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2024年08月05日 第7260号
【主な記事】2030年のドライバー不足36% コスト34%増 野村総研試算
物流で困らない社会 官民で協力を
野村総合研究所(NRI)はこのほど、「2024年以降も深刻化する物流危機」と題した調査結果を発表した。トラックドライバーは、2030年度には需要が供給を上回ることにより、推計で全国平均で36%不足するという結果。人手不足は輸送費の上昇をもたらし、他の産業の営業利益を押し下げる可能性があると予測している。
NRIの推計では、2030年度のトラックドライバー不足(供給不足が平均36%)は、賃金の上昇(2030年度には2022年度比で27%増)につながり、燃料費の上昇も加わり、輸送費全体では同34%増加する。
輸送費の増加は、「産業全体(製造業、卸売業、小売業)の営業利益を25%程度押し下げる可能性がある」と予測する。製造業は25%減、卸売業は26%減、小売業は23%減。
営業用ドライバー数は、2015年度から2020年度にかけて2.3万人増加したものの(貨物軽自動車運送事業者数が増加したことなどが要因)、推計では2030年度には2022年度比23%減の48万人。14万人も減少すると予測する。
地域別のドライバー不足の割合(需給ギャップ)は、秋田44%、長崎・青森が43%、高知・徳島が42%、山口・岩手・山形・福島・宮崎・鹿児島が41%、新潟・和歌山・鳥取・愛媛・佐賀・大分が40%、一番不足割合が少ないのは沖縄県の30%。
NRIは「何も手を打たなければ、現状の物流体制は維持できなくなる」と警告する。「2024年問題で物流が注目を集めている今こそ、抜本的な物流改革のチャンス」と輸送の共同化や作業の省人化・無人化、デジタル化による事務作業や労務管理の効率化、無駄な輸送の削減などの取り組みを推奨している。
共同輸配送は、競合する同業種間でも進んでいる。花王とライオンは2020年12月から関東と四国の拠点間往復輸送を開始した。塩野義製薬と小野薬品工業、田辺三菱製薬の3社は医療用薬品の保管と輸送を共同化している。食品では味の素やカゴメ、日清フーズ、ハウス食品グループなどが2016年4月から北海道で共同輸送を開始した。2019年1月からは九州にも拡大した。
共同輸配送を拡大させるには、共同輸送の相手を探す必要があり、物流の可視化とルールの整備が欠かせない。「他社が何をどこに運んでいるのか見えないのでどの企業に話を持っていけばよいのかわからない」「自社物流の可視化ができていないのでどの区間の連携が効果的なのかわからない」などの課題があるという。自社、他社共に、輸送の現状把握ができていないのが現状だ。
販売や在庫、輸配送データがバラバラになっており、連携に必要な荷物のデジタルデータが把握できない。データをデジタル化し一元化することで、需要予測や在庫の適正化、輸送ルートの最適化、積載の適正化が可能になる。NRIでは、「データの可視化が、物流問題解決の第一歩」とデジタル化の推進を強調する。
NRIの資料によると、アメリカでは2018年から、電子運行記録装置(ELD)の搭載が義務化され、ELDアプリから走行データが取得できるようになった。これにより、物流事業者が貨物と料金の情報を入力すると、それを見たドライバーが受諾の通知を出せばマッチングが成立するという仕組みが作られた。国の制度が後押しして、輸送の効率化が大きく進んだ。
高齢化や人口減少により2030年度にはドライバーが大きく不足する。物資が滞りなく届く今のような便利な生活は、何も手を打たなければできなくなる。必要物資がスケジュール通りに届かなければ、企業の業務運営も支障をきたす。
物流の2024年問題は4月に始まったばかりだが、ドライバーの働き方改革とCO₂削減目標により、共同輸送は業界の垣根を越えて進めざるを得ない課題となった。
アメリカでは、データの可視化を義務化することにより輸送の効率的なマッチングが可能になった。積載率の向上やCO₂削減につながる。日本は2030年に向けてどのような取り組みを進めて行ったらよいのか。
日本でも共同輸送のマッチングサービスは一部で提供しているところもあるが、民間だけでは規模も小さく限界がある。アメリカのようにデータの可視化を一気に進めるには、制度面での整備、官の力も必要になる。
人口減少や高齢化は、短期的には止めようがない。人手不足になるとはいえ、物流で困らない社会をどのように作っていくのか。ドライバーが約4割不足する(予測)までには、6年しかない。官民が協力し、スピード感をもって進めていかなければならない。(永見恵子)
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