「通信文化新報」特集記事詳細
2025年02月17日 第7288・7289合併号
【主な記事】
いんどう(犬童)周作全特相談役
超少子高齢社会の多様化する地域ニーズに応える郵便局へ
現場力を大事にする仕組みに
今夏の参議院議員通常選挙に、全国郵便局長会(末武晃会長)の組織内候補として立候補する、いんどう周作相談役が本紙のインタビューに応じた。いんどう相談役は、日本郵政グループの組織形態のあるべき姿は、地域の実情を最もよく理解している現場の郵便局長が地域ごとに異なる様々なニーズをきちんと拾い上げ、そのニーズに合ったサービスを提供できるかどうかという観点から考えるべきと強調する。また、総務省で情報流通振興課長やサイバーセキュリティ・情報化審議官を務めるなど、いんどう相談役は情報通信政策にも精通しており、生産年齢人口が減少し、あらゆる分野で人手不足が言われる中、地域の第1次産業をはじめ、2次産業・3次産業のデジタル化が進展していく流れに合わせ、ネット社会とリアル社会をつなぐ拠点として「地域の最後の砦」となった郵便局を活用する構想を練っている。また、デジタル技術を駆使して「匠の技」や「熟練者のスキル」を形式知化することで、郵便局を地域のものづくりの拠点として活用することも提唱する。そのためには、各省庁の垣根を越えて、相互に連携を強化してサービスを提供しなければ地域は守れないと指摘し、政治による調整力の重要性を強調する。
■郵政民営化法が成立した翌年の2006年にフランスから帰国され、総務省郵政行政局総務課課長補佐(統括補佐)に就任されています。民営化の状況をどのように見られていましたか。
私が一等書記官としてフランスに駐在していたのは2003年から2006年で、日本では民営化の議論の最中でした。そのため、与野党を問わず、国会議員の方々がフランスを訪問された際には、フランス政府高官との対談やラ・ポスト(国営公社)の視察を通じて、公社形態が望ましいとの考えを深めて頂き、帰国してもらいました。
残念ながら、その後、民営化法が成立してしまうのですが、2006年夏にフランスから帰国してから郵政行政を担当しました。民営化のスタート前後を郵政行政の立場から見てきたわけですが、民営化直後は、かんぽの宿の問題や東京中央郵便局の建て替えの問題が起きるなど、民営化に伴う混乱がしばらく続きました。
そうした中、郵便局の現場の人たちも、経営者の人たちも落ち着いて仕事ができないような状況でした。
改めて民営化後の18年間を振り返ると、その後も日本郵政グループはかんぽの不適正営業等のコンプライアンス上の問題への対応に追われ、本来の使命である、経営努力により事業を拡大することで郵便局ネットワークを維持し、そのネットワークを活用して地域のために貢献するということを十分に果たせていないのではないかという思いがあります。
このまま地域の住民のために様々なサービスを提供できる郵便局が立ちいかなくなってしまっては、地域、地域の住民の方々のくらしを守れなくなるという強い危機感を抱いています。
現行の民営化法では、地域のことを最も理解している現場の郵便局長の皆さんや郵便局社員の皆さんが地域に寄り添い、郵便局でどのようなサービスを提供すべきかを自分たちのイニシアティブで考えていける環境にはなっていないのではないかという思いもあります。このため、現行の民営化法を未来志向で、これからの時代に合わせて改正していく必要があると考えていますが、それは国営に戻すということではありません。
■2010年に廃案となった郵政改革法案作りにも携わっています。
元々、民営化法の体系が現場を重視したものになっているのかという疑問がありました。民営化の議論時においては公社を民営の会社にする、分社化すると組織面に重きがあり、細かい運用ルールまで整備する時間がなかったのではないかと思います。
例えば、民営化で、ゆうちょ銀行は銀行法などの金融法制のもとに置かれることになりました。民営化を行うにしても、これまでの郵便局が地域の住民の皆さんとの信頼関係の下に提供してきたサービスの歴史、目的や実態を踏まえておく必要があったと思います。
郵便貯金は都市銀行などの預金とはそもそも対象や性格が異なっています。しかしながら、民営化してもゆうちょ銀行は限度額等の規制が残る一方で、預金の世界の都市銀行と同じルールを求められたため、例えば、口座開設に当たって、本人確認のための書類が一律に求められるなど、住民の皆さんからはサービスの低下と批判されています。もう少し経過期間や特例措置などをきめ細かく整理しておくべきだったのではないかと思います。
これは他の金融機関とは実態が異なるにもかかわらず、民営化スタート時から他の金融機関と同じルールを適用してしまったためですが、最近でもクロスセルの問題も含め、様々な場面で生じてきているのではないかと思います。本来であれば、民営化がスタートするまでにルールのあり方について実態を踏まえてきめ細かく対応しておくべきだったのではないかと思います。
そもそも、全国に簡易局も含めて2万4000もある郵便局ネットワークですが、この人と人をつなぐネットワークがあったからこそ、これまでの郵政三事業は成り立っていたわけですから、民営化するにしても、現場を大事にするような仕組みにするため、どのような組織形態が最善かを考えるべきだと思っていました。
そのため、結果的には廃案になってしまいましたが、2010年に国会で審議された郵政改革法案では、現場に近い窓口会社がイニシアティブを取れるような経営形態にすべきだと考えていました。
そこで、5社体制を改め、「郵便局会社(窓口会社)」に「日本郵政」「郵便事業会社」を統合し、その傘下に「ゆうちょ銀行」と「かんぽ生命」をぶら下げる3社体制にするという案を作りました。
■昨年、自民党の「郵便局の新たな利活用を推進する議員連盟」(郵活連)が検討していた民営化法改正の素案には、日本郵政と日本郵便が合併して3社体制にすることが盛り込まれていましたが、この問題については時間をかけて検討することになりそうです。
重要なことは、地域毎に異なる多種多様な課題を現場で拾い上げ、その課題を解決するためのサービスを提供する仕組みにするためにはどうしたらいいか、また、これからそういうサービスを提供するためにも、どの分野も苦慮している人手不足の解消に向け、現場の実態をしっかり踏まえたデジタル化が進められる仕組みが必要です。
現場の郵便局長の皆さんたちと話していると、地域の課題やニーズを拾ってきても、なかなかそれができるような職場環境ではないという話をお聞きします。
こういった問題がすべて解決できるような仕組みとして、組織的に現場が中心の3社体制を組織面でも明確化する必要があるのではないかと思います。この問題については、しっかりと意見を言っていかなければならないと考えています。(2面につづく)
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