「通信文化新報」特集記事詳細

 年/月

2023年12月04日 第7225号

【主な記事】

オンライン診療で実証事業
石川県七尾市 南大吞郵便局で開始

セレモニー出席者によるテープカット


 郵便局のオンライン診療の実証が11月15日、石川県七尾市花園町の南大吞郵便局(池岡直樹局長、2人局)で始まった。総務省の「郵便局等の公的地域基盤連携推進事業」の委託事業で、全国初の試み。同日、事業開始セレモニーが行われた。来年2月16日まで実施され、全国展開に向けて課題や効果を検証する。
 
 無医地区または無医地区に準じる地域に限定し、郵便局などでオンライン診療が可能となった(オンライン診療の適切な実施に関する指針も3月に改定され、5月には厚生労働省から全国の都道府県や医師会に向けて実施の通知があった)。
 オンライン診療を実施する病院が、巡回医療の一環として郵便局での診療計画を、管轄の保健所への届出をすれば、実施できる。糖尿病や高血圧症など慢性疾患で、症状が安定している患者を対象にしており、初診や急患など診察を必要とするケースは利用できない。
 石川県には、能登地区や加賀地区などの地区が無医地区や無医地区に準じる地域となっている。バスや鉄道などの公共交通機関も本数が少なく、医療機関までの交通手段が課題になっている。
 スマホを活用したオンライン診療もあるが、クレジットカードでの決済が必要になるので、スマホが苦手でクレジットカードを持っていない高齢者は利用が難しい。
 南大吞郵便局のオンライン診療には、七尾市の「ねがみみらいクリニック」(根上昌子院長)に通う南大呑地区に住む人の患者が参加した。郵便局までは、徒歩や市が運営する日時や場所を予約できるデマンドバスを利用するという。
 現状では、南大吞地区内から同クリニックまでは車で20~30分かかる。根上院長は「バスや友人の車などを工面して来てくださっています」と話す。
 郵便局にはオンライン診療を行う「テレキューブ」(V―CUBE社製、幅2.4メートル、奥行1.2メートル、高さ2.3メートル/テレワーク用をオンライン診療に改良したもの)というボックスが設置され、この日は予約をしていた2人が診療を受けた。閉めれば音が外に漏れない仕組みでカーテンもあるため、プライバシーを気にせず安心して診療と服薬指導が受けられる。
 郵便局の社員が健康保険証を確認後、診療を受ける。システムは、ログインして画面の診療と服薬指導のサービスを選ぶというシンプルなものだが、設定がわからない場合は、画面上で医師と繋がるまで社員がサポートしてくれる。
 服薬指導までが終わると、処方箋が薬局に届き、レターパックで翌日には自宅に配送される。診療代や薬などの支払は払込票を使い、現金で支払う。
 南大吞郵便局は2人局だが、池岡局長は「それほど混まないので、サポートと郵便局の業務の両立には問題ない」と言う。
 この日は事業開始セレモニーが行われ、北陸支社の加納聡支社長、石川県能登地区連絡会の立川尚人副統括局長(和倉温泉)、池岡局長、総務省の菱田光洋北陸総合通信局長、石川県の柚森直弘健康福祉部長(知事代理)、七尾市の谷一勝信健康福祉部長(市長代理)、七尾市医師会の佐原博之さはらファミリークリニック院長(日本医師会常任理事)らが出席。あいさつやテープカットが行われた。
 主催した菱田北陸総合通信局長は「郵便局を活用したオンライン診療を使い、近くに診療機関がない地域の方にも地域医療の機会を提供することで、地域医療の発展に貢献できる。実証での課題を踏まえ、本サービスを近いうちに実現し、日本全国に広がることを期待している」とあいさつ。
 加納支社長は「オンライン診療の先駆的役割を果たすのはうれしく思う半面、住民の期待にしっかりと応えなければならない。郵便局窓口のセキュリティで大丈夫かという疑問もあった。池岡局長からは住民の力になれるならできるだけのことはする、という力強い言葉をもらった。全国展開のモデルケースになることが我々の仕事。事業展開があるのなら、できることは行いたい」と述べた。
 構想段階から関わってきた佐原院長は「僻地や離島に暮らす高齢者は、ICTに不慣れな方も多く、オンライン診療が実施できていないのが実状。対面診療の補完として、隔月程度のオンライン診療が目的。大きな制限があり、いつでも切り替えられる環境で慎重に進めていかなければならない」とその活用について話す。この事業に助言をしていた自見英子地方創生担当大臣(参院議員、医師)の祝電も披露された。
 この後、ねがみみらいクリニックの根上昌子医院長に対して、オンラインでの記者からの質問があった。以下、その内容。
 ■オンライン診療で感じていることは。
 この地域のバスは本数も少なく、友人にお願いして車で来るなど何とか工面して来院している。高齢者で車を手放し、冬はクリニックまで来られない人も多い。郵便局で対応してもらえるのはとても助かる。
 ■オンライン診療のメリット、デメリットは。(通信文化新報)
 オンライン診療は、対面での診療とは違い、聴診器を使うことも触診もできないため、情報が少ないのがデメリットだが、病院での診断が必要かどうかの判断材料にはなる。上手に使えば、デメリットをメリットに変えられる。
 ■郵便局での診療の課題は。
 初めてのことなので、郵便局とクリニックのコミュニケーションが密にできるかどうかが課題だと思う。
 ■患者さんにお願いしたいことは。
 ご自身の血圧を普段から測ってもらい、受診の時に数値を伝えてもらいたい。
 ■オンライン診療には医療機関の協力が必要ですが、協力を得るための医療機関の条件などは。(通信文化新報)
 郵便局のオンライン診療には期待している。全国の無医地区では、特に雪の多い所は、受診機関として役に立つと思う。
 条件として挙げるなら、個人情報に心配のない通信機器が揃っていること。オンラインと対面診療を取り交ぜられるよう、予約の時に工夫することも必要だと思う。


>戻る

ページTOPへ