポーツに取り組むことを表明するなど、スポーツが多くの人を元気づけるものと広く認識されていることは明らかだ。こうした社会の大きな動きが背景にあると思っている。今後は、S&C部を核として、日本郵政グループの中に「新しい力」がたくさんあることを示し、企業価値の向上に繋げていきたいと考えている。
―体制について教えてください。
女子陸上部の本社側のマネジメント体制を先に説明すると、増田寛也社長が顧問、櫻井誠執行役が部長、私が事務局長ということになる。そして、小金井市を拠点に活動するチーム側は、橋監督の下、スタッフ5人、選手13人の計19人体制。
また、本社S&C部の体制としては、担当役員が櫻井執行役。部長の私のもと、女子陸上部担当ラインが5人体制、コミュニケーション担当ラインは、ゆうちょ銀行、かんぽ生命保険からのグループ内出向者を含めた4人体制。さらに、スポーツに関する難易度の高い取組みが多いことから、早稲田大学の間野義之教授と一橋大学の中村英仁准教授を社外アドバイザーとして迎えた。
―具体的な取組みについて教えてください。
「スポーツを通じたグループ企業価値の持続的向上」を中期目標に据えており、2023年度の取組みテーマは、地域貢献・社会貢献に資する活動、日本郵政グループ女子陸上部の運営面のさらなる強化・発展、スポーツを軸としたグループ内外のコミュニケーションの活性化の3つ。
始動に当たっては、女子陸上部のニュースがメディアにどれだけ掲載されたかというメディアカバレッジの継続的な効果測定システムを構築し、2024年度以降の適切なKGI(重要目標達成指標)・KPI(KGIを達成するための中間指標‖重要業績評価指標)の設定に向けた準備をしていきたい。
また、従来から行われている従業員満足度調査においても、今年度から女子陸上部に関する質問項目を盛り込むことで、チームの認知度や好意度の定点観測システムを築いていく。
中学校の部活を支援
〝TEAM JP〟で一体感を
―地域貢献・社会貢献とは具体的にどのようなものでしょうか。
ここ数年社会課題としてクローズアップされている中学校の部活の地域連携・地域移行に協力していく。地域連携・地域移行の背景にあるのは、部活動の顧問を務める教師の疲弊だ。経験のないスポーツ種目で顧問を務め、週末開催の大会の引率も行うなど、とにかく疲れ切っている教師が全国に大勢いる。
それに加え少子化の影響によって、野球チームを結成するにしても、一つの学校だけでは人数が足りず、近隣の学校と合同でチームを作ろうとする動きがある。しかし、現行の制度においては、学校ごとにチーム登録をすることになっているため、そのような合同チームは公式戦にエントリーできない。
こうした様々な問題を解決するため、スポーツ庁が率先して部活を改革しようという試みが行われている。各地域に総合型スポーツクラブを作り、そこに子どもたちが入会するという理想形に向かって始動しており、その第一段階が外部の指導者が部活動を指導するというもの。この第一段階の手前に、週末だけ外部の指導者を迎え入れるという案がある。
ただ、ウィークデイだけ教師が指導して、週末だけ外部指導者が指導すると、チームとしての整合性を欠くなど、多くの問題が生じることが予想される。このような状況において日本郵政グループが参画するには、実態をしっかりと把握した上で体制や人事制度などを整える必要がある。経験とスキルのある社員が指導者として活躍できるよう、さまざまな可能性を検討しているところだ。我々のプランが実際に機能するかどうかという観点から、いくつかの地域でパイロット事業を展開することを検討している。
―郵便局が貢献できることは何でしょうか。
郵便局のある市区町村において、部活動の外部指導者を要望する際には、いわゆるマッチングの問題が生じる可能性がある。例えば、自治体がバドミントンの外部指導者を望む一方、当該エリアの郵便局ではバレーボールの指導者ならば派遣できるという状況が起きても不思議ではない。ただ単に郵政グループの社員を送り出すだけでなく、郵便局のネットワークを活用することによって、例えば「該当する局長や社員はいないが、近所のお客さまの中でバドミントンに長けた人がいる」という情報を提供することによってマッチングを成功させるようなシステムも作れるのではないかと個人的には思っている。
インターハイや甲子園の出場経験は貴重だが、指導者として郵政グループの看板を背負って派遣されるからには、事前にしっかりとした教育・研修を受け、スポーツ指導者資格を取得するなどの準備が必要だと考えている。現在、スポーツの資格制度を担っている日本スポーツ協会などの関係機関・団体と相談しながら、我々にできることを模索している。
外部指導者の派遣で先行する、スポーツスクールなどを手掛ける企業は、助成金制度がある政令指定都市など、大きな町に事業を集中させる傾向にあるが、全国の津々浦々にある郵便局のネットワークを活用すれば、中・小規模の町においても取組みを推進できる可能性がある。今後は、この取組みを事業化できるよう知恵を絞りたいと考えている。
社会貢献・地域貢献活動の一つとして、女子陸上部が長期合宿時に、地元の市区町村や学校からの要望ベースで開催しているランニング教室を、受け身ではなくプロアクティブな取組みに変えていきたい。地元郵便局と連携をはかり、より積極的にイベント参加者を募ることができれば、取組みも広がりを見せていくと思っている。女子陸上部のOGのサポートや現役選手のオンライン参加なども含め、柔軟に対応していきたい。
―セカンドキャリア策について具体的に教えてください。
女子陸上部の選手たちは正社員として、小金井市、武蔵野市、立川市、国分寺市の郵便局、ゆうちょ銀行、かんぽ生命保険の支店などで実際に働いている。現役引退後も働き続けることが可能なため、セカンドキャリア制度がまったく無いというわけではない。
ただ、通常の業務を一般社員として続けて行くことになるため、陸上競技に人生をかけてきた選手たちにとってそれが幸せなことなのかどうか、正直なところ分からない。優秀な競技成績を収めた選手であればあるほど、今のセカンドキャリア制度は魅力的には映らないだろう。こうした背景から、日本郵政グループの中に籍を置きつつ、陸上競技の経験を活かして社会に貢献できるような新たなセカンドキャリア制度の構築を検討し始めたところだ。
競合他社あるいは他競技チーム・団体に話を聞きに行くほか、実業団スポーツの研究を進めている社外アドバイザーの中村准教授(一橋大学)に相談するなどして、今年度中にも日本郵政グループに相応しいサポート体制、およびセカンドキャリア制度のひな形を作っていきたい。
対外的に魅力的なセカンドキャリア制度をアピールできるようになると、新たな所属先を探している学生選手とその保護者に対する訴求力が増し、「日本郵政グループ女子陸上部に入部しよう」というモチベーションも高まると思う。
―グループ内のコミュニケーションについて詳しく教えてください。
グループ内コミュニケーションを通じて、社員の士気高揚や求心力・一体感を醸成していくことを目指す。社員に「この会社で働いて良かった」という気持ちになってもらい、そのポジティブなパワーを社会に還元するような方向に導きたい。
日本郵政グループは全国に多くの競技チームを有しており、グループ内で全国大会が開催されるほどスポーツが盛んであったが、コロナ禍の影響で活動休止となった団体も多いようで、実態が把握しにくい状況となっている。今年度、まずは本社から、どのようなスポーツ活動、部活動、サークル活動があるのか、そしてどのようなメンバーが所属しているのかを調べるとともに、メンバーが有しているスポーツの資格や指導経験などの情報を汲み上げる努力をしている。
これと併行して、現在、〝TEAM JP〟という統一ロゴを製作し、グループ内に展開すべく準備を進めている。このロゴを導入することで、スポーツ種目、活動地域、所属会社などの垣根を越えながらグループ社員が一体感を持ってスポーツを楽しめるようになれば嬉しい。
スポーツに限らず、囲碁や将棋、音楽などの文化・芸術活動での使用も歓迎する。〝TEAM JP〟を求心力に、社員間のコミュニケーションを活発化させ、グループ内の一体感の醸成を図っていきたい。従業員満足度(ES)の向上に寄与するためにも、スポーツに限定せずに扉を完全オープンにしたいと考えている。
―対外的なコミュニケーションはどのようなものでしょうか。
日本郵政グループには社員の家族を含めて100万人以上の関係者がいることから、対外的なコミュニケーションは最終的には社員にも届くはずなので、その点を意識した施策を展開していきたい。
日本郵政グループは、楽天ゴールデンイーグルス(野球)やBリーグ(バスケットボール)、都市対抗野球など、さまざまなスポーツ協賛を実施している。日本郵政の本社で協賛しているものもあれば、日本郵便、ゆうちょ銀行、かんぽ生命はもとより各支社や郵便局で行っているスポンサーシップもある。見落としがちな、スポンサーシップのメリットをよりよく享受するためにも、現状の実態調査を行いながらリスト化し、全体像を把握することが重要だ。メリットを享受するためにも、より戦略的なスポーツ協賛の検討を行っていきたい。
また、スポーツを通じた「共創プラットフォーム」の実現を図るため、女子陸上部のサプライヤーとの関係を足掛かりに、企業対企業のウインウイン施策を企画・提案し、共創協定の締結を目指していきたい。
来年は女子陸上部が創部10周年を迎えるということで、現在、そこに向けてさまざまな企画を練っている段階だ。楽しみにしてほしい。
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