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2024年06月24日 第7254号

【主な記事】

能登半島地震から半年 今なお大きな爪痕
想定外の方角から津波

全焼した朝市。まるで廃墟のようだった(輪島市)


 死者・行方不明者・負傷者1465人、住家被害8万1712棟、非住家被害2万5677棟の多大な犠牲(6月4日現在)が出た能登半島地震。発生した1月1日から半年が経過した今でも、被災地に大きな爪痕を残している。今、能登半島地震の被害はどうなっているのか。5月下旬に石川県能登地区郵便局長会(坂口高雅会長/町野)の協力を得て、被災の状況を取材した。=関連記事2面=


 能登半島は、富山湾を望む内浦(うちうら)と、日本海側の外浦(そとうら)に大別される。外浦は、海岸が隆起したため、津波の被害が少なかったのに対して、内浦の被害が大きかった。
 
 崩れ落ちた見附島
 
 珠洲市南側の能登内浦線(県道35号)沿いにある白丸郵便局(大形格局長/能登町)は、海岸から20メートルほどの場所に局舎を構えるが、津波でガラス窓全面を海に持っていかれたという。まったく想定しなかった方角から海水が局舎を襲った。それほど津波の波状が複雑で強かった証拠だろう。
 地元有力紙の北國新聞社は1月14日、珠洲市宝立町鵜飼の石川県天然記念物・名勝「見附(みつけ)島」が、揺れと津波で南東側が崩れ落ち、ほぼ半分になったと報じた。宝立町には高さ4メートルを超える津波が来襲したとされている。
 石川県能登地区郵便局長会の橋爪聰司理事(西保)とともに日曜日の昼に見附島を訪れたが、県内屈指の観光名所にも人影はなく、寂しさが漂った。
 橋爪理事は「小さなころから、石作りの通路で海を渡り、見附島に遊びに行ったものですが、その通路も沈んでしまったようです。家族での思い出が詰まった場所だったのですが・・・」と話す。
 
 目を覆う宅地被害
 
 内浦が受けた被害は津波の被害ばかりではない。同じ宝立町鵜飼地区での地震の被害は目を覆うものがあった。道路沿いには、崩壊した住宅が並び、残骸が積まれている。ここには宝立郵便局(長岡健一局長)がある。
 内浦にある三崎郵便局(上野裕義局長)でも津波の被害があった。県道を挟んで海に面しながらも、海抜4メートルほどの場所にある。それでも津波が局舎を襲った。
 奥能登の輪島市白米町には、日本の棚田百選、国指定文化財名勝に指定され、奥能登を代表する観光スポット「白米千枚田」がある。日本海に面し、小さな田が重なり海岸まで続く絶景で名高い。千枚田も、クラウドファンディングで修繕費を募っているほど大きな損害を受けた。
 
 海岸線に道路を新設
 
 千枚田の前にあり、珠洲市から海沿いに通る国道249号は、一部が土砂崩れで道路が数百メートルにわたって崩壊してしまった。
 このため、海岸が隆起して現れた土地に新たに道路を整備し、交通網遮断を回避した。つまり、以前は海だったところに道ができたということになる。
 道路の損壊・損傷は随所に見られた。車に乗っていて、平らな道路を通る方がむしろ珍しいことだった。市道や県道や国道にも関わらず、凸凹のままで揺れがひどく車酔いしかねない状態だ。また、損壊した道路を補修している最中で、片側車線通行の箇所が数えきれないほどあった。
 発災当時は、隆起や亀裂などで車が通ることができず、道路が封鎖されたため、輪島市の坂口茂市長は自宅からヘリコプターで移動し役所に入り、陣頭指揮を執ったと言われている。修繕は少しずつだが進んでいるものの、生活道路として、観光道路として、あるいは物流道路として、機能を回復しているとは言い難い。
 
 壊滅した輪島朝市
 
 発災直後から被害の報道があった輪島朝市を訪れた。輪島朝市は千年以上の歴史を持つ由緒ある市場だ。しかし、火災で約300棟が全焼した。現地に到着してすぐに、以前に見たことがある焼夷弾で被弾した大戦時の映像を思い出した。人影もなく、ただ廃墟だけが佇んでいた。
 輪島市の海岸が4メートル隆起したため、水揚げができずに漁港が機能不全になっており、町の食堂に行っても「お魚が手軽に食べられなくなった」と話す市民が珍しくなかった。未だに多くの飲食店が休業状態で、食事する場所を探すのに苦労する来訪者は多い。
 町には人通りが疎らだった。市民に聞くと、「転出届けを出していない市民も多く、あくまでも感覚的なものですが、(約2万人の)人口が半分になっているように感じています」とのことだった。子どもの数が減り、若い世代が市外や県外へ2次避難しているという。「これから復興に向けて、若い働き手が必要なんですが・・・」
 
 上下水道修繕が課題
 
 5月30日付の北國新聞は、能登半島の断水は月末までにほぼ解消すると報道しながらも、「通水したエリアでも各住宅の配管が壊れて水が使えないケースがあり、修繕をどのように進めるかが課題となる」と報じた。
 家屋の一部損壊の場合でも、敷地内の上下水道の配管復旧で自己負担を与儀なくされる。建物の補修を含めると一千万円かかるとも言われている。住宅ローンを抱え家に住めなくなり、子育て中にも関わらず会社がなくなった若者が自己破産せざるを得ないケースも珍しくないという。
 空港に向かうタクシーの中で運転手さんと話をした。「輪島の朝市がなくなってしまい、本当に悲しく切ないです。あんなに市民や観光客に親しまれて、愛されていたのに。奥能登は食の宝庫でしたが、今では(特産品の)魚が食べられなくなるなど、観光客の皆さんに地域のすばらしさを堪能していただくことができなくなってしまいました」「(被災という)今までにない経験をしたことで、そこから学び、復旧・復興に向けて、昔の能登を取り戻したいと思います」 


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