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2024年06月03日 第7251号

【主な記事】

社会・地域課題の解決へ
日本郵政グループ ローカル共創イニシアティブ
郵便局が新ビジネスの拠点に


 日本郵政グループ主催の社会課題・地域課題を事例から学び可能性を探るカンファレンスイベントSocial CoーCreation Summit「Liquid 2024」が5月10日、東京・大手町本社ビルの前島ホールを会場とするほか、オンライン(Zoom)も活用したハイブリッド形式で開催された。


急激な人口減少や少子高齢化、気候変動などの社会課題の複雑性が増している中、日本郵政グループは、2022年4月から開始しているプロジェクト「ローカル共創イニシアティブ(LCI)」を通じ、協業による社会課題解決型の事業開発に挑戦している。
 LCIは、公募選出のグループ会社本社社員を2年間、地域で活躍するローカルベンチャー企業や自治体に派遣することによって、地域での新規ビジネスなどの創出を目指す制度。中期経営計画「JPビジョン2025」に掲げる、お客さまと地域を支える「共創プラットフォーム」を実現するための取り組みで、今年の4月には第3期が始動している。


 社会のすき間から未来を見る■■■
 開催のあいさつを行った日本郵政の砂山直輝執行役(事業共創部担当)は「イベントのテーマは『社会のすき間から未来を見る』。このようなイベントを通じて、社会のすき間から生まれてくる問題を、すき間なく、液体のように埋めていき、課題に取り組んでいきたいという願いが込められている」と開催の趣旨を説明するとともに、LCIについて改めて説明した。
 郵便局との関わりについては、「われわれの最大の資産である郵便局とどのように兼ね合わせれば、社会課題をビジネスとして解決できるのかという課題に日々取り組んでいる」とし、「LCIの取り組みは、企業の創意工夫と郵便局の基盤とを掛け合わせて初めて意味を持つ」と述べた。
 続いて、ジャーナリストの浜田敬子氏をモデレーターに、日本郵政の増田寬也社長、株式会社雨風太陽の高橋博之代表取締役、株式会社陽と人(ひとびと)の小林味愛代表取締役が登壇し、基調セッション「関係性から生まれる地域ビジネス」が行われた。
 基調セッションでは、LCIとして目指すビジョンも紐解きながら、「関係性から生まれる地域ビジネス」の意味と可能性について掘り下げられた。
 増田社長は、「全国にくまなく展開している郵便局が、すき間をきちんと埋めて、あるいは支えて世の中の役に立っていく。それをビジネスとして伍していけるかを探っていければと思っている」と述べた。
 小林、高橋両氏の事業紹介では、具体的な地域社会との関わり合いが報告された。
 福島県であんぽ柿の製造工程で廃棄される柿の皮を活用したビジネスを展開している小林氏は「デジタルだけではできないものは何だろうか。それは信頼だと思っている。信頼なくして、ミスマッチが解消できない分野が確実にあるのではないか」との仮説を披露し、「ローカルトラストエコノミー」を提唱した。
 2016年に生産者と消費者を直接つなぐスマホアプリ「ポケットマルシェ」を開始した高橋氏は、過疎の問題を地域との関係で歴史的に説明し、地方と都市あるいは、生産者と消費者の関係性を掘り下げた。
 増田社長は、「小さなことをいかにビジネス化するかがセッションのタイトルだが、ビジネスにすると責任が伴うことになる。責任を担うので、きちんと続けて行く、収益だけ追求するのではなく、小さなことでも、少しでも工夫をして続けて行くことがモチベーションに繋がるのではないか」と語った。



 異質な世界と交わる機会を■■■■■■
 モデレーターの浜田氏は、「地域の信頼を得ている郵便局が、新たなビジネスの起点となり、ハブのような存在として様々なプレイヤーを巻き込むためには、あるいはすき間を埋めるためには、どうすれば良いのか」と問い掛けた。
 高橋氏は、「同じ人と顔を合わせていたら、新しいアイデアは沸いてこない。異質な世界と交わる機会を作れるかどうかが非常に大事だと思う」と述べた。
 LCIから日本郵政グループ社員を受け入れている小林氏は、「郵便局がどのような役割を果たしていたかを勉強した時のこと。インターネットが無かった時代に、郵便局は知識と情報をすべての家庭に平等に渡す役割を果たして、国家とコミュニティを繋ぐ存在と書物に記されていた。全国に張り巡らされているネットワークの重要性に関して、利用者である私たちの意識の変化も重要と感じている」と語った。
 増田社長は、右肩上がりの成長を享受した時代とデフレになってからの時代の事業変遷を述べたうえで、支社の重要性に言及した。「地方創生の場合は、可能な限り判断を支社単位でできるようにしていかなければならない。本社直轄ではうまくいかないと思う。LCI出身者の人材の厚みが増して、支社で活動できるようになれば、現場の臨機応変で柔軟な対応ができてくる。連携を模索する事業者との意思疎通や地域のコミュニティとの活動がさらに厚みを増してくると思っている」。
 


 局長・社員のデータ地域に役立てる■■
 高橋氏と小林氏は、被災した能登の状況を考察したうえで、東日本大震災の被災地を顧みながら、日本の未来の在り方を論じた。
 増田社長は、今国会で法案を提出する予定の二地域居住促進について触れ、「多地域居住はもちろん、関係人口も含めて考えなければならないように、時代は変わってきている」と語った。モデレーターの浜田氏から関係人口について意見を求められた高橋氏も、二地域居住・多拠点の意義を強調した。
 小林氏は関係人口に関して、「本当は関わりたいのだけれど、私たちが見過ごしている人たちがいっぱいいるのではないだろうか。例えば2時間しか働けない人、子育て中の人、不登校の人などとも関わりを持つことが地域の中でもできることなのではないか」としたうえで「そこに郵便局にも関わってもらい、お互いを知るきっかけになれば」と語った。
 増田社長は、「これからは、地域全域を知っているのは郵便局以外に残らないと思う。局長や社員の頭に入っているデータをどれだけ地域のために役立てるかが重要になる」と述べた。
 その後は、4つのテーマセッション(①「共助」『ローカルコープ~地域の生き残り戦略~』:今井吉則局長(月ヶ瀬)・日本郵便事業共創部の光保謙治係長ほか②「場」『新しい地域のインフラ~郵便局の新しい活かし方から地域の未来像を描く~』:日本郵便総務・人事部の梶恵理課長ほか③「食」『地域の豊かな食文化を支える新しい産業の在り方』④「空き家」『空き家を社会課題から地域におけるポジティブな資産への転換~最新の事例から見えるシステムとしての可能性~』:立川尚人局長(和倉温泉)・日本郵便地方創生推進部の木下翔太郎主任ほか〈モデレーター〉日本郵政事業共創部の多田進也マネジャー)が開催された。
 クロージングセッションでは、各セッション登壇者から、議論されたことや生まれた共創の種についての発表・共有が行われた。


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