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2025年03月17日 第7292号

【主な記事】

金融2社株式保有
「当分の間」3分の1超
民営化法改正 郵便局ネット維持に交付金
「地域貢献基金」も創設

 自民党が郵政民営化法などの郵政関連法改正案の今通常国会への提出を目指し、党内調整を本格化させている。関連法改正の素案は、民営化後の郵政三事業の一体性の低下によるシナジー効果減退に対応し、日本郵政が保有するゆうちょ銀行とかんぽ生命保険の株式の処分について、現行法の「できる限り早期に」との文言を削除し、当分の間、ゆうちょ銀行とかんぽ生命の3分の1を超える株式を、それぞれ保有していなければならないものとしている。
 小泉純一郎政権下の2005年に成立した郵政民営化法は、2017年9月までに金融2社の株式を完全に売却することを義務付けていたが、2012年の法改正で「できる限り早期に」に修正されていた。
 また、郵政三事業の一体性を確保するために総務大臣の権限を強化する。素案は日本郵便株式会社法を改正し、日本郵便と金融2社との業務契約を現行の届け出制から認可制に変えるとしている。
 日本郵政株式会社法を改正し、日本郵政が日本郵便、ゆうちょ銀行、かんぽ生命に対して、必要な協議を求めることができるものとし、総務大臣はこの協議に関して必要な助言をすることができるものとする。
 一方、少子高齢化、人口減少、過疎化が進行する中で、公的基盤としての郵便局への期待が高まっている。こうした状況の変化に対応し、郵便局に公的地位を付与するため、日本郵便株式会社法を改正し、三事業の遂行に支障のない範囲内で行う「基盤的サービス提供義務」を本来業務に追加する。「基盤的サービス」には、これまで日本郵便が進めてきたオンライン診療のサポート、高齢者の見守り、買い物支援、備蓄物資の保管などが想定されている。
 さらに、日本郵便株式会社法を改正し、「郵便局を活用して行う地域住民の利便の増進に資する業務」のうち、地域住民の生活の維持のために必要であり、日本郵便以外による実施が困難である業務を「地域貢献業務」と位置づけ、本来業務遂行に支障のない範囲内で、できる限り実施するよう努めるものとしている。
 日本郵政株式会社法を改正し、日本郵政は、日本郵便が地域貢献業務を実施する場合に、日本郵便に地域貢献資金を交付する。地域貢献資金の財源として地域貢献基金を設け、日本郵政は金融2社の株式処分による利益金の全部または一部を基金に積み立てることとする。また、日本郵政は利益剰余金の一部を基金に積み立てることができるものとする。
 素案は、郵便局ネットワークの維持のため、独立行政法人郵便貯金簡易生命保険管理・郵便局ネットワーク支援機構が日本郵便に対して交付する交付金を拡充するとしている。財源として、政府保有の日本郵政株への配当(年間500~600億円)相当分と、権利消滅した旧郵便貯金の一部が想定されている。権利消滅した旧郵便貯金は2022年から2037年の16年間で2344億円と推計されている。
 自民党の「郵便局の新たな利活用を推進する議員連盟」(郵活連)が当初検討していた素案には、金融2社に対する上乗せ規制の緩和が盛り込まれていた。金融2社の子会社保有の制限については、日本郵政がそれぞれの会社の株式の2分の1以上を売却すれば規制を削除するとしていた。しかし、保険業界などからの反対意見を考慮し、「政府は、速やかに、移行期間中における規制の在り方について検討し、必要があると認めるときは、所要の措置を講ずるものとすること」との附則を盛り込むこととした。
 なお、金融2社の新規事業には金融庁長官と総務大臣の認可が必要だったが、かんぽ生命については2021年に日本郵政の保有割合が50%以下となったため、届け出制に変わった。2月には日本郵政がゆうちょ銀行の株式売却を発表、保有割合が50%以下となるため、届け出制に変わる。
 また、当初の素案に盛り込まれていた「日本郵政と日本郵便の合併」については、政府において有識者会議などを立ち上げ、精力的に検討することにした。
 ゆうちょ銀行とかんぽ生命の3分の1を超える株式を、当分の間、保有する義務については、3年ごとの検証の際に政府が見直しを行うこととした。
 さらに、当初の素案にあった日本郵政に対する外資規制の導入も見送られた。WTO(世界貿易機関)との関係で、海外から懸念の声が上がる可能性に配慮したものだ。
 昨年4月の郵活連総会で民営化法改正の方針が基本的に了承されたが、国会で「政治と金」が大きな議論となる中で、法案提出は見送られた。また、党内で素案の一部に異論が出たため、調整が進められていた。
 昨年10月の総選挙で自民党が示した公約(総合政策集2024)には、「郵政事業を取り巻く環境の変化に対応するため、郵便局による公共サービスを含む公的サービスの提供の本来業務化、郵便局ネットワーク維持のための新たな財政上の措置の創設」と書き込まれていた。
 自民党は党内調整を進めるとともに、野党との調整を急ぎ、議員立法として法案を提出することを目指している。


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