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2023年11月13日 第7222号

【主な記事】

日本郵便 千田哲也社長インタビュー
将来像を示し、競争力向上、モチベーションを上げる
お客さまに喜んでもらえる会社に


 かんぽ生命の社長から日本郵便の社長に。6月に就任以来、4か月余りが経つ。かんぽの問題が起き、郵便局の現場は疲弊した時期もあった。保険営業の完全回復への道は険しい。千田社長は「営業再生の答えは現場にある」と現場との意見交換を精力的に行っている。社員の声を直接聞き、改善策を実行していく。「現場の課題を聞くのが目的でなく、実現すること。それが信頼につながる」と実行力で社員のモチベーションを上げる施策を打つ。郵便物が減少する中、どのように収益力をつけていくのか。千田社長に聞いた。(永見恵子)
 
 お客さまに喜んでもらえる会社に 
 ■同じ郵政グループの社長ですが、日本郵便では業務範囲や社員数も格段に増えたと思います。就任以来、実務に携わっての感想は。
 基本的にはかんぽ生命でやってきたことを日本郵便でもしようと思っています。社長就任時には「会社の将来像を描き、ストーリーを示すこと」「商品やサービスをお客さまに喜んでもらえるように競争力のあるものにしていくこと」「社員のモチベーションを上げること」の3つを掲げました。
 郵便・物流、窓口ネットワークの将来像を示すことは、かんぽ生命の再生・成長ストーリーと同じで、経営者として大きな役割だと思っています。
 次にそれをどう実現していくかということですが、それには競争力をつけていかなければならない。公共性は日本郵政グループの大事な要素であることはもちろんですが、物流も銀行も保険も同業他社がいるのは事実。そういう中で、お客さまに喜んでいただき、選んでいただくことができないと我々は生きていけない。生きていけなければ、公共性も実現できないですから。
 ■お客さまに喜んでいただくための方法とは。
 お客さまに喜んでいただくには客観的なデータが必要です。NPSネットプロモータースコア(商品やサービスに対する顧客の信頼や愛着を測る指標)でサービスの状態を測りながら、足りないところはどこなのか。業界の中でどのような位置づけなのか。お客さまはどのように思ってサービスを受けているのか。それを基に選んでいただけるようお客さまの「いいね」を作ることです。真剣に取り組んでいきたいと思っています。
 ■それを成し遂げるのに必要なことは。
 DXも商品販売も社員の力が一番、大事です。モチベーションが上がって初めて、お客さまのためにどうしたらよいのか、という気持ちになります。社員にはお客さまに喜んでもらったことを力にできる仕掛けを作りたいと思っています。
 本社でも支社でも郵便局でも、一緒に仕事をしている人が「あなたがいてくれたからできたよね」と言われたら幸せになれる。お互いにそう言えることが大事だと思います。
 ■「営業再生の答えは現場にある」という考えの下、全国のフロントラインを回られているとのことですが、回ってみて改めて感じたことは。
 就任以来、週に1回のペースで、フロントラインや郵便局、子会社、バックオフィス、倉庫などを回っています。15か所以上になります(10月初旬)。郵便局は7か所を回り、次の日程も決まっています。
 対話を通じて、〝実現したいこと〟について話していますが、方針に対して、フロントラインからは「できたら素晴らしいけど、本当にできるの」と意見もありました。お手並み拝見という所もあると思いますが、実現したいことが、目に見えるようになれば、評価も変わってくると思います。
 ■「本当にできるの」という言葉の背景にはどのようなことがあると思いますか。
 これまでも経営者が変わってきましたが、社員の中に「経営が何かやってくれた記憶がない」ということがあります。次の社長は本当に何かしてくれるのだろうか。経営者に期待感を抱かないようになってしまっているからだと思います。
 本社は「これをやってもらいたい」という指示を出して、実行後のフォローや検証が弱かった面があると思います。それが現場との間の距離感に繋がっていると思います。本社も支社も同じ経営の立場になって「どうやってできるのかを現場と寄り添って一緒に考え、実現していく」というやり方へ変えていきたいと思っています。
 「目安箱」を設置
 社員へ見える化も
 ■現場を回ってみて郵便局からはどのような意見がありますか。
 地方では、人口減少と高齢化により、3事業の将来を心配する声も聞かれました。今も人材の確保が難しく、休みを取るのも大変、仕事を頑張りたいが、人が少ない中で苦しいなど、悲鳴に近い声もいただいています。
 このような声が上がるのは、危機感の表れだと受け止めています。
 ■社員に心から信頼を得るにはどのようにしたらよいのですか。
 口先だけでは信用してもらえません。現場を回っているのは、社員から話を聞いて「大変ですね」と聞き置くのが目的ではなく、課題を解決して、変えていくことにあります。
 緊急性の高い課題から優先順位を決めて、見える形に変えていくことを必ずやっていきます。現場には、その過程も含めて見える化するということを伝えています。
 ■意見の吸い上げと実行はどのような方法で、伝えているのですか。
 8月21日から目安箱の運用を始めました。全部読んで、社長コメントを付けてポータルサイトに載せています。社長コメント、担当役員の欄もあり、進捗状況や結果など社員から全部見えるようになっています。
 現在のところ、約500件の意見と社長のコメントが載っていますが、実際に来ている意見は1100件を超えています。1日に30件から40件のペースで意見が来ている状況です。コメントを掲載した後は1日に60~70件程来ることもあり、期待していただいている表れだと受け止めています。
 2面へつづく


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