「通信文化新報」特集記事詳細
2025年03月03日 第7290号
【主な記事】
柘植芳文参議院議員 悲願の郵政法案の見直しに強い意欲を
諸外国は政府の関与が多数
フランス 業務提携で公共サービス
郵政の見直し法案を1月開会の通常国会へ議員立法として提出することが予定されている。郵政民営化から18年、改正郵政民営化法の成立から13年、郵政事業の確かな将来像を見据え、再度の改正が期待される。2013年の参院選に自民党公認で初当選を果した柘植芳文参議院議員は、「郵便局の新たな利活用を推進する議員連盟」(郵活連)の入会議員の拡大に力を注ぐなど郵政見直しに力を尽くしてきた。「国民を巻き込んだ政策は、時代を経て成果がどう上がっているのかを政治が責任を持って検証する必要がある。再度の改正法を成立させて一定の決着をつけたい。しかし、今回の改正で終わるわけではなく、2次、3次と時代に即した改正を重ね、国、地域住民のための完成度の高い制度にするべきだ」と強調する。昨年に外務副大臣として視察した各国の郵政事業の状況をはじめ法改正の意義などについて聞いた。
■総務副大臣に続き、昨年は外務副大臣を務められました。多くの国の要人との会談、また海外出張と多忙な日々を過ごされたことと思います。
総務副大臣はそれなりに予想していたことですが、外務副大臣は予想していませんでしたのでたいへん驚きました。議員を務めているうちに新しい分野の経験ができことは、たいへんありがたく感じました。
外務省は私が郵政出身だということで、外国訪問の際にはあいさつ原稿などに郵政の項目も入れてもらいました。また、かねてから「郵便は人と人とを繋ぐ虹の架け橋だ」と強調してきましたが、それは外務省が掲げているスローガンも同じでした。
「外交は人と人とのつながり」という思いを抱きながら、30か国ぐらいの外国大使館も訪れました。その際には必ず郵政事業の話をしました。そのため、相手の国の大使もきちんと調べていて、自国の郵政事情について説明してくれるので、郵政について貴重な情報交換ができました。
その中で強く感じたのは、いずれの国も万国郵便連合(UPU)に加盟していて、郵便が人と人とを繋ぐツールの一つであるという共通認識があるということです。また、どの国もUPU事務局長を務めている目時政彦さんの人柄を評価していて、目時さんの話題に発展することも少なくありませんでした。改めて、自分が郵政事業に携わることができたことに感謝するとともに、郵政事業がいかに大事な事業であるかを実感したわけです。
各国の郵政事業についての説明を聞いて感じたのは、切手に対する強い思いです。日本でも郵政省時代、切手は非常に大事なものでしたが、民営化されてからは切手に対する思いが希薄になっているのではないでしょうか。
外国では切手を非常に大事にしていて、国の歴史観を表現するような切手を積極的に作成しています。切手のプランナーの人たちの話を聞くと、彼らが非常に強い誇りを持って仕事をしていることが分かります。これは日本も見習う必要があると思います。楽しい切手や面白い切手を作ることも大事ですが、歴史観や郷土愛をにじませた切手をもう少し作ってもいいのではないかと思いました。外国では発行された切手を資料として揃えていて、それを見るとその国の歴史が分かるようになっています。
また、諸外国の郵政関係者から「日本の郵便のオペレーションは世界一だ」と非常に高い評価を受けました。これほど郵便局ネットワークが地域に張り巡らされている国は日本しかないのです。海外は日本のような郵便局ネットワークを持っていないので、配達に時間を要します。
さらに、日本の貯金制度にも非常に強い関心を持っていました。ODA(政府開発援助)などが減少する中で、開発途上国にとっては国の経済を強化する手段として貯金制度に注目しているのです。私が担当していた東南アジア、中南米、大洋州などは比較的に途上国が多く、彼らは非常に強い関心を抱いていると感じました。
ゆうちょ銀行には、各国から郵便貯金のような仕組みを導入したいという声が寄せられているそうです。そこで、郵便貯金制度を諸外国がどのように導入すべきか、総務省が検討していると聞いています。
このように、諸外国は日本の郵政事業を取り入れたいという希望を持っているので、郵便の分野は一つの大きな外交ツールだと信じて、諸外国との折衝に取り組ませていただきました。
また、海外の郵政事業を見ると、事業形態としては民間になっている国も少なくありませんが、政府が株式を100%保有している国が多く、政府が郵政事業に関与し、ある程度面倒を見ながらやっています。
■フランスなど日本の郵政事業の在り方に参考となる国が多くあります。
フランスのラ・ポストは非常に参考になると思っています。フランスの郵政は国とラ・ポストが業務提携し、5つの公共サービスを提供することで政府から収益を得ています。「郵便・小包のユニバーサルサービス」「郵便局ネットワークを通じた地域発展への貢献」「新聞などの運搬・配達」「銀行サービスの提供」などのサービスです。日本と異なり、ラ・ポストは傘下に金融機関も持っていますので、事業としてはやりやすい面があります。イタリアやスイスも同じような形態です。
また、フランス政府がラ・ポストの株式の90%を保有しているので、実質的には公社と何ら変わりません。いま6番目のサービスとして、過疎化への対応や高齢者に対する支援を包括的に提供しようとしています。これは日本の状況と全く同じです。
さらに大きな特徴は、地方自治体が全面的に協力していることです。市役所の中に郵便局があり、市長が郵便局長を務めているケースも少なくありません。地方自治体の首長や議員が、地域に郵便局を誘致しているのです。つまり郵便局と自治体、地域との連携が強固だということです。
■ラ・ポストは政府や自治体と密接な関係を維持し、財政的にも安定しているわけですね。
ラ・ポストは5つの公共サービスをきちんと履行すれば、その対価として政府からお金が入ってきます。一方、政府がほぼ株を保有していますので、きちんとサービスの提供を履行しているかを監視する機関が政府の中にあるのです。この監視委員会が履行状況をチェックして、合格点が出なければ対価も少なくなるという仕組みです。日本もこうした仕組みを参考にすべきだと思います。
郵政民営化委員会には民間の有識者が入っていて、3年に1回、郵政民営化の進捗状況について総合的な検証を行っています。その中では良い意見も出ています。ところが、郵政民営化委員会には日本郵政グループに対する勧告権も監督権もありません。日本郵政グループが国が関与する特殊会社である限り、郵政民営化委員会に少なくとも勧告権を与えるようにした方が良いと考えています。
日本郵政グループは大気に放たれた気球のようなもので、気球がどこに飛んでいっても誰も手をつけません。あっちに行ったり、こっちに行ったり、やがて穴が空いて落ちてしまうかもしれません。そうならないように、日本郵政グループに勧告する役割を果たし得るのが、現在の制度では郵政民営化委員会ではないかと思います。優れた民間の有識者が入っている郵政民営化委員会を有効に使わない手はありません。(2面につづく)
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