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2024年06月10日 第7252・7253合併号

【主な記事】

奥野総一郎衆議院議員 郵便局の公共サービスを強化
厳しい郵政事業の現状 
経営自由度は制限、コスト負担は増


 立憲民主党の奥野総一郎衆議院議員は1989年に郵政省(総務省)へ入省、日本郵政公社法の立案者として国会答弁などを書いた経験がある。2009年の総選挙に民主党公認で出馬して初当選を果たした。2010年に民主党政権が提出した郵政改革法について賛成討論を行っている。郵政事業の現状や民営化法改正などについて奥野議員に聞いた。(坪内隆彦)


 ■5月15日に日本郵政グループの3月期決算が発表されました。会見で増田寛也社長は「日本郵便の業績は大変厳しい」と述べています。
 郵便事業は危機的な状況にあると認識しています。私は毎年、千葉中央郵便局で行われる年賀郵便元旦配達出発式に出席させていただいていますが、残念ながら年賀はがきの発行枚数は急速に減っています。近年は、毎年およそ2億枚ずつ減少しています。5月に郵便料金の値上げが決まりましたが、このままでは再び値上げが必要な状況に追い込まれるでしょう。
 一方、かんぽ生命保険も厳しい状況にあると考えています。新型コロナウイルス感染症に係る保険金支払が減ったため経常利益は上がっていますが、かんぽ生命の保有契約数は減っています。ピークだった1996年度には約8400万件ありましたが、3月末時点の保有契約数は1970万件まで減っています。
 一見すると、現在の日本郵政グループの状況は切羽詰まったようには見えませんが、実は時限爆弾を抱えているようなものです。やがて郵便事業は立ちいかなくなり、このままではかんぽもいずれ赤字になりかねません。ゆうちょ銀行が一本足で支えているような危険な状況だと認識しています。
 ■民営化後の日本郵政グループの事業展開をどう評価していますか。
 私は、郵政事業が国営だった1989年に郵政省(総務省)へ入省しました。郵政事業は、日本郵政公社法に基づいて、2003年4月に日本郵政公社に移行しましたが、私は日本郵政公社法の立案者として国会答弁などを書きました。その際、公社という事業形態のメリットとして「国営の事業でありながら経営の自由度を享受できること」を挙げました。
 郵政民営化の際には、公社を民営化すれば経営の自由度はさらに高まると喧伝されていましたが、民営化によって経営の自由度はむしろ狭まりました。ゆうちょ銀行とかんぽ生命に上乗せ規制が課されることになったからです。
 しかも、民営化によって、公社時代に非課税だった税金を負担しなければならなくなりました。ゆうちょ銀行は民間の銀行と同じように預金保険機構に保険料を納めなければならなくなりました。つまり、コストは民間企業並みに拡大したにもかかわらず、経営の自由度は民間企業より著しく制限されているということです。
 非常に厳しい状況にある郵便事業を支えるために、金融2社が自由に経営し、利益を拡大しなければならないにもかかわらず、それが縛られたままだという点が最大の問題だと思います。
 また、民営化の際には「経営の自由度が増し、不動産事業や国際物流事業でも発展できる」といったバラ色の未来が描かれていました。日本郵政はドイツポストがDHLを買収したのを真似てオーストラリアの物流大手トールを買収しましたが、失敗に終わりました。
 ドライバーの不足をはじめ、我が国の物流がさまざまな課題に直面する中で、日本郵便は国内の物流ネットワークの強みを発揮すべきだと思います。日本郵便と西濃運輸が長距離路線の共同輸送に乗り出しましたが、日本郵便には幹線輸送についての物流の効率化を推進してもらいたいと思います。他社に先駆けて、幹線での自動運転輸送システムの開発を進めてもいいかもしれません。また、ラストワンマイルの配送を日本郵便が一手に引き受けてもいいのではないでしょうか。
 ■金融2社は経営の自由を奪われたまま、利益を拡大することを求められています。
 かんぽ生命の不祥事の背景にも民営化の悪い影響があったと思います。かんぽ生命は、上乗せ規制を受けているために、自由に良い商品を開発することができません。ところが、社員はノルマを達成しなければいけないというプレッシャーを受けています。そのことが不適切営業につながったのだと思います。(2面につづく)


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