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2024年06月10日 第7252・7253合併号

【主な記事】

民営化以降の最高益を
笠間ゆうちょ銀行社長 25年度に実現

笠間社長


 ゆうちょ銀行の笠間貴之社長は、5月29日に東京・大手町のサンケイプラザホールで開催された「ゆうちょシンポジウム」で講演し、中期経営計画の見直しを踏まえた将来のビジネス展開について発表した。
 見直し後の中計財務目標では、3期連続での上場来最高益、25年度には民営化以降の最高益4000億円を目指す。次期中計の早い時期に5000億円規模(ROE5%以上)の達成を目指す考えだ。クレジット資産やリスク性資産からの収益増加に加え、国内金利の上昇トレンドへの転換をとらえた日本国債等の円金利ポートフォリオからの収益増加により実現を図る。
 財務目標を達成するための成長戦略として、見直し後中計の3つのビジネス戦略「リテールビジネス」「マーケットビジネス」「Σビジネス」に取り組む。
 第1のエンジン「リテールビジネス」ではリアルとデジタルの相互補完戦略の加速がキーワードとなる。具体的なビジネス戦略としては、デジタルサービス戦略、資産形成戦略を推進する。リテールビジネスの足元を見ると、23年度の役務取引等利益は1530億円であり、この8年間で618億円(約68%)増加した。リアルとデジタルの要である、ゆうちょ通帳アプリ登録口座数は3月現在で1040万口座に達し、前年比295万口座の増加となった。
 デジタルサービス戦略=「未登録口座数はまだまだ多く、さらなる開拓の余地がある。対策としては、アプリの操作性や使い勝手の向上を図りながら、全国の郵便局で通帳アプリの利便性をアピールしユーザー数の一層の拡大を図る。これがリアルからデジタルの流れだ」と述べた。登録口座数は25年度末に1600万、28年度までに2500万口座を目指す。通帳アプリのプッシュ通知等を通じて、利用者に適切なサービスを案内することにより、新たな収益機会を開拓する。
 具体的には、多様なパートナー企業と連携し、銀行の枠を超えた多様な商品・サービスを案内するほか、郵便局で地域の特色を活かしたイベントやセミナーなどを企画・開催し、通帳アプリで案内する。
 資産形成サポートビジネス戦略=新NISA開始によりデジタル取引に対するニーズが高まっていることを踏まえ、デジタルチャネルの充実・シフトを進める。全国2万の郵便局で受付ができる強みを活かし、リアルとデジタルを融合した独自の販売体制を強化する。
 具体的には全国の郵便局と資産形成の専門チームを配置する金融コンタクトセンターをリモートで接続し、身近な郵便局で専門的なサービスを提供できる体制を整備する。窓口チャネルで投資への機会を提供しながら、便利なリモートチャネルへの案内を強化していく。こうした取り組みを通じてNISA口座数を25年度末で94万口座、27年度末には120万口座まで拡大し、銀行界のトップを目指す。
 第2のエンジン「マーケットビジネス」では、円金利資産とリスク性資産を組み合わせた最適な運用ポートフォリオを追求する。国内で長期間超低金利が続く中、ゆうちょ銀行は運用のパラダイムシフトと銘打って日本国債からリスク性資産への投資を進めてきた。一方日銀の金融政策の変更を受けて国内金利が上昇トレンドに転じたので、今後は日本国債への投資も積極的に進めていく方針。円金利資産とリスク性資産の最適な組み合わせを通じて、資金収支等の拡大を目指す。具体的には資金収支等は23年度が1兆2678億円だったが、24年度は1兆3100億円程度、25年度は1兆3550億円程度と着実な拡大を予想する。
 円金利ポートフォリオの再構築により日本国債への投資を積極的に進めていくのと並行して、リスク性資産残高には引き続き残高を積み上げていく。見直し後の中計では25年度末のリスク性資産残高が114兆円、戦略投資領域残高は14兆円までの拡大を目指す。
 第3のエンジン「Σビジネス」は、22年度に新しいビジネスとして立ち上げた。今年度からGP業務を通じた社会と地域の未来を創る法人ビジネスとして本格始動のフェーズに入った。中計見直しでは、ゆうちょ銀行らしいGP業務の特徴を明確化し、「地域金融機関等と共創」「全国津々浦々のネットワークを有効に活用しきめ細かく資金ニーズを発掘」「中長期的な目線で資本性資金を供給」「投資先の成長、課題解決に向けて伴走して支援」の4点に整理。
 今後は、ゆうちょらしいGP業務を進める中核企業として5月に新設した「ゆうちょキャピタルパートナーズ」を中核として地域と社会の発展のための共創プラットフォームを実現し、事業承継、事業再生投資、ベンチャー投資、ESG投資などに取り組む。同時に全国にネットワークを有する強みを生かし、投資先の候補となる企業を探すソーシング業務や投資先企業のマーケティング支援業務も本格的に始動する。
 Σビジネスの定量的な目標は、次期中計以降に1兆円規模の投資確約に挑戦することを掲げており、今回の中計の見直しでは25年度末のGP業務関連投資残高は投資確約ベースで4000億円程度を目指す方針。「ただし残高目標ありきではなく、Σビジネスの目的に資する投資実績の着実な積み上げが最重要」と述べ「Σビジネスでは未公開株式への投資という性質上、すぐに利益が出ることは想定していない。将来的にリテールビジネス、マーケットビジネスに続く収益基盤となるようしっかり着実に進めていく」と展望を語った。
 「Σビジネス推進の最も重要なポイントのひとつは社会と地域の発展のための共創プラットフォームを実現することにある」と述べ、Σビジネスの投資ビークルの整備・発展について解説した。


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