「通信文化新報」特集記事詳細
2025年01月06日 第7282・7283合併号
【主な記事】新春インタビュー 日本郵便 千田 哲也社長
活き活き仕事ができる会社へ変革
改善の進捗を「見える化」
成長の大前提は「社員の力」
日本郵便の千田哲也社長は2023年6月の社長就任以降、社内で様々なプロジェクトチームを組成し、将来像とその実現に向けた成長ストーリーを策定し、中期経営計画の改訂版「JPビジョン2025+」に反映させる一方、フロントラインを精力的に回り、対話を深めながら、「社員の力」が発揮されるよう組織風土改革に取り組んできた。大きな戦略を描きながら、現場の声にも重きを置く千田社長に話を聞いた。
■明けましておめでとうございます。日本郵便の社長に就任され2年目の初春を迎えられました。改めて昨年(2024年)を振り返ってのご感想などを聴かせてください。特に昨年は郵便料金の値上げがありました。また、値上げ後初の年賀はがき販売となりました。郵便料金の改定に伴い、事業への影響等をどのように判断されていますか。また、年賀はがきは減少傾向がありますが、年賀状や手紙文化の振興についえのお考えを聴かせてください。
明けましておめでとうございます。2024年は震災、台風、猛暑と自然災害が多く発生し、また郵便料金の値上げ、非公開金融情報の不適切な取扱いなど、会社として大きな出来事もありましたが、社員の皆さんに大変な努力をしていただき、乗り越えた一年でした。
郵便料金の改定については、今後とも郵便サービスの安定的な提供を維持していくために、2024年10月に実施したものですが、お客さまからは様々なお声を頂戴しております。値上げの背景には、デジタル化の進展に伴う郵便物数の減少に加え、諸物価の高騰に伴い、人件費や燃料費等の営業費用が増加したことにより、2023年度の営業利益が▲896億円の赤字になったことが挙げられます。今回の郵便料金の改定により、2025年度の郵便事業の営業利益は黒字化すると見込んでいますが、郵便物の減少傾向が一時的に強まることも想定しております。
時代の流れの中で、郵便物の減少は避けられないと思いますが、SNSのような手軽で便利なツールがある時代だからこそ、時間や費用をかけて送る年賀状や手紙は、単なるコミュニケーションツールではない、贈り物のような特別な存在として、その価値が高まっていくのではないかと考えています。実際に手紙を受け取ってみると、差出人の想いが伝わり豊かな気持ちになれるものです。
今後も、手紙の持つ素晴らしい価値を体験できるきっかけを提供し、手紙文化の振興に向けて取り組みたいと考えています。
■就任以来、フロントラインを回り、対話を深められてきました。郵便局の現場からは、なかなかフロントラインの声が経営に届かないとの思いもあるように感じられます。現場からの信頼をいかに醸成していくか、風通しの良い組織づくりを含めて、改めてどのように取り組まれていますか。
私は、お客さまから選ばれ、会社が持続的に成長するための大前提(土台)は、「社員の力」であると考えています。しかし、いま、その「社員の力」が十分に発揮できているか、社員の皆さんが会社や経営を信頼し、誇りをもって働いているかと問われれば、そうではないと思います。社員が活き活きと仕事ができる会社に変革するため、2023年8月から、組織風土改革に取り組んでいます。組織風土改革においては、どんなことでも発言できる風土が基盤となるため、社内コミュニケーションの充実に向けた、3つの施策(①社長通信、②郵便局未来会議、③日本郵便目安箱)に取り組んでいます。
①社長通信:会社の経営方針や将来像をしっかりと社員に伝えることを目的に、第17号まで発信。
②未来会議:経営層がフロントラインを訪問し、将来像の実現に向けた各種改革を示し、意見交換することを目的に、第1回~第4回を全国各地で計約1700回開催。
③目安箱:会社の経営方針に対する疑問や日常の業務で直面する課題を、社員が社長に直接意見を届けられる仕組み(累計10000件を超える投稿意見)
しかし、「未来会議で社員と意見交換するだけ」、「目安箱で社員の声を集めるだけ」では意味がありません。社員が目の前の改善を実感できなければ、会社に対する信頼は生まれません。このため、大切なのは、社員の声を通じてフロントラインの課題を正しく認識し、その解決に向けてPDCAサイクルを回し続けることです。社員が改善や対応の進捗状況を実感できるように、分かりやすく「見える化」し、社員が「会社も変わった」と納得感を持ちながら仕事ができる環境を整備します。経営層とフロントラインが一体となって、同じ方向に向かって取り組んでいけるよう、情報・コミュニケーション改革をさらに進めていきます。
■「成長ステージへの転換」を目指した「JPビジョン2025+」が策定されています。対象期間は2025年度ですが、現在の成果、さらに今後の展望について聴かせてください。
2023年6月に、日本郵便の社長に就任して以降、社内で様々なプロジェクトチームを組成し、将来像とその実現に向けた成長ストーリーを策定し、「JPビジョン2025+」には、その内容を反映しました。郵便・物流事業については、当社の強みが活かせる「小型荷物を中心に荷物収益の拡大」を目指し、他企業との協業や法人営業の強化を進めてまいりました。また、オペレーション面でも、自動ルーティングシステムの全局配備などのDXを推進したほか、小型荷物の引受業務の簡素化等などの業務効率化を図っています。これらの取り組みに必要なのは、お客さま視点です。後段でお話しさせていただきますが、NPSを重要視して、お客さまの視点を持って、商品・サービスの改善や差出・受取利便性の向上、効率的で強靭なオペレーションの実現に向けて、今後も、引き続き取り組みを進めます。
郵便局窓口事業については、「収益力の向上」「郵便局の価値・魅力の向上」「サービス品質の向上」を図り、お客さまに選んでいただける事業への成長を目指しています。お客さまに選ばれる会社になるためには、社員がお客さまとの信頼関係を築くことが重要になります。2024年度は、お客さまから信頼される社員を育成するために、CPT(コンサルティングパートナー)を創設しました。CPTも活用しながら、お客さまから信頼される社員を育成し、お客さまから選ばれる会社を築いていきます。
また、DXの推進等によるUXの向上を図る取り組みも行っています。お客さま体験価値の向上やグループ外にも広がる新しい価値の提供を実現するため、「ゆうびん ID」の名称を「ゆう ID」に変更し、2024年11月からは、郵便局の新しいポイント「ゆうゆうポイント」サービスを提供しました。
今後は各施策等を行うだけではなく、実施後のお客さまの反応やオペレーションの実態等を把握・見える化し、新たな課題を改善する、という「やりっぱなし」にしないサイクルを回すことを意識して取り組んでまいります。(2面につづく)
>戻る