「通信文化新報」特集記事詳細
2025年12月1日 第7329号
【主な記事】
郵便局ネット軸に成長戦略
次期中期経営計画の骨子を発表
日本郵政の根岸一行社長は11月14日、東京・大手町のサンケイプラザで会見を開き、次期中期経営計画の主要施策(骨子)を発表した。「10~15年後の環境変化による日本郵政グループへの影響を踏まえ、将来の戦略を検討する必要がある」との認識のもと、グループとして長期的に目指す姿を描いたうえで、①郵便局ネットワークを軸に据えた②銀行業・生命保険業を中心とする―成長戦略を練っている段階にある。根岸社長は、「今後10~15年の長期的な社会経済環境の大きな変化を見据えたうえで、当社グループの当面3年間の主要課題をまとめた」と述べた。
経営の最重要課題に、コンプライアンス・ガバナンスの強化を位置付けたことについて、根岸社長は「日本郵政グループはこれまで、不適正募集事案等の不祥事の発生を踏まえて、再発防止に取り組んできた。内部通報制度の充実などで一定程度進んだ部分はあるが、依然として現場の実態把握や事前防止等が徹底できていない状況にある。従って、直近においても、点呼業務不備事案を含めて、信頼を大きく損なう状況が続いていることを経営陣一同が極めて重く受け止めている。こうした反省を踏まえて、今回もコンプライアンス・ガバナンスの強化を経営の最重要課題として位置付けた」と述べた。
続けて、「お客さま本位という経営理念の原点に立ち返って、私自身先頭に立ってグループあげて再発防止の徹底に努めてまいりたい。再発防止を徹底するには、指示の浸透や研修などに加えて、デジタル点呼などのシステム面およびグループ顧客管理基盤を整えることにより、各局で利用いただいたお客さまの情報などを管理するシステムのサポートも必要と考えている」と語った。
そして「2線(リスク管理・コンプライアンス部門)、3線(内部監査部門)の強化というだけではなくて、むしろ、郵便局を支援するような態勢の強化、中間管理組織の設置を行うことを考えている。こうして、これまでとは違うということが郵便局にも伝わる形で、取り組みを行うことによって、信頼回復に繋げていきたい」との考えを示した。
人口減少や高齢化の進行、地方の過疎化、デジタル化等の技術革新など、社会経済が変化する中で、郵便物の大幅な減少が今後予想される。人口減少に伴い、社員の採用なども非常に困難になってくることは明らかだ。こうした変化への対応が求められており、長期的な姿として、これまで掲げていた共創プラットフォームの進化をさせていく。
具体的には、「総合物流」「総合金融」「生活サポート」(他の企業が拠点を置かないような地方部における)の3つのプラットフォーム機能の強化を行うことにより、郵便局が地域の社会インフラとして機能する未来を目指して取り組んでいく。根岸社長は、「こうしたプラットフォームに加えて、不動産事業も合わせてグループとして魅力ある価値を生み出していきたいと考えている」と述べた。
次期中計の主要戦略①としては、まず総合物流企業への転換があげられる。これまでは、郵便や荷物のラストワンマイル領域を中心に取り組んできたが、トナミHD(M&A)およびロジスティードHD(資本業務提携)などのように、今後もM&Aなどを通じてロジスティクス事業=企業間物流に本格的に参入していく。これにより、国内物流、国際物流すべてを一気通貫で繋ぐサプライチェーンを構築し、顧客の多様なニーズに対応する態勢を強化する。
二つ目は、ラストワンマイル機能の強化・効率化。人口減少により、社員の確保も困難になる状況にあるため、機能強化や効率化を進める必要があると考えられる。現在集配の拠点が郵便を中心に全国で3千箇所あるが、これを再編し、区分の集中処理を行い、都市部においては、小規模な形で機能分散を推進する。好立地にある郵便局については、さらに不動産開発に活用できるようにしていく。根岸社長は、「地方部では、集配拠点を集約し、配送を効率化する。地方においては、他社の荷物を受託することも当然あり得ると思っている」との考えを示した。足もとでは、省力化投資などによって、要員配置の最適化などによる徹底したコスト削減について、社長をトップとした組織を設置して進めていく考えだ。
三つ目は、不動産事業。グループ保有の土地に加えて、グループ外の用地取得についても取り組む。これまでは、賃貸・運営中心のストック型ビジネスだったが、住宅の分譲や、ファンドなどを活用した回転型のフロービジネスの領域に事業を拡大し、収益の多角化を進めていく。ストックとフローを両輪とする総合デベロッパーへの転換を図り、将来的に業界トップ10入りを目指す。
四つ目は、郵便局を地域の生活サポート拠点にすること。郵便局窓口については、金融事業に加えて自治体からの事務受託をはじめ、地域ニーズに応じた買物・移動支援や医療など多様な面で、郵便局ネットワークを使い生活支援サービスができるような形とし、地域の生活サポートの拠点としての機能の強化を図っていく。地域事情に合わせ、半日休止等による柔軟な運営体制の構築やリモート技術・移動郵便局等の試行も活用した機能型の郵便局ネットワーク構築、需要変化や店舗施設の老朽等の課題解消に伴う郵便局の最適配置等により、生産性向上を実現していく。
五つ目は金融事業。ゆうちょ銀行、かんぽ生命保険、郵便局が連携し、総合金融プラットフォーマーを目指して行く。郵便局のリアルのチャンネルとゆうちょアプリなどに代表されるデジタルの強みを活かして、リアル×リモート×デジタルの多様なチャンネルを通じてサービスを提供していく。
主要戦略②には、銀行業・生命保険業を据えている。また、人的資本経営の推進・深化については、メンバーシップ型(先に人材を確保し、後から仕事を割り当てる雇用)からシンプルかつ職務を基軸とした総合的な新人事制度の導入を図る。DXについては主に、①新端末、JP社員マイページ等による事務フローの簡素化・効率化②グループ顧客管理基盤データにより各種手続きをワンストップ化③顧客データを活用し、グループ横断的に金融・生活サポートサービス提供―の3点が目玉となる。施策を加速させるために、日本郵政に「グループサービス戦略室」を設置する。
「郵便・物流事業は非常に厳しい状況にあるので、単なる対症療法としてではなく、長期的な視点に立った構造改革に取り組むことによって、持続的な成長を目指す。また、コンプライアンス・ガバナンスに取り組むことによって、信頼回復に努めてまいりたい」と述べた。具体的な経営目標や数値、施策の詳細については、来年5月に改めて中期経営計画の中で公表する。
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