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2024年10年07日 第7269号

【主な記事】

離島でオンライン診療
山口県柳井市 平郡郵便局で実証事業


 山口県柳井市の離島・平郡島にある「平郡郵便局」(棟居正樹局長)で、オンライン診療・服薬指導が9月17日から始まった。総務省の「郵便局等の公的地域基盤連携推進事業」の実証事業で、12月11日まで続けられる。離島の郵便局でのオンライン診療は初めて。
 オンライン診療・服薬指導は、平郡郵便局と柳井市内の周東総合病院・やない薬局をインターネット回線(暗号化してセキュリティを高めたVPNを使用。セコムのサーバーを経由する)でつなぎ、実施される。ビデオでの通話のほか、血圧データもリアルタイムで送れる。
 利用できるのは島の診療所で受診している比較的症状が安定している人。糖尿病や高血圧症など生活習慣病などを想定している。初診は受け付けない。
 平郡島には診療所が2つあり、周東総合病院(へき地医療拠点病院)から内科の医師が週に2回(東西の診療所に水曜日、木曜日の各1回ずつ)、派遣されている。島民は8月末現在で、223人、高齢化率は76%。2021年に島民が300人を切ったことから、常駐していた医師が通いとなり、週4日だった診療日数が半減した。住民からは「診療機会が少ない」という不満の声が市に寄せられているという。
 柳井市がオンライン診療の実証事業に協力した背景には「対面とオンラインを効果的に組み合わせながら、診療体制を維持していく」という市の意向がある。特に診療所には薬剤師がおらず、オンラインにより専門知識を持った薬剤師に服薬指導をしてもらえるのがメリット。診療所では、扱っている薬の種類が少ない。薬の説明や飲み方、飲み合わせ、薬の変更などの相談にも応じてもらえる。
 オンライン診療は毎週、月曜日に2時間程度行われる。同実証事業開始に当たり、同局内では、空きスペースを活用し、専用の部屋が作られた。ドアと壁で仕切られているため、プライバシーは確保できる。医師との診療後は処方箋が薬局に送られ、薬は翌日、または翌々日にはレターパックで自宅に配送される。
 この日オンライン診療を受けた利用者(52歳・女性)は「いつも看ていただいている先生なので、私は話しやすい。先生が来られない日にオンライン診療が受けられるので安心できる。病院に行くのを我慢している人も気軽に受けられるのではないかと思う。ただ、私より高齢の人は、パソコン画面を通じて話をするのに慣れていないので、いつも通りの受け答えができないかもしれない。違和感がないよう、対面と合わせて利用し、少しずつ慣れるようにしていくことが大事だと思う」と感想を話す。
 同日、開始セレモニーが行われ、総務省中国総合通信局の東政幸総務部長(局長の代理)、山口県の石丸泰隆・健康福祉部次長(部長の代理)、柳井市の井原健太郎市長、山口県立総合医療センターへき地医療支援センターの原田昌範センター長、厚生農業協同組合連合会の大亀浩司理事長、日本郵便中国支社の砂孝治支社長ら関係者が出席。あいさつやテープカットが行われた。
 東総務部長は「船便の運航は天候に左右される。郵便局のオンライン診療は、住民が安心して医療が受けられる場の一つと成り得る。柳井市がモデルケースとなり、全国に広がることを期待している」、砂支社長は「平郡島の皆さまがより便利で安心して暮らせることに貢献したい。平郡郵便局を安心の拠点として利用していただけるようお願いしたい」とあいさつした。
 井原市長は「平郡島は戦後間もなくの頃は、4000人近い人口だった。高齢化が進んでいる。1985年以降は、自治医科大の医師が常駐していたが、2019年10月には人口が300人を切り、2021年4月からは非常勤となった。島の課題解決を先導する事業となっていくことを願っている」、原田センター長は「郵便局が医療に加わることで、全国の隅々まで医療が届いていくことに大きく期待している。全国のへき地医療が充実していくことを祈念している」と述べた。
 全国郵便局長会柳井部会や柳井市医師会、柳井市薬剤師会、自見英子地方創生担当大臣から祝電が届いた。
 平郡島にはフェリーが1日2往復。柳井港からは1時間40分掛かる。急病の時は市が借り上げた漁船で、柳井市内の病院に運ばれる。緊急を要する時はドクターヘリが来ることになっている。
 へき地での郵便局のオンライン診療について原田センター長は、「郵便局は地域の方をよく知っている。お金の支払いや物流もある。郵便局の強みを生かし、大変な状況になっている医療が維持されることを期待している」と話す。実証事業後には利用者にアンケートを取り、効果や費用負担について意見を聞く。
 柳井市は2022年に総務省から「過疎地域の持続的発展の支援に関する特別措置法」に基づく過疎地域の指定を受けている。
 山口県内には21の有人島があり、診療所があるのは11島(非常勤医師のものを含む)。郵便局は10局(直営局6局、簡易局4局・1局は一時閉鎖中)ある。島民13世帯・18人(4月1日現在)の島に、1つの郵便局が設置されている所もある(上関町の八島簡易郵便局)。


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